2012 Fiscal Year Research-status Report
東アジア社会主義圏における邦人抑留及びその帰還交渉と国際共産主義運動の検証
Project/Area Number |
24530181
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
川島 高峰 明治大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (10386427)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際情報交換 |
Research Abstract |
シベリア抑留帰還者にいた共産主義アクティブの中で代表的な位置にいたと考えられる淡徳三郎の思想と行動について、淡が戦前の1925年京都学連事件で検挙、一時の転向を経て欧州に留学、その後、シベリア抑留を経て、帰還後、共産党の強力なアクティブとして活動する経緯を解明することができた。淡を一つのモデルとした場合、シベリア抑留とコミンテルン時代における日本の左翼活動家・関係者との接点は、極めて重要な意味を持つと考えられる。 また、このような立場・経歴にある人は、1949年以降の所謂「逆コース」やレッド・パージの時代には発言が表面化しにくい状況にあったと考えられる。そこで1947年から 49年までの間に刊行・発表された抑留関係者の手記・記事の収集に重点をおき、相当数の資料を入手することができた。 北朝鮮地区から38度線を越えて、陸路・海路を経て自力で帰還した人々の多くは、当時、日本と北朝鮮が国交がないために、日朝間の密出入国ラインを左翼活動家の協力を得ることで脱出していたことが、少なからずあったことが判明し、人道措置と治安措置の対象が背中合わせにあった実情を知ることができた。 国際連合の資料より、日本のシベリア抑留が国連の場において、ソ連によるドイツ人捕虜、イタリア捕虜の問題と同じく議題とされていることが判り、日本の抑留問題を東アジア社会主義圏の問題として捉えていた本研究の視座に対し、より広域な問題範疇、旧枢軸国の捕虜問題(シベリア抑留は捕虜とは言い難いが、国連の分類では捕虜問題となっている)を確認することができた。 平和攻勢時の国際共産主義運動に関与した人物の中には、戦中の非左翼系のアジア主義者も含まれ、かつての大陸進出といった対外的な伸長を指向する思想と行動が、国際共産主義運動と、その国際主義において重なりあう部分を有していた点を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
次のような新たな知見を得たためこれに対する調査の必要性から当初の計画で構想していた調査項目の比重を修正したために研究会の組織化が遅れている。 50年代後半の平和攻勢時に国際共産主義運動に関与もしくは中心的な役割を担った人には、当初、研究で想定していた戦前・戦中からの左翼系の思想を持った者の他に、アジア太平洋戦争期に様々な思想・イデオロギー背景をもって「太平洋」や「大東亜」への「新秩序」の構築に思想と行動をもって臨んだ「アジア主義」者らがあり、当時の日本の国際共産主義運動の「国際」には、こうしたアジア主義、大東亜共同体の思想、さらにこれを遡れば大陸浪人の思想の系譜を読み取ることができた。平和攻勢時に国際共産主義運動は資本主義社会内にある階級的な対立構造を自陣営の防衛と攻勢のために利用することを意図していたが、その政治的な組織化の対象として、このような非共産系の活動家も含まれており、その思想と行動の歴史を調べることが必要となった。 戦後日本の抑留問題を、東アジア社会主義圏という枠組みでとらえていたが、ニューヨーク国連本部の資料から、これはソ連並びに当時の国連にとっては、日本・ドイツ・イタリアの捕虜返還問題であり、旧枢軸国の捕虜問題として、この三者が関係性を有した国際間での交渉を形成していたことが判明した。また、抑留未帰還者の問題は、日独伊の3国で今日も続いている。 抑留経験者とのネットワーク構築については、経験者の平均年齢が80代後半と高齢なために、郵便手段による交流も困難なことが多く、ヒアリング調査も健康並びに記憶の状態等から実施のタイミングが難しい状況にあり、文献中心の資料収集に転換せざるを得ない。また、抑留体験者や、国際共産主義運動に関与した人の戦前・戦後の連続性を検証するための調査により比重を置くこととなった。
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Strategy for Future Research Activity |
敗戦後、東アジア社会主義圏に抑留・残留を余儀なくされた邦人の帰還交渉が行われた。国際共産主義運動は抑留を政治的に利用し、抑留者の帰還をアクティブの入国手段とした「偽装抑留」や、引揚船を日ソ間の工作活動に利用するため船員等を組織化するといった非合法的な活動を展開した。また、1950年代の平和攻勢の下では帰還交渉が社会主義陣営に有利に展開するよう様々な合法・非合法の活動を展開した。また戦前のコミンテルン期の国際共産主義の活動家がシベリア抑留に際し民主運動指導者層を形成したことが認められた。本研究は抑留と国際共産主義運動の知らざれる関わりの解明から、シベリア抑留と犠牲者の実態を検証しようとするものである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年の予算で戦後に刊行された抑留に関する手記・書籍を2013年刊行のものも含めて可能な限り全て入手する。出版点数等は確認しているので、入手は可能である。また、その文献リスト作成と並行して、帰還者アクティブリストの作成を行う。昨年度も相当数の文献を入手しているので、本年は、その整理に重点をおきたい。これと並行して、雑誌論文の文献の収集につとめるとともに、抑留と関連のある特定地域の新聞記事の検索を行う。 赤十字国際委員会のアーカイブス調査を行う。 国際共産主義運動に関わった左翼活動家の思想と行動の遍歴について報告を行うとともに、東アジアの強制収容所(旧ソ連・ラーゲリー、北朝鮮・管理所、中国・労働改造所)の比較研究を実施する。
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