2012 Fiscal Year Research-status Report
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24530039
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka University of Economics |
Principal Investigator |
藤澤 宏樹 大阪経済大学, 経営学部, 准教授 (60310984)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 就学援助制度 / 社会権 / 憲法 / 社会保障法 / 生存権 / 教育を受ける権利 / 学校給食 / 韓国 |
Research Abstract |
今年度は、次の研究成果を出すことができた。 1 就学援助制度成立過程研究のうち、論文「学校保健法における就学援助規定の成立」大阪経大論集63巻4号(2012)を公表した。本論文は、私の就学援助制度研究のうち、就学援助規定成立過程を追った研究の第三作目である。本論文では、学校保健法における就学援助規定を追った。その結果、就学援助制度は成立当初から現物給付の存在を想定していたこと、健康を学力向上と同じくらい重要なものとみなしていたことがわかった。そこから制度の将来構想として、学校病領域の医療費を無償とするべきであることを示した。 2 これまでの研究成果に、科研費による成果を加えてまとめたものを、金沢大学博士(法学)請求論文としてまとめ、2013年3月、博士(法学)の学位を得た。論文表題は「教育費保障制度の法的研究~就学援助制度を中心に~」である。本論文は、就学援助制度をめぐる学説史および成立史研究を網羅しようと試み、そこから制度の特質を検討した。その結果、この制度は、金銭給付と現物給付の併用を想定した制度であること(「併用」特質)および、ここのニーズに対応可能な柔軟な制度設計がなされていたこと(「柔軟」特質)の二つの特質を抽出できた。そのうえで、憲法論としては、経済的事情で学校に通うことのできない状況というのは、子どもにとってきわめて過酷な状況であり、これは「人間の尊厳」にかかわることではないかとし、憲法上の根拠として憲法11条及び13条の重要性とこれら条文と社会権規定(憲法25、26条)との関連性をさらに深めるべきであるとした。 3 上の研究成果を公表する前に、福祉権理論研究会、福祉国家構想研究会、憲法・政治学研究会での報告を行い、研究会メンバーよりさまざまな示唆を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
学位論文をまとめることができた点で、研究成果の公表と言う点では、当初の計画以上に順調に進展しているといえる。なお、学位論文の概要については「研究実績の概要」欄を参照のこと。 また、文献収集も順調に進展している。韓国の最新事情のわかる文献を多数収集することができた。来年度以降の分析および再来年度の研究のまとめに向けての体制は整いつつある。 さらに、日本の教育支援法制の実施状況および実情視察も積極的におこなった。とりわけ、山梨県における視察(「タダゼミ」視察。経済的事情で塾に通うことのできない子どもへの支援をおこなう試み)は、全国的にも先進的なものであり、おおいに参考になった。 他方、韓国に足を運ぶことができなかった点では、やや遅れている。学内業務もあったとはいえ、残念である。 以上を総合的に見ると、おおむね順調に進展していると見てよい。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度は、韓国語文献の収集に力を入れ、翻訳作業を進展させていきたい。この作業により、日本ではあまり知られていない、韓国の給食支援制度、教育支援制度の概要および実態が明らかにされるものと思われる。現在のこと、慶尚南道の教育支援、京畿道の貧困児童支援制度、国民基礎生活保障制度に関する統計、韓国全国の教育統計年鑑等を入手することができている。その分析に力をさき、一つでも多く日本に紹介できるようにしたい。 また、日本の就学援助制度研究については、学位論文を下に、就学援助制度成立過程研究をこれまで以上に深めていきたい。とりわけ、1953年にいったん成立した教科書給与法が廃止されているが、この廃止の過程を調査したい。成立過程だけでなく、廃止の過程を調査することによって、制度研究の深まりが期待される。また、就学援助制度の縮小の動きについての視差を得ることができるのではないかと期待している。 さらに、国内の就学援助制度実施状況および教育(費)支援状況の実態について、聞き取り調査を重ねたい。今年度は、関西、関東、東北と、さまざまな地域の状況を調査し、この研究の客観性を高めたい。特に、東日本大審査以降の東北地方における就学援助制度の実施状況および教育支援制度の現状を調査してみたいと考えている。 このほか、韓国渡航も積極的に計画し実施に移したい。収集した文献の分析を下に、調査地を確定させていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次の4点に力を入れたい (1)韓国語文献収集:ひきつづき、韓国語文献の入手、分析に力を入れたい。 (2)日本国内の就学援助の状況の調査:前年度は山梨県、東京都に出向いた。今年度はさらに地域を広げたい。 (3)韓国渡航準備のための調査:渡航のため、国内の韓国研究者との交流を深め、情報を得たい。 (4)韓国調査:韓国における調査を実施したい。教育支援法制の動きを見極めながら、調査地を決定したい。
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