2012 Fiscal Year Research-status Report
事務管理再考―事務管理者の注意義務の類型的考察を中心として―
Project/Area Number |
24530098
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
塩原 真理子 東海大学, 法学部, 准教授 (30326003)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 事務管理 / 無償行為者の責任 |
Research Abstract |
事務管理の態様により事務管理行為を類型分けし、事務管理者の注意義務を検討するという研究課題の中で、平成24年度は、条文上一般の事務管理に対する特別規定が置かれている緊急事務管理者の責任につき検討した。国内の裁判例は見られないため、緊急事務管理として自己の職業に属する行為をした事務管理者の責任軽減の必要性という論点を扱ったドイツの裁判例の検討を出発点とした。この問題につき、「緊急事務管理者の責任軽減について」の表題で論文の執筆を終えた(平成25年7月発行の紀要に掲載予定)この研究は以下の点で意義のあるものであった。 ①わが国にも緊急事務管理者の責任を悪意又は重過失に制限する同趣旨の規定があるが、責任緩和の根拠をめぐる議論はみられず、ドイツでの規定の趣旨の理解自体、わが国の規定の趣旨、規定の趣旨に基づく責任緩和の必要性、また重過失の内容の検討に示唆を与えるものであった。 ②ドイツでは事務管理が職業行為に当たる場合には報酬請求権が付与されるという見解が有力であるため、職業的事務管理者への緊急事務管理の規定の適用可能性という論点の中で、無償性と責任緩和に関わる議論が行われている。この議論は、無償行為である事務管理一般の注意義務を考察する上でも参考になった。 ③さらにこの問題の検討の過程で、専門性と責任、請負型事務管理・委任型事務管理の区分という視点をあげる文献に触れ、事務管理行為を類型分けし、注意義務を設定するという最終目標に向けての手掛かりが得られた。 上記②の職業的事務管理者の有償性と責任緩和の拒絶という問題に関連して、事務管理者の報酬請求権の有無、その法律構成についての文献を収集することができたため、現在はその分析に当たっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題((1)事務管理により他人に損害を発生させた場合、行為者の注意義務は軽減されるべきか。(2)事務管理者に損害が発生した場合、費用+αの請求が認められるか)のうち、(1)について緊急事務管理者の注意義務の軽減根拠、無償性と責任緩和の関連性につき検討してきた。また、これに付随して、(2)の事務管理者の報酬請求権の有無、法律構成に関する文献の収集、分析を開始することができた。ここまでは、平成24年度後半と平成25年度前半に予定していた研究内容である。以上の検討内容について、論文を執筆し終えた点では予定より進展しているといえる(ただし、公表は平成25年度になる)。 他方で、現在のところ緊急事務管理をベースにした研究であるため、事務管理一般の注意義務の検討として不十分であり、無償性の実質(純粋な利他行為か不完全な利他行為か)との関係で注意義務を分析するというところまで至っていない。また、平成24年度にはドイツにおいて、公益団体で無償活動を行う者に労災保険が適用された事例の情報収集をする予定であったが実現できず、次年度に先送りした。 以上から当初の計画とは若干順序が入れ替わっているが、全体としては概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に緊急事務管理者の責任緩和について検討し、現在、事務管理者の責任について研究の途上ではあるが、事務管理者の無償性と責任の関係を検討する中で、事務管理者の報酬請求権の有無、その法律構成についての文献を収集、整理をはじめたため、研究の順序を変更する。平成25年度には、事務管理の効果として、事務管理者に費用+αの請求が認められるかという課題を検討する。 平成24年度の研究により、ドイツにおいては、事務管理者は損害賠償はもちろん、報酬請求権をももつという学説がさまざまな法律構成により主張されているという感触が得られた。報酬請求権と注意義務の程度の関係を検討するに当たっても、事務管理者に報酬請求権を認めようとする学説の是非を検討することは必要である。 また、日本国内においては事務管理者の損害賠償請求の有無と範囲が、報酬請求権以上に現実的問題となっているが、これを扱う裁判例は乏しい。この点についてもドイツの裁判例・学説の分析を行う。また、3月には、ボランティア活動中にボランティアに損害が発生し、労災保険が適用された事例をドイツにおいて収集する予定である。 ここまでの研究により、事務管理の態様に応じた報酬請求権や損害賠償請求権の有無という問題を明らかにした後、平成26年度には、それらの効果との関係で責任のあり方を検討する。特に無償性の実質(純粋な利他行為か不完全な利他行為か)と注意義務の程度の関係を中心に考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度、文献収集等を目的としたドイツへの出張費として40万円程度の支出を予定していたが、国内での研究を進め問題点を絞り、必要な文献を選択した上での出張を希望し、次年度に繰り延べた。そのため、出張旅費分と文献複写費等に繰越しが発生した。 次年度、ドイツと国内の裁判例・学説の分析、検討を行うため、昨年度の未使用額50万円程度は書籍の購入、文献複写に使用する予定である。洋書では債権法、ローマ法の概説書、和書では、事務管理に関連する書籍で絶版となっていたものを古書、あるいはOD版で購入する予定である。事務管理並びに委任の注意義務が善管注意義務であることについて、わが国、ドイツでの立法史上の議論を辿るため文献複写費も必要である。 本年度の研究費は海外出張費にあてる。公益団体で無償活動を行う者に労災保険が適用された事例の収集、国内で手に入らない事務管理関連の論文の収集を目的として、ドイツへの出張を予定している。またその際、電子辞書を購入する予定である。
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