2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24530271
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
松川 勇 武蔵大学, 経済学部, 教授 (50287851)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 経済政策 / 経済理論 |
Research Abstract |
双方寡占モデルを用いた市場取引の分析事例として、環境汚染物質の排出権取引および卸電力取引を取り上げ、文献調査をもとに経済理論の特徴と問題点を明らかにした。具体的には、従来の不完全競争の理論においてしばしば仮定されたクールノー均衡、ベルトラン均衡、独占均衡などの概念に代わる新たなモデルである「非競争均衡」 (non-competitive equilibrium)を取り上げ、理論上の特徴について検討を行った。非競争均衡は、近年Weretka(2011)によって提案された新しい理論モデルであり、市場に参加するすべての取引者に何らかの支配力が存在する点を仮定している点および支配力が内生的に決定される点で既存の均衡概念と異なる。特に取引者の数が少ない薄い市場(thin market)における支配力の分析に有効である。たとえば、近年欧州や東京都において取引が開始された温室効果ガスに関する排出権市場は、薄い市場の典型である。また、わが国の卸電力市場においても、しばしば取引の少ない薄い状態がみられる。 排出権市場と卸電力市場を例にして、取引者の生産構造が市場支配力に及ぼす影響を分析した。数値例をもとに分析した結果、排出権市場における取引者の除去費用関数の凸性を小さく設定するほど、市場支配力が高まることが明らかになった。同様に、卸電力市場において発電費用関数の凸性を小さく設定するほど、市場支配力が高まることが明らかになった。すべての取引者の費用関数が同様の凸性を有する場合には、均衡価格は完全競争の場合と一致するものの、市場支配力によって取引が阻害されるため、経済効率性が低下する点も明らかになった。これらの点を検証するため、排出権取引を想定した経済実験を試みた。実験データの一部を用いた分析からは、理論モデルの妥当性が推察される結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初予定していた経済実験の一部が延期となったため、理論モデルの検証作業にやや遅れが生じている。その理由として、経済実験の実施を10月ごろに予定していた場所の利用が困難になり、急きょ代替地を選定する必要があったこと、および、代替地において3月に実験を実施したため、当初予定していた内容の一部しか実験できず、データの整備と解析に遅れが生じたことがあげられる。
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Strategy for Future Research Activity |
双方寡占モデルの妥当性を明らかにするため、排出権市場を想定した経済実験を行う。具体的には、非競争均衡(non-competitive equilibrium)、share auction、および、供給関数均衡の3つに焦点を当て、仮想的な市場取引を通じて得られる実験データをもとに理論仮説の検証を行う。いずれのモデルも双方寡占において内生的な支配力の決定を特徴とするが、理論モデルから予想される均衡価格や均衡取引量において明確な差がみられる。実験では、被験者の取引状況をもとに市場支配力を推定し、理論モデルとの整合性を統計学的な手法によって明らかにする。その際、汚染物質の除去費用関数や排出権の初期配分に関していくつかの異なる想定のもとで取引を行うことによって、市場支配力がどのような要因によって左右されるのかについても明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度における経済実験の実施に際して、計画の一部に遅れが生じた。このため、今年度実施できなかった実験と、当初次年度に計画していた実験を合わせて、次年度に遂行することを予定している。
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Research Products
(2 results)