2012 Fiscal Year Research-status Report
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24530970
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
熊澤 恵里子 東京農業大学, 公私立大学の部局等, 教授 (90328542)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 教育史 / 幕末維新史 / 大名華族 / 英国留学 / 駒場農学校 / 松平康荘 / オスカー・ケルネル / エドワード・キンチ |
Research Abstract |
初年度は、ドイツ・ポーランドと英国での海外調査研究を中心に実施した。 1、ドイツでは明治期の華族が関心を示したプロイセンの農業について概要を把握するために、駒場農学校英人化学教師キンチの後任として招聘されたオスカー・ケルネルについて調査を実施した。ケルネルは帰国後ライプチヒ=メッケルンの研究所長につき、畜産栄養関係で多くの業績を残したが、戦後研究所は旧東独にあったため、日本からの現地調査はほとんど行われていない。今回、ロストック大学、オスカー・ケルネル研究所、ライプチヒ大学、ホーヘンハイム大学等を訪問し日本からのケルネル関係の調査は初めてだと歓待された。ドイツ側の積極的なサポートを受け、ドイツにおけるケルネルの全業績、関係史料の収集・撮影を短期間に実施できた。中でも駒場農学校教師として雇入れになる書簡の発掘は農学史上においても価値がある。近日史料集(写真含む)として、刊行予定。 2、英国留学した越前松平家嫡男康荘がサイレンセスター王立農学校入学を選択した訳、周辺に日本から人材派遣がされたのか等農学教育のネットワークを探る調査を実施した。またオックスフォード大学では、当時農学教育が高等教育においてどのような位置づけをされていたのか史料収集を実施した。松平康荘が英国留学中に、福井からの人材がコッツヲルズ地方に数多く滞在し、当時まだこの地方で盛んであった毛織物業を学んでいたようである。また、ロンドンでは病院で研修し、ボランティア活動等も行っている。その受け皿となったネットワークが英国国教会であったのではないか。ストーンハウスの牧師を中心としたサポート体制が存在したと考える。農学教育については英国でも研究者が少なく、史料もほとんど利用されていない。農業関係アーカイブ担当者の協力を取り付けた。 国内調査研究による成果は「明治期福井の学校・文化・産業と越前松平家」と題して発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度となる平成24年度は2度にわたって実施した国外調査を中心に、時間的、経済的制約がありながらも、結果的に新たな史料を発掘し、発表するに至っていることから、現在までの研究「達成度」は、「おおむね順調に進展している」といえよう。 第1回目の海外調査研究は、夏に約2週間ドイツとポーランドを回った。かつてのプロイセン・シレジア地方(現、ポーランド)における初めての史料調査を実施したが、英語もドイツ語も通ぜず厳しい調査となった。また、経費節約のため、2か国選択のユーレイルパスを使用し移動したが、ドイツ北部ロストックからベルリン、シュトゥットカルトまでの移動距離が大きく、シレジア・ポーランドにおける電車に遅延が多く、全体的に時間的ロスが生じた。しかし調査においては、アーキビストらが非常に協力的で、予定以上の調査を実施することができた。なかでも、これまで全く不明であった駒場農学校化学教師オスカー・ケルネルの関係文書から駒場農学校への教員募集などの貴重な史料を発掘した。ドイツでの調査においては、日本研究以外のドイツ人研究者(史学、経済学、農学史)と情報交換を行うことができたことは、今後の海外調査研究の発展にとって大変有意義なものである。 第2回目は約1週間で英国コッツヲルズ地方における史料調査を実施し、越前松平家嫡男康荘がサイレンセスター王立農学校を留学先として選択した理由、康荘の周辺に日本から人材派遣がなされたのか、日本人留学生をサポートする英国人ネットワークが存在したのかなどについて、検討した。またオックスフォード大学では、当時高等教育における農学教育がどのような位置づけをされていたのかの調査を実施した。 本研究に対する海外研究者の関心も高いことから、平成25年度は海外研究者とも情報交換をしながら研究をすすめたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度も引き続き、越前松平康荘を中心に、明治期における大名華族の海外留学がどのような目的をもって実施され、その成果が地域再生のためにどう生かされたのかについて、国内外の史料調査研究から解明を行う。 国外調査は英国を中心に実施する。当初予定していた英国2か所(サイレンセスター王立農学校図書館文書館、エジンバラ大学農学部図書館)での調査に加え、国立公文書館、オックスフォード大学図書館、グロセスターシャー文書館など、昨年度の追加調査も含め継続的な調査を実施する。史料調査では、松平康荘の関係史料、日本の農商務省関係史料などの収集を主な目的とする。また、エジンバラ大学については、サイレンセスター王立農学校とならび世界的にも知られた高等農学教育機関が、スコットランド地方にあるエジンバラ大学農学部であり、康荘の受けた農学教育のレベルを検討する上でも、エジンバラ大学農学部のカリキュラムならびに試験問題を検討する必要があると考える。 また、昨年度のコッツヲゥルズ地方での調査により、松平康荘ならびに学事監督松本源太郎が頻繁に地域の基督教牧師らと交流していることが判明しており、今後、教会を中心とする日本人サポートネットワークの存在を検討する必要が出てきた。調査対象地区が点在しており、交通手段が徒歩しかないため、今夏に調査を行いたい。 国内調査では、松平試農場の実態調査を実施するとともに、青木周蔵ら新華族も含めた国内の農場経営に着目し、特に青木周蔵が青木学校を創設してまで実現したかったトータルな農場経営とはどのようなものだったのか、大名華族の比較対照的な事例として、概観しておきたい。なお、明治期の華族・新華族の農場については、昨年度の学会シンポジウムですでに発表し、地域再生の方途として考察を加えている。 平成25年度は9月の国際学会発表で歴史分野でのエントリーをアクセプトされている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(5 results)