2012 Fiscal Year Research-status Report
食の倫理と功利主義:食をめぐる規範・実践・ジェンダー
Project/Area Number |
24530214
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
板井 広明 お茶の水女子大学, ジェンダー研究センター, 技術補佐員(研究支援推進員) (60405032)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | イギリス |
Research Abstract |
本年度の研究実績の概要は、「研究の目的」に記した、イギリス18世紀の動物論と現代の食の倫理に関する文献資料の収集、および18世紀英国における動物の位置づけをめぐって当時の資料を検討する作業を行なった。 18世紀英国における動物論の検討として中心的な対象になる功利主義者ベンサムの遺した草稿類や動物虐待防止協会からの送付資料(主にBOX CIXの草稿類)をロンドン大学UCLの稀覯本コーナーで1週間ほど閲覧・撮影して、ベンサムと動物虐待防止協会との関わりを検討した。その結果としては残念ながらベンサムの実践運動への関わり、つまり動物虐待防止協会との密接な結びつきは見出すことはできなかったが、ベンサムの動物に関する見解が彼の言語論との関わりにおいて展開されていることがより明確になった。ベンサムの言語論は快苦へと還元するパラフラーシスという哲学的方法に即して言語を定義するものであり、その関連から動物への配慮の議論も展開されている。 またベンサムが提案した監獄をはじめとする諸建築の改革プランであるパノプティコンにおいて供せられる食事について、ベンサムが遺したレシピなどが載っている草稿を検討した。経済性の観点から行われる監獄などの「統治」ゆえ、そのレシピもまた臓物を利用するものや米を利用するものなど、 またロンドン北部の田園都市レッチワースを視察し、ハワードの田園都市構想における食の位置づけの確認をした。それはつまり都市部への流入による郊外の衰退から郊外の再活性化および人々のための新たな都市の設計だった。ただ残念ながらそこには循環型農業の構想はあってもそれ以上の食の構想はなかった点で、来年度はまたアメリカの食にまつわるさまざまな運動をフィールドワークする予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、功利主義的な食の倫理の研究の視点から昨今の食の倫理論を整理し、あるべき食の倫理の提示を行なうという観点から、18 世紀英国における人間と動物の区別・位置づけという思想史的考察と、英米日の新たな食のネットワーク作りや運動の実態と特徴を比較しつつ、食と農、食と環境、ジェンダーの問題から規範的な食の倫理を検討するものからなっている。 本年度は、18世紀英国の動物論の思想史的考察に不可欠な、英国の功利主義者ベンサムの動物に関する見解を明らかにすべくロンドン大学で資料調査を行ない、おおむね、その概要を得ることができた。 現代のグローバルな経済社会における望ましい食の倫理を検討する材料として、英国のオーガニックな食材の流通をはじめ、レッチワースという田園都市の現地調査およびハワードの著作の検討を行ない、食にまつわる検討課題が浮き彫りになった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進方策については、研究計画書に基づいて、予定通り進めていく予定である。 次年度は今年度に収集した資料の検討および次々年度に開催される国際功利主義学会の準備をしつつ、夏にアメリカでフィールドワークを行なう予定である。フーディガンなどの持続可能な食の運動や、アメリカの大学研究者との意見交換により、現代の食の倫理を検討する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究計画に基づいた使用を行なう。次年度の使用額(B-A)は文具費に充てる予定である。
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