2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24530297
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
山下 隆之 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (20252158)
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Keywords | 産業空洞化 / 対外直接投資 / アウトソーシング / システム・ダイナミックス / 因果ループ |
Research Abstract |
本研究では、(1)円高と対外直接投資の関係を解明して、(2)日本の空洞化の特性を明らかにし、(3)その理論モデルを構築し、(4)空洞化シミュレーション・モデルを開発して、円高対策が国内産業へ与える政策効果を検証する。平成25年度は、(2)と(3)に焦点を当てて、産業空洞化を考慮したマクロ経済モデルの開発を進めた。 まず、産業空洞化の進行を確かめるために製造業における失業率の動向を調べたが、その失業率の変動に対外直接投資の動向が影響していることを回帰分析によって明らかにすることができた。 次に、産業空洞化に関する先行研究をリサーチし、直接投資や輸出入等の対外要因から論じるものと、労働生産性等の国内要因から論じるものとに区別し、変数間の相関関係を調べながら、因果ループ図を構築した。対外要因に関しては、欧米の対外直接投資がアウトソーシングの形をとるのに対して、日本の対外直接投資が生産工程の一部を海外に出す形で進められているという違いが注目される。日本型の対外直接投資は生産拠点の双方的なネットワークを作るため、必ずしも輸出や輸入と代替的ではない。このため、自国通貨高(円高)→対外直接投資という因果ループでは国内雇用への影響が曖昧となるが、海外事業所の設立が雇用とリンクしている点に注目して、モデル化を進めることとした。 日本のマクロ経済と製造業の労働市場をシステム・ダイナミックスの手法でモデル化した。為替レートの変動に応じて、2020年までの日本のGDPと製造業の雇用がどのような動きを示すかミュレーション分析することができた。このモデルは、System Dynamics SocietyによるThe 31st International Conference(2013年7月21日~25日)の報告に採択され、米国 Cambridgeにて発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
System Dynamics SocietyのThe 31st International Conferenceにおいては参加者からの関心を集め、報告後の大会期間中も質問やコメントが寄せられた。報告中の将来推計では、円高から一変して円安になった場合のシミュレーションも試みたが、現在のところその予測通りに日本経済の基礎データが進行している。 上記の報告以外では、わが国の都道府県別の産業空洞化の把握にもアプローチしてみた。国勢調査統計を用いたShift-Share分析では、中京工業地帯や東海工業地域の成長が近年停滞していることがわかった。それらの地域では、製造業から非製造業への転換が必ずしも所得の増大に繋がっていないことも確認できた。国民経済の動向と地域経済の動向がどのように関連しているかを探ることも今後の課題となる。 以上より、平成25年度は、総じて満足の行く研究を行うことができたといえよう。
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Strategy for Future Research Activity |
円高の諸問題に焦点を当てて計画した本研究の開始後、「アベノミクス」の発動により為替相場が円安方向に振れるようになり、その影響を考察する必要が出てきた。仮説的なモデル分析では、積極的な金融緩和政策により円安が促されたが、国内製造業保護の効果は一時的なものであることがわかった。今後は非製造業への影響を調べる必要があるだろう。 米国等と比べて、日本の非製造業は製造業で生じる雇用減少を吸収する力が不足していることも次第に見えてきた。この点も明らかにする必要があるであろう。 ところで、System Dynamics SocietyのConferenceでは、日本経済で産業空洞化の克服が度々課題となってきたという経緯自体が、海外の研究者に驚きを持って受け取られた面があった。海外への情報発信の重要性を痛感させられた。次年度も海外での研究成果発表を行いたいと考えている。 また、今年度も学内業務との日程重複により、初年度からの旅費の繰り越し分を消化しきれなかった。この遅れを取り戻すことも課題である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
学内業務との日程重複により、初年度分の海外出張を見送らざるをえなかったため。 海外に向けた発表を増やしたい。
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Research Products
(2 results)