2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24530616
|
Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
伊藤 智樹 富山大学, 人文学部, 准教授 (80312924)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 物語 / 自己物語 / 病いの語り / セルフヘルプ・グループ |
Outline of Annual Research Achievements |
研究機関の終盤を迎え、本研究が第一に焦点をおいてきたALS(筋委縮性側索硬化症)に関する研究のまとめの一段階を遂行した。また、それと併せて、難病ピア・サポートをテーマとする当事者同士の交流への参与観察、高次脳機能障害のピア・サポート活動への参与観察を遂行し、データを蓄積した。 ALS研究に関しては、まず本研究がALSの社会的文脈をいかに語るかという点に最初の焦点が合わせられた。結論的には、ALSという病いに向けられるまなざし、もしくは与えられる意味の変容、すなわち「不治の病い」として死を待つ終末期のイメージから、ある種の機能的障害を持ち続けながら、医療的ケアのもとに「生き続ける」可能性へと人々の認識が変容しつつある流れとしてとらえられた。とはいえ、これは全面的な「変容」ではなく、一部の理解ある人々を除けば専門家も患者自身も意味「変容」の影響を被っているわけではない。 先行研究をレヴューしたところ、病いの語り研究の流れに位置づけられる社会学的研究(看護学専門家による質的調査研究を含む)と、社会学の中でも障害学の影響を受けながら生存をめぐる社会とのせめぎあいという視点を導入する規範論的研究とが重要と考えられた。ただし、前者においては、病いの自己物語形成において他者とのやりとりが果たす役割に関する考察を深めることが必要であり、後者においては、生存という理念の重要性をただ主張するだけではなく、自己決定という理念との矛盾や患者や家族が行う折り合いの付け方まで視野に入れたうえでそれらを生き難さとして認識する必要性が、考察の結果として導きだされた。 さらにALS患者におけるピア・サポートの重要性を考察するにあたって、他の難病や高次脳機能障害におけるピア・サポートとの共通性および相違点も重要な観点であることが確認された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
在宅療養のナラティヴ・アプローチを考えるうえで、示唆に富む事例であるALSに関して成果報告への前進が見られた。また、他の難病や高次脳機能障害に関するデータも参照することで、視野の広がりも担保できた。
|
Strategy for Future Research Activity |
ALSに関する成果報告の目途をつけるため、一定程度体裁を整えた原稿を作成するとともに、社会学研究者によるスーパーヴァイズや調査協力者との意見交換についても準備を開始する。特に後者については、場合によっては何度も対話を重ねるなど慎重に運ぶ予定である。
|
Causes of Carryover |
購入計画だった書籍の一部において、再検討の必要が発生したために、購入時期を延期することとした。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究の実質的な状況と関心と合った書籍を選定のうえ、購入する予定である。
|