2012 Fiscal Year Research-status Report
数学教育における「批判的思考」に関する教育方法学的視座からの研究
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24531090
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
久保 良宏 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (80344539)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
黒谷 和志 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (40360961)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 数学教育 / 批判的思考 / リテラシー / 教師教育 / 教育方法学 / 批判的数学教育 / 反省的思考 / 論理的思考 |
Research Abstract |
本科研研究は,教育方法学からの示唆を得ながら,数学教育の中で「批判的思考」について,教師教育にも着目しながら検討するものである。研究1年目の平成24年度は,文献研究から,教育,学校教育,数学,数学教育において「批判的思考」を考える着眼点について考察し,これを具体的に示した。 具体的には,「批判的思考」は,ユネスコやOECDなどで強調されているように,ブラジルの教育学者,フレイレなどの主張が重要な意味を持つ。これは,リテラシーにも関係する見解である。一方,数学では,数学を可謬的に見る態度が重要であり,その歴史は,古代ギリシアにおける演繹的思考に遡ると捉えることができる。これらを踏まえて学校教育における「批判的思考」について検討してみると,ある事象に対して一方向から考察するのではなく,異なる他者の考えを自分の考えと対比しながら,他者が主張する立場に立って検討し,公平,平等という概念を加えながら,先入観にとらわれることなく,真実により近づいていくものであると考えられる。そして,これらの考察から,数学教育では,算数・数学指導において「批判的思考」を検討する場合は,目標概念,方法概念の両面から考察する必要があり,特に方法概念に着目すると,「ア.社会的事象の問題の解決に,数学を批判的に用いる。」「イ.算数・数学の問題の解決過程を批判的に見る。」「ウ.数学そのものを批判的捉える。」の3つの視点からこの具体化を考えることが重要であるとの知見を得た。 なお,「批判的思考」の類似概念としては,「反省的思考」や「論理的思考」などが挙げられるが,「批判的思考」は,これらの思考よりも,より社会に目を向けられ,究極的には,民主的な社会を創り上げるうえでより重要な思考であると捉えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の目標は,教育方法学と数学にも着目して,文献研究を中心に検討を加え,算数・数学指導において「批判的思考」について具体化することであった。 「研究実績の概要」にも記したように,その具体的な着眼点として,方法概念からは3つの視点を明らかにしたが,目標概念については,これを具体的に明らかにするまでには至らなかった。区分において,(2)としたのは,この点からである。 しかしながら,2つの地域(北海道,東京)における研究分担者や研究協力者などとの研究会を通して,方法概念として明らかにした「批判的思考」について,教材研究の視点から検討を深めるまで至っており,教師教育の観点からは,研究3年次の目標であった授業実践をも含めた実践的研究にまで進んでいる。 なお,本科研研究は,私が研究分担者として加わっている「数学的リテラシーの研究」(代表:長崎栄三[静岡大学大学院教授]),および,「社会的文脈における数学的判断プロセスの研究(代表:西村圭一[東京学芸大学准教授])などの研究とも関連している。本科研と二つの科研は,最終的な目標が異なるが,研究会における議論を通して双方において多くの知見が得られており,これは,本科研の申請当時には想定していなかった部分にまで考察の範囲が広がったと捉えている。 また,算数・数学科教師を対象とする「教師調査」の準備も科研初年度の検討内容であった。これについては,前回の科研(数学科の指導における「授業タイプ」についての研究)との関連から,数学科教師の授業タイプ選択においては,教師の授業目標の捉え方がその要因の一つになっていることが明らかになっていることから,「批判的思考」と「授業目標」との関係に着目した質問紙の作成が示唆されると考えている。なお,この科研の成果については,日本数学教育学会誌において発表している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究2年目(平成25年度)の本科研研究の目標の一つは,算数・数学科教師を対象とする調査研究の実施である。【現在までの達成度】の中でも示したように,教師調査の質問紙についてはすでに検討しているが,研究1年目(平成24年度)の研究成果を発表した日本数学教育学会数学教育論文発表会(査読付き論文)では,「批判的思考」を算数・数学の授業の中に取り入れることへの抵抗もあり,質問紙における質問項目の内容,表現については再度検討する必要があると考えている。 一方,授業実践については,研究計画よりも若干早く進んでおり,教師調査と並行して,授業実践における児童・生徒の反応の分析,また,児童・生徒が記述する授業感想の分析も可能になるのではないかと考えている。 なお,この授業実践については,2つの地区(北海道,東京)の中の,東京地区における国立,または,私立学校での実践を検討しており,この結果を受けて,北海道における公立学校での授業実践を考えている。研究2年目では,東京地区における研究会が重要であり,このための旅費を含めた研究予算の有効な使い方について検討する必要があると思われる。また,調査研究のための予算も考えているが,郵送費については研究費をあてるなどの調整も必要であると考えている。 さらに,学会における研究成果の発表(日本数学教育学会・宇都宮大学),また,研究協力者を中心とした発表(全国算数・数学教育研究大会・山梨)も視野に入れて,研究成果の発表を積極的に行っていきたいと考えており,その成果を広く発信する意味で,独自の研究報告書(中間報告書)の作成も考える必要があり,その予算についても検討したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「該当なし」
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