2013 Fiscal Year Research-status Report
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24530970
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
熊澤 恵里子 東京農業大学, 公私立大学の部局等, 教授 (90328542)
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Keywords | 教育史 / 幕末維新史 / 大名華族 / 松平康荘 / ケンブリッジ大学 / オックスフォード大学 / 農学修行 / エドワード・キンチ |
Research Abstract |
平成25年度は2回の英国史料調査ならびに福井で収集した史料の翻刻作業を行い、その成果を国際学会等で発表した。 ①大名華族の子弟教育に焦点を当て、「個」の成長を検討した。越前松平家松平康荘留学関係史料のうち、書簡史料を翻刻し、康荘が陸軍から農学へ修行替えした際に、祖父慶永及び重臣の反対があったこと、貴族の教養としてのケンブリッジ大学入学が期待されていたこと、それに対する康荘の葛藤を明らかにした。祖父慶永にとっての「幸福」は松平家の保護であり、学業による康荘の「自立」ではなかった。本考察は「大名華族の子弟教育―越前松平康荘の自立への道」と題して刊行予定。上記の内容を社会的、科学的背景から検討し、ヨーロッパ日本研究学会(EAJS)国際関係部会で発表した。英文題目の日本語訳は「明治期華族の教育―松平康荘の英国農学修行」である。②英国調査(夏)では、エジンバラ大学、オックスフォード大学、グローセスター州立文書館等で農学及び農学校の地位、日本人留学生と英国国教会に関する史料収集を行い、キーワードとなるニンプスフィールドのセント・バーソロミュー教会が何らかの仲介役をつとめたことを明らかにした。なかでも、グローセスター州には、各種海外渡航の名簿に掲載されていない福井からの人物がいることが判明した。③英国調査(春)では、学事監督松本源太郎の日記に登場する人物の足跡を追い、康荘留学に際して、数多くの旧福井藩関係者が英国倫敦及びその周辺へ渡航したことをつきとめた。彼ら自身は正規留学は経済的に不可能であったが、康荘の学事監督または学友、その他の名目で海外渡航し、勉学に励んだ。特に軍医が多い。華族について渡航した家臣たちが、新しい時代を担う知識と技能を修得し、日本へ持ち帰ったのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は2度にわたって実施した英国史料調査を中心に、時間的制約がありながらも、新たな史料を発掘し、予想していた結論に近づくような結果となったことから、現在までの研究「達成度」は、「おおむね順調の進展している」といえよう。 平成25年度は本研究をテーマに、初めて国際学会で英語による発表を行った。外国人研究者からの質問によどみなく回答できたことは、大いに達成感を感じることができた。本年度の収穫は国際学会での発表と言っても過言ではない。また、本年度第1回目の英国調査(夏)では、スコットランド地方で農学部を設置していたエジンバラ大学を見学し、いわゆる実学重視の地域性とイングランド地方との違いを確認した。さらに、康荘が世話になった教会関係者を辿り、ニンプスフィールドを中心とするコッツヲルド全域に広がる英国国教会のネットワークにより、康荘ら日本人の渡航者がサポートされていた事実をつきとめた。このネットワークの中心がニンプスフィールドのセント・バーソロミュー教会であったが、あいにくの悪天候と、交通手段が1日数本のバスしかなかったため、今回の英国滞在期間中の訪問は断念した。第2回目の英国渡航(春)では、さらなる悪天候によりニンプスフィールド行きは実施できなかったが、康荘の学事監督松本源太郎の日記に記された人物のロンドンの住居や学校、職場を特定した。ハムステッド・ヒース、ケンテッイシュタウン、カムデンタウン、スイス・コッテージなどに滞在し、軍医関係者が多い。研修先は、聖ジョンズウッド病院や聖トーマス病院等であり、ナイチンゲールの看護やホスピス等にも関心を持っていたようである。 国内調査については、史料の翻刻作業に取り組んでおり、平成25年度の「研究の目的」はおおむね達成された。また、海外留学で得た知識・技術を帰国後、どのようにして生かすのか平成26年度への展望も見えてきた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度も引き続き、越前松平康荘を中心に、明治期における大名華族の海外留学がどのような目的を持って行われ、その成果が地域再生のためにどう生かされたのかについて、国内外の史料から解明する。今後の研究の推進方策は、以下の通り。 1、海外調査は時間的な制約が大きいため、まず、華族子弟の海外留学に随行するかたちで渡航し学業を修めた家臣について、各大学アーカイブ担当者にアンケート文書(メール)にて、問い合わせを行う予定である。調査方法についてはすでに平成25年度に一部のカレッジに対して実施しており、この作業は国内から可能であることがわかっている。 2、国内収集史料について、康荘関係史料の書簡を中心に、速やかに翻刻作業と分析、考察を行う。同時に、福井県立図書館、福井県文書館、福井市立郷土歴史資料館が所蔵する関係史料を時系列でに並べ、リスト化したい。 3、英国を含めた欧州の宗教的なサポートネットワークと日本との関係を検討する。具体的にはニンプスフィールドの聖バーソロミュー教会へ立ち寄り、フォルクナー牧師ならびに英国国教会と日本人のネットワークの繋がりを追究する。これまでの調査により、康荘の学事監督松本源太郎が頻繁に地域の基督教牧師らと交流していることが判明しており、日本においてすでに何らかの繋がりまたは紹介があったことが予想されるため、フィールドワークを積極的に行いたい。 4、明治期における日本人欧州留学の入り口はウィーンである。康荘もドイツへ行く際には、ウィーンを経由した。ウィーンに長期滞在中に何を学んだか、誰と会ったか等を確認し、康荘の「個」への影響について検討する。今年度は3年に1度のヨーロッパ日本研究学会がスロベニアで開催されるので、欧州日本研究者との情報交換と関連研究分野との連携、ならびに、新たな知見を得ることを目的として、国際学会へ是非参加したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の第2回目英国調査(2014年3月)の予定が、卒業式翌日の3月21日から年度内の3月30日までの10日間という時間的制約が生じてしまったため、当初予定していたよりも、旅費が減額したため、平成25年度予算として、162,650円が残った。 平成26年度は、本科研費研究の最終年度に当たるため、研究成果を冊子として刊行する予定である。平成25年度の残額は研究成果を一般に公開するための冊子作成費用として、使用する予定である。
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