2013 Fiscal Year Research-status Report
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24520840
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
松嶌 明男 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (20306210)
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Keywords | 論文集で論文を刊行 / フランス・モルビアン県立公文書館での国際情報交換 |
Research Abstract |
前期は、今回の研究計画の一環として、2012年4月に日仏会館で開催されたフランス革命シンポジウムで実施した、公共圏における礼拝に関する口頭発表について、研究を深化させた。具体的には、論文集として刊行するための作業を行った。発表者同士で共同研究を進め、議論を行い、新たな問題の発見とそれによる学説の進歩を達成した。単なる発表原稿の掲載ではなく、内容を更に深めた。全面的に改稿したため、独立した別個の論文となった。特に、礼拝の自由の基本原則が、1905年の公認宗教体制の破棄とライシテへの移行によって大きく変化させられていることは、議論によって得られた新たな認識として重要である。この論文集は2013年10月に出版の運びとなり、学術書不振の中でも好評を得てよく売れ、短期間で完売した。これは編者の山崎耕一氏と松浦義弘氏が、一般にも受け入れられる体裁と最先端の研究業績を両立させるという厳しい編集方針をとった成果である。この本の書評等は徐々に出つつあるが、学界においてもおおむね好評を得た。 後期は、河出書房新社の出版企画である図説ナポレオン(仮)の原稿執筆を優先課題とした。これは、本研究計画の主たる目的とは完全には一致しないが、研究成果を広く社会に公開する上では有益であると判断し、引き受けたものである。その準備のため、ナポレオン体制史に関する文献を広く渉猟し、知識を深めた。特に、経済史と軍事史に関しては、同時代の宗教活動の背景として新たな知見を得ることが多かった。それと平行して、フランスで入手した同時代史料の分析を進めた。その中で、革命期には、前年度に立案された宗教予算が、状況が一変した翌年度に執行される問題を認識した。 2014年3月の実施したモルビアン県立公文書館での現地実地調査では、公文書館員と情報交換しつつ、その問題も含めて多めに史料を閲覧し、説得的な仮説を得るに至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2012年開催のシンポジウムの成果を共同研究で深化させ、論文集として刊行する企画は、本研究計画の立案後に持ち上がったものであった。内容的には本研究計画に寄与するところが多いと判断し、積極的に参加した。実際に、共同研究における議論によって、重要な状況分析、特に20世紀に入ってからの宗教的自由の保障内容の変化について認識するに至ったことは、大きな成果であった。ただし、これはエフォート率の配分に影響せざるをえず、本来の聖具に関する研究業績の公表に向けた余力が失われ、それが遅れることになった。 また、河出書房新社の出版企画も、一般への研究業績の公表という意味で無視できない重要性を持つものである。ただ、これもエフォート率を設定した後に依頼された仕事であり、その調査と執筆は本研究計画にも間接的に寄与するものではあるが、かなり時間と労力をとられることになった。なお、現時点で草稿は完成しており、これから図版類の選定を順調に終えられれば、無事に2014年度中に刊行の運びとなる予定である。 また、個人的な問題であるが、実家で一人暮らしをしていた母を自宅に引き取ることになり、2013年の春に実家を引き払う作業を実施した。引っ越しに伴う一連の作業に加え、母の通院等に付き添う必要が生じたため、生活の中で研究に費やせる時間が予定よりも減少した。現在は母の健康も回復しつつあり、新しい生活環境にも慣れてきたため、2014年度は先年までの遅れを挽回して研究を強力に推進したい。
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Strategy for Future Research Activity |
革命期の教会改革の一つの軸である動産類の没収と国有化については、ブルターニュ地方4県での実地調査をほぼ終え、全容を把握する段階に至った。地域的な差異はさほど大きくなく、フランス革命という現象が発揮した地域社会に対する影響力の大きさを感じさせる。ただし、各地でイレギュラーな事態を記録する史料が少量とはいえ残存しており、それらを視野に入れた分析を行うことで、これまでの大づかみな方法論による定説を見直すことができるものと思われる。 現時点で特に注目しているのは、本研究計画の本筋からはややずれるが、現地での情報交換と史料調査の中で浮上してきた、売却された土地に関する境界紛争が県によって大きな違いがある点と、宗教予算の執行の問題である。 ナポレオン体制期に、ブルターニュ地方4県の中でモルビアン県だけが、他の3県と違う内容の宗教行政を執行する傾向にあることは判明していた。今回の調査で、同県では今日もなお革命期に没収されて売却された土地の境界に関する裁判が頻発しており、争いが絶えないことが分かった。これは教会財産の没収や売却に際して、当時のこの県のやり方に問題があったことを暗示している。モルビアン県の聖具類没収に関する調査で、他県とは異なる独特の状況が判明する可能性が高く、それを優先して進めるつもりである。 同時に、宗教予算の執行の問題についても、モルビアン県立公文書館での情報交換によって認識を深めた。1792年8月10日の革命で立憲王政は倒れるが、それで執行中の宗教予算までが雲散霧消したわけではない。翌1793年には、恐怖政治が高まって、既成宗教に対する迫害が激化したが、そこで執行中の宗教予算はまだそれほど革命が急進化する前の1792年中に策定されたものであった。ここで生じる一年間のずれを当時の革命勢力はどのように解消したのか。政府の宗教政策に影響する新要素として、補足的に研究に取り入れたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本務校で命じられた各種業務の影響で、まとまった日程で海外渡航を実施できる期間が、平成26年3月10日から26日までの期間しか確保できなかった。結果的に、その精算が年度内に終わらず、振込日は平成26年4月9日になってしまった。研究計画は予定通り昨年度中に実施されたが、事務処理の都合で年度内に全く予算執行が行われていないように見えるだけというのが実際である。 このようなことになるのは、北海道大学が一般の大学と異なる特殊なシステムを取っている影響である。本学では教員には夏季休暇がなく、学生の夏季休暇中にも教員に対して頻繁に業務が命じられる。結果的に、多くの教員が年度の切り替わりの時期に海外実地調査を行っている。北海道大学では、教職員には夏季休暇がないという体制が見直される可能性はないため、今後とも同様の時期に実地調査を行う予定であり、研究計画への影響は最小限に留めるよう努めている。 当初の研究計画通り、約二週間のフランス実地調査は先の3月に実施済みである。昨年度の予算は実際には既に執行されており、本年度に持ち越された残額はさほど多いものではない。本年度も当初予定通り、粛々と研究計画を実施し、与えられた研究費を有効に活用していきたい。
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