2013 Fiscal Year Research-status Report
移民の流れの適正な管理と難民保護の両立の条件―EUの共通移民政策の分析
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24530115
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
中坂 恵美子 広島大学, 社会(科)学研究科, 教授 (20284127)
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Keywords | EU / イタリア / チュニジア / エストニア / 難民保護 / 国境管理 / 国際研究者交流 |
Research Abstract |
本年度は、EUの外囲国境における国境管理の現状を知るために主に以下の現地調査を行った。①EUの南側の国境における難民保護及び国境管理に関して、IOMチュニス事務所、Consiglio Italiano Per i Refugiati等での聞き取り調査、②EUの東側の国境における難民保護及び国境管理に関して、Estonian Center for Human Rights等での聞き取り調査。③EUの共通移民政策に関して、UNHCRブリュッセル事務所での聞き取り調査。さらに、現地調査を補完するため文献調査を遂行した。 その調査結果として以下のことを得た。まず、EUの南側国境では北アフリカや中東諸国からEUへの庇護希望者や非正規越境者が増加している。この影響を受けたギリシャは、欧州対外国境管理協力機構(Frontex)への迅速展開国境警備チーム(RABIT)の派遣要請、国内での非正規移民の大規模な拘束及びトルコ国境への国境警察官の増員と国境壁の建設を行い、非人道的な拘束や拘禁状態等が問題となった。イタリアではリビアとの2009年の条約により密入国の疑いがある船舶への巡視活動を行い避難民送還をしていたが、2012年欧州人権裁判所はその措置を欧州人権条約及び議定書違反と判断した。このように特定の構成国に大量避難民への対処という過重な負担が課されそれが避難民の人権侵害を生み出している。Frontexが人権侵害を行う可能性も懸念され規則改正が行われた。他方で、EUの東側の国であるエストニアでは、ロシア国境での庇護申請を認められず非正規入国者の送還が続いていると懸念されている。南でも東でも外囲国境においては非正規入国に対する管理が厳格化しており、難民保護との両立は非常に困難な状況といえ、この問題の根本的解決には外囲国境国に負担の多いダブリン条約体制の見直しも必要と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初予定していたEUの東側外囲国境に関する現地調査に加え、昨年度に実施できなかった南側外囲国境に関する現地調査も遂行した。EU東側外囲国境については、当初はウクライナ等EU以外の国での調査を計画していたが、文献調査を行う中で、EU側における国境国での国境管理の実態の調査が現時点ではより重要性をもつと判断し、現地調査対象国をエストニアに変更した。南側の外囲国境に関しては、アラブの春以降地中海では最も人の移動の多いルートであるチュニジア-イタリア間について実態把握をするために両国を訪問し、当初の計画どおり研究が進んだ。現地調査にあたっては、いずれもその準備段階でこれまでの研究を通じて得たNGOネットワーク等を活用することができている。また、現地調査を行わなかった国に関しても、文献調査によって研究を進めた。 当初の研究目的で示したもののうち、本年度は、特に、「(2)国境管理措置及びEUと第三国との再引き取り条約に関する分析」に大きな進展があった。国境管理措置に関しては、EU側ではギリシャ、イタリア、エストニア、ラトビア、リトアニア各国、EU周辺国としてはチュニジア、トルコ、ベラルーシ、ウクライナという国に関して特に情報収集することができた。また、再引き取り条約に関しては、12月のEU-トルコと間の条約締結の動きを特に重点的に調査した。 また、本年度に実施を予定していた研究の中間報告は、10月の中・四国法政学会第54回大会の国際関係部会において、「北アフリカからの人の流入と欧州の反応」という報告タイトルで行うことができ、同部会参加者との質疑応答等を通じて研究をより一層深める機会となった。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目までに行う予定であった研究は概ね達成できているので、今後は当初の計画通りに進めていく。 3年目となる26年度は、人身取引防止及び密入国の取り締まりの問題を扱う予定である。本年度の前半は、EUでこれまでに行われてきた人身取引防止及び密入国の取り締まりに関する議論やEUが構築している制度を文献資料を用いて調査及び整理する。その中で特にアジア地域における人身取引の問題に対してのEUの取り組みを、EUと連携している国際機関やNGOによって出されている文書も加えて調査する。 そして、本年度後半においては現地調査を行う予定であるが、その対象は、第一候補として国際移住機関のバンコク事務所ILO-EEC Migration Project、マニラ事務所のILO-EC Return and Reintegration Projectの担当者又は在韓国のIOMのMigration Research and Training Center及びこれらの国際機関と協力をしている現地NGOsへの聞き取り調査とし、それにより現地で人身取引防止のためのEUの政策がどのような形で実施されているのかを明らかにする。 本研究は4年間で完遂する予定である。4年目となる来年度は、1年目から3年目に扱わなかった地域についての調査、及びこれまでに行った研究についてその後の進展を加味するための補完的な調査を行い、研究をまとめていく。また、本研究にとって非常に重要性をもつ最近の欧州の国際情勢の変化(シリアやウクライナにおける情勢の変化と人の流出)への考察を必要な限り行う。
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