2013 Fiscal Year Research-status Report
フィリピンにおける政治主体の意識と行動の変容―制度と構造のはざま
Project/Area Number |
24530136
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
太田 和宏 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (00273748)
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Keywords | 政治主体 / フィリピン / インフォーマル |
Research Abstract |
本研究の課題は、フィリピンにおける政治動向について制度面だけではなく、政治主体の意識や行動等に注目して、その実態を検討することにある。2年目の平成25年度は、労働分野、人口政策、貧困問題といった多くの市民生活にかかわる領域に注目して検討を加えた。各分野における、政策や制度、またその実態や、関係主体の行動等について、インタヴューや文献資料の整理を通じて考察を行った。 そこで得られた主な知見として以下3つがある。第一に近代的要素と伝統的要素の融合性である。それは生産活動におけるフォーマル部門とインフォーマル部門の有機的結合、国内労働市場とグローバルな労働市場が補完作用、更に伝統的農業部門とグローバル近代部門の補完的作用に見られる。人々はこうした生産条件を前提として生活戦略を立て、さまざまな領域を自由にあるいは強制されて渡り歩きながら生活を営んでいく。必ずしも近代的制度が構築してきた枠組みにとらわれることなくその意識を形成しているといえる。第二に、近代的世俗価値観と宗教的価値観の融通性である。多くの市民がカトリック信者ゆえ、意識や日常生活上の規範において宗教的倫理が強く影響力を与えているように見えながら、人口政策をめぐる態度表明にも見られるように、教会倫理と対立する世俗的判断を下すことすらありうる。第三に、人々の政治理念における不明瞭さである。政治的民主化が民衆・草の根運動の活力のもと実現し、保持されているという一般の解釈に対して、一般民衆はかならずしも自由、権利、平等といった民主主義が想定する理念を共有しているわけではないのが現実である。生活を改善する機会があれば、民主主義的権利を必ずしも行使するわけではなく、封建的で非民主主義的な手段を選択することもありうる。以上のような知見が具体的な生活戦略や行動を通じて明らかになったといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
調査対象としていくつかの地域と、複数の主体を想定したが、実際にはマニラ、セブ、ビコールの3地域、主体も官庁関係者、労働組合関係者、貧困家庭と限定されていた。現地での滞在日数が限定されていたことに要因がある。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、現地調査でいまだ訪れていない地域や主体にアクセスすることと並んで、従来アクセスした対象にも再度訪問を試みる情報の精緻化をはかる。 本年度は最終年度でもあるため、具体的な政策制度、問題領域の分析だけでなく、それらの実態把握を前提に、それをさらに一般化できるような論理を構築することが求められる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
第3年目の交付予定額に第2年度使途しなかった残額を加えたものである。昨年度使途額学が予定額を下回ったのは、現地滞在日数が少なかったこと、資料整理等での人件費の使途が少なかったことなどが要因である。 現地での調査を計画的に行うこと、および最終年の整理まとめ作業を人件費を有効に使いながら進める。
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Research Products
(4 results)