2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24530784
|
Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
橋本 剛 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (60329878)
|
Keywords | 社会心理学 / 援助要請 / 援助行動 / ソーシャルサポート / 互恵性 / 社会的交換 / 負債感 / 利他行動 |
Research Abstract |
「人々はお互いに助けあうべきである」という互恵性規範は、援助行動を促進する要因として見なされることが多い。しかし、援助提供のための諸資源が不足している人々にとって、受容と同等の援助を提供するという互恵的援助行動の達成は困難であり、そこで互恵性規範を過度に強調することは、過剰利得による心理的負債感を増幅させることになりかねないので、そのような事態を回避するために、たとえ援助要請を必要とするような状況でも援助要請を抑制しやすくなる可能性が想定される。本研究の目的は、このような援助要請抑制傾向に対する援助提供可能性と互恵性規範の交互作用効果について検討することであり、その知見は、格差問題や社会的弱者へのバッシングが顕在化している現代日本社会における適切な援助行動のあり方を議論する上で有用であろう。 3年計画の2年目となる本年度は、初年度に実施した先行研究レビューおよび予備調査の結果を受けて、当初の研究計画の想定通り、大学生を調査対象とした第一研究と、一般成人を調査対象とした第二研究を実施した。第一研究では、予備研究での問題点を修正した貢献感という概念を新たに想定し、貢献感と返報性規範が援助要請に及ぼす影響について、短期縦断調査で検討した。その結果、全般的に貢献感が低いほど援助要請が抑制されやすく、かつ部分的にその関連が互恵性規範に調整されることが見出された。この知見は2014年に開催される学会で発表予定である。次に、第一研究の問題点を修正しながら実施された第二研究では、職場における互恵性規範が返報必要規範と返報不要規範の二次元で構成されること、さらに返報必要規範のみが高い場合に貢献感と援助要請の関連が増幅されることが見出された。この研究成果は2014年度の学会で発表予定であり、現在論文としてまとめているところである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的に照らし合わせての現在までの達成状況は、基本的には想定の範囲内であると考えられる。 年度当初の段階では、本研究の基本的な独立変数である援助提供資源と互恵性規範をどのようにとらえるかについて、視点が明確に定まっていなかったが、予備研究から第一研究、第二研究と研究を重ねていく中で、その問題に一定水準の進展が見られたと言えよう。すなわち、援助提供資源の指標としての貢献感という概念が提唱され、さらに個人の価値観ではなく集団規範としての互恵性規範を捉えるためのツールも開発されたことによって、本研究の仮説を検討するための基本的な枠組みが整い、実際にいくつかの研究で仮説が検証された、というのが現在の段階である。現在得られている知見は、当初の想定と異なる部分もあるものの、基本的には仮説を支持するようなものが中心となっている。今後は、当初の想定と異なる部分についての原因を究明しつつ、そこで判明した問題点の修正、および異なる方法論による検証を通じて、理論の頑健性を高めるための試みを行うこととなるであろう。 特に、当初の研究目的では社会生態学的要因の影響可能性についても想定しているが、現時点ではこの点が必ずしも十分には検討されていない。また、調査法という研究手法には因果関係を強く主張できないという弱点があり、この問題点を超克するための手段として、当初の研究計画では実験法も想定されていたが、その点についても現状では十分に検討されているとは言い難いのが現状である。今後の研究計画では、これらの点のリカバリーも視野に容れる必要があると言えよう。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は前年度までの研究を踏まえつつ、複数の調査研究、さらに可能であれば実験的研究を実施する予定である。 まず第三研究として、再び大学生を対象とした質問紙調査を実施する。昨年度も第一研究で大学生を対象とした調査を実施したが、仮説の支持は部分的なものに留まった。その最大の理由として、貢献感や互恵性規範を想定する対象となる対人関係が明確に定義されず、結果的に交換関係としてのニュアンスが弱い親密関係が想定されやすくなってしまったことが挙げられる。そこで第三研究ではその問題点を修正する形で、援助要請に対する貢献感や互恵性規範の影響が、さらに親密性によって調整される可能性まで検討する予定である。そこではあわせて、社会生態学的要因としての関係流動性についても検討することを想定している。さらに、そこで想定される心理的メカニズムの普遍性を検討するという観点から、可能であれば大学生以外(たとえば高校生など)に対する調査実施も想定している。 それらの調査研究もさることながら、可能であれば第四研究として、実験的手法による検討も想定している。すなわち、実験的に貢献感や互恵性規範を操作した上で、援助要請傾向の行動的反応を測定するという研究枠組みである。ただし、援助行動についての実験的検討は数多くあるものの、そのほとんどは援助提供についてであり、援助要請についての実験的検討は少ないのが現状である。また、参加者が援助要請しなければならない状況を実験的に作り出すことには、倫理的な配慮も必要となる。したがって、実験室実験に過度に拘ることなく、質問紙実験による仮想場面法、プライミングによる要因操作など、さまざまな可能性を視野に容れた計画立案が求められるであろう。
|