2012 Fiscal Year Research-status Report
国際商品市況の変動と資源国への影響:投機と「資源の呪い」
Project/Area Number |
24530367
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
大野 早苗 武蔵大学, 経済学部, 教授 (40307145)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
茶野 努 武蔵大学, 経済学部, 教授 (10532195)
東郷 賢 武蔵大学, 経済学部, 教授 (30308019)
林 康史 立正大学, 経済学部, 教授 (30409560)
神楽岡 優昌 武蔵大学, 経済学部, 教授 (40328927)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | コモディティ / 流動性 / オルタナティ投資 / 資源の呪い / 金融危機 |
Research Abstract |
2000年代に入り、コモディティ関連の金融商品の開発や商品先物取引の売買が拡大したが、同時に国際商品価格が高騰・急落する現象もみられた。本研究プロジェクトの第1の目的「国際商品価格の決定要因およびコモディティ投資の意義に関する考察」に関して、まず代表者大野は構造VARに基づき各種のマクロ要因の寄与を検証し、2000年以降、流動性の国際商品価格への寄与が高まったとの結果を得た。また分担者茶野は、標準的な相関係数を用いた場合にはリーマンショック後に国際商品価格間の相関が高まる傾向がみられたが、分散不均一性調整済み相関係数を用いると相関の変化は見られないとの結果を得た。以上より、リーマンショック時の流動性逼迫が国際商品価格を一様に下落させ、ボラティリティーを高めた可能性があるが、伝染(contagion)によって国際商品価格間の相関が上昇したわけではないことが示唆された。また分担者神楽岡は一般化ダイナミック・ファクター・モデルに基づき118種のエネルギー・金属価格を用いて分析したところ、これらの商品価格の分散の75%は3つの共通ファクターで説明でき、そのうちの1つが原油価格自身であることが明らかにされた。 また、分担者林は、日本の商品取引所における売買高が低迷していることから、世界の主要な国際商品取引所との比較に基づき取引所の制度と流動性との関連について考察した。 本研究プロジェクトの第2の目的「国際商品価格の動向と資源国への影響に関する考察」に関して、代表者大野は資源国への資本流入の決定要因を分析した。資源ブームを背景とする資源国への海外資本流入の増大は、直接投資よりも短期資金でより顕著にみられるとの結果が得られた。また、多くの資源国に見られる独裁体制が「資源の呪い」の原因であるとの指摘もあるが、民主化は直接投資の増大に必ずしも寄与していない可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究プロジェクトは以下の通り研究成果をあげており、そのため、研究はおおむね順調に進展していると考えている。なお、研究内容は内外の学会やセミナー、学術雑誌で発表したが、改訂すべき点も明らかになり、今後は改訂作業を進める。 代表者大野は商品価格に対する流動性等のマクロ変数の影響を分析した「コモディティ市場は金融市場化したのか?」を金融学会や一橋大学・マクロ金融ワークショップ、ゆうちょ財団東京研究会等のセミナーにて報告し、また本研究成果を英文化した"Excess liquidity and commodity boom" を平成25年8月に開催予定のInternational Conference on Financial Management and Economicsにて報告する予定である。ここではTEDを流動性指標としたが、他の流動性指標を用いて結果の頑健性を確認する必要がある。また、コンビニエンス・イールドや投機資金との関連を検証することで流動性の影響をさらに吟味したい。 代表者大野はまた、資源国の海外資本流入の決定要因を分析した"Foreign capital inflows of resource-rich countries"をAsia-Pacific Economic Associaton主催のコンファランスにて報告し、当該学会のジャーナルに掲載される予定である。今後は非資源国と資源国の比較を行う必要がある。 分担者神楽岡は、"Common dynamic factors driving metal and energy prices"というタイトルで研究成果を学術雑誌に報告している。また、分担者茶野は国際商品価格のランダムウォークの検証と価格間の相関の検証を行った分析の成果の刊行に向けて、論文の改定を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は平成24年度における分析をさらに発展させるとともに、新たなる研究課題にも取り組みたい。 第一の目的「国際商品価格の決定要因およびコモディティ投資の意義に関する考察」に関しては、平成24年度の研究について残された課題として、他の流動性指標を用いた上での構造VARによる検証を行いたい。また、投機資金流入による影響が商品価格の固有ショックとして捉えられている可能性があることから、フォワード・カーブの形状と流動性ショック、固有ショックとの関連を商品毎に検討したい。 第二の目的「国際商品価格の動向と資源国への影響に関する考察」については、資源国の他に非資源国も分析対象とし、海外資本流入への決定要因としてガバナンス指標や為替制度がどのような影響を及ぼしていたかを検証したい。 平成25年度以降に新たに取り組む研究課題としては、まず第一の目的については金価格の決定メカニズムに関して考察したい。平成24年度の研究において、金価格のみはリーマンショック時においても流動性逼迫の影響をほとんど受けず、他の商品価格とは異なる変動特性を示した。商品の中でもとりわけ金融商品との代替性が高いのが金であるが、金価格にどのような要因が影響を及ぼしていたのかを分析したい。 第二の目的については、資源国のデフォルト・リスクの決定要因、および為替変動と金融危機の発生可能性との関連についての分析に着する。EMP(Exchange Market Pressure)に基づいて危機を定義し、EWS (Early warning system)を参照して分析フレームワークを検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、国際商品価格やその他のマクロ経済変数、資産価格のデータを収集するために、Thomson Reuters社のデータベース、Datastreamを購入した。Datastreamは世界各国の多種多様な金融データ、マクロ経済データを収録しているオンライン・データベースであり、国際商品価格の決定メカニズムと資源国への影響を分析する本研究プロジェクトには必要不可欠なデータベースである。当該データベースは高額であるため、他の金融データに特化したデータベース、マクロ経済データに特化したデータベースを別個に購入することも検討したが、複数のデータベースを購入するほうが予算が嵩むことが明らかになった。また、フルパッケージではなく、収録されている国や経済変数を限定して契約できるオンライン・データベースも検討したが、今後、分析対象国や分析対象商品が拡大する可能性があり、事前に分析対象国や分析対象商品を限定することが困難であったため、引き続きDatastreamを継続購入することとした。 平成25年度も引き続きDatastreamを契約すると、平成25年度の予算はほぼデータ使用料に用いられ、他の用途への予算が不足する。そこで、平成24年度の予算の一部を平成25年度に繰り越し、Datastreamの契約料に充当することとした。 平成25年度は、平成24年度では未着手であった研究課題にも着手する予定であり、新たな研究課題でもDatastreamに収録されているデータが必要となる。また、平成24年度における研究は内容を拡張した上で平成25年度も引き続き継続し、学会発表や学術雑誌等に投稿する予定であり、分析の改定においてDatastreamを使用する。
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