2015 Fiscal Year Annual Research Report
政府能力・統治制度と所得再分配との関係をめぐる比較政治学的研究
Project/Area Number |
24530131
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
桐谷 仁 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (30225106)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 政府介入 / 社会協定 / 所得再分配 / 政治制度 / 比例代表制 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、まず第1に、前年度における社会協定及び政府介入の問題のさらなる検討のために、あらためて1970年代の石油危機時のイギリスの所得政策(「社会契約」)の実態に関する資料や報告を収集して、その社会協定や政府介入の機能の経験的な尺度化を試みた。そして、その代替的な観点から主要OECD諸国の政府介入能力の動向をみると、70年代の石油危機を境にして80年代以降は衰退しているという従来の「下降説」に対して、70年代の石油危機の上昇期、80年代の下降期、そして90年代後半以降の上昇期というサイクルがあるとする「周期説」が示唆された。この「周期説」は、すでに一部の研究者らによって仮説として提示されたものであり、本研究においてもその仮説の妥当性が示唆されたが、残念ながら、その経験的な検証にまで至ることはできなかった。 第2に、本研究において所得再分配に影響を及ぼす説明変数として想定した諸々の政治諸制度のうち、とくに①選挙制度として「比例代表制」の問題、そして②議会-執政府関係として「執行府の優位性」や「議会の能力」といった問題に焦点をあてて、比較研究のための指標化を試みた。 第3に、そうした政府能力や政治制度の経験的な諸指標が、各種の所得再分配の指標に及ぼす影響について経験的な比較研究を試みた。この政治制度と所得再分配との関係をめぐっては諸々の議論や論争などがあった。本研究では、それらを踏まえて、政治諸制度の尺度上の高低の両極で(たとえば、前述の非比例性指標の高低両極で)、再分配度が低くなるという「ハンプ型仮説」をたてて実証を何度も試みたが、残念ながら、明確な統計的有意性をもつこととができなかった。したがって、それは、仮説の域をでなかったので、今後の課題となった。そのためには、上述の政府能力や政治制度についての経験的により精緻な指標化や分析方法の発展が要請されることになった。
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