2013 Fiscal Year Research-status Report
ろう学校の音楽教科における一考察 ー他教科に与える影響ー
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24531266
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Research Institution | Kanazawa Seiryo University |
Principal Investigator |
高垣 展代 金沢星稜大学, 人間科学部, 特任准教授 (90515983)
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Keywords | 身体表現 / リズム / 音 / 教科教育 / ろう教育 |
Research Abstract |
今年度(2年目)は音楽を教科教育としてどの様に展開していくことがよいのかを中心に授業を行った。 脇中(2011)によると「9歳の壁」の現象は現在も多く指摘されていると報告している。この「9歳の壁」をこえるには高度化と高次化を図らなければならない。この高度化は生活言語の充実を意味し、高次化は学習言語である書きことばの充実である。申請者はろう児と対話する時、児童が理解しやすい言葉に置き換え、具体的な内容で伝えようとしてしまう。この現象がろう児の発達によい影響を与えるはずがない。充分に手話を活用できない申請者はジレンマに陥っている。しかし音楽の中では具体的な表現から抽象的な表現への移行が可能である。例えばボールでフレーズを表現する活動を考える。時間の移動をボールという視覚で確認できる物に置き換える。二人組になり向かい合いボールを転がすのだが、ボールが手から離れる時の感覚、相手にボールが到達するまでの転がり方、相手がボールを受け取る瞬間でフレーズを実体験する活動がある。その後「見えないボール」と称してボールを使わず表現のみで相手にボールの移動を伝えるのである。時間と空間をうまく使えるとボールが見えてくる。この活動は高次化への移行の助けとなる。またボールを転がす活動は受け手が必要であり、個の活動より集団的活動となる。学習面で他教科へどの程度影響を与えられているか確認はとれていないが、生活面で相手に対して一方的な関わりだけではいけないと思う気持ちは生まれ始めていると担任から聞いた。教科の目標を達成するため日々努力している教員の隙間を埋める形ではあるが、身体表現することで体験した感覚が学校生活の中で生かされていると実感できた一年であった。 この成果は創立40周年日本ダルクローズ音楽教育学会で発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
音楽教科の授業形態が毎年変わり、今年度は1~4年生、5・6年生合同の2クラスとなった。新入生がいなかったことでクラス編成がおこなわれたようである。昨年度は5・6年生(現6年生と卒業生)の音楽授業は担当していなかった。しかし今年度も5・6年生合同となったため、身体活動を通して音楽授業を経験したことのない6年生4名が加わることとなった。(聴覚障害のみ児童は1名、3名は重複障害児)5年生は昨年1年間身体活動を体験して拍の持続も少し可能になり、空間をとらえて速さを理解したり音のまとまりも感じることができるようになっていた。そこへ一度も身体表現活動を体験したことのない6年生と合同クラスになったため、昨年度からの継続で授業を展開することが不可能となり、研究を見直す結果となった。5年生にとっては重複的内容になり、6年生は合同のため基礎から経験することができなくなった。また4年生は1名在籍しているが(聴覚障害のみ)昨年は上級生と合同で、今年度は下級生と、しかも複数の学年(1~4年)と合同になりこちらも成果を確認できない状態になってしまった。今年度は発展的な内容を考えていたが、上記のようなクラス編成では積み上げることが困難になってしまった。 1~4年クラスではザイロホンやベルを使用して音の高さを理解し、空間を利用して速度の理解、拍をまとめて拍子、拍の半減を体験しリズムパターンの理解を目標とした。5・6年クラスでは6年生の拍の体験から始め、拍の倍加半減と音の強弱・高低を下位目標とした。現5年生は一年間の身体経験の成果が合同授業になった結果、はっきりと表れた。リズムを申請者と4拍交互に打つ場合でも時間と空間を理解して正確な速さで出来た。未体験の6年生と合同授業のため、復習として体験する内容でも体験する方法(身体的表現)は昨年と違う動きで展開するよう、興味関心を失わないように注意を払った。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は具体的な指導案をろう学校に提供したいと考えている。今年度のような授業の再構成は行われないと思われるので(幼稚部に2名在籍している。1名は普通小学校へ進学を希望)教科の共通項目を具体的に指導しながら指導案を作成する。次年度は4年生のみがクラス替えとなり上級生と合同になる。4年児童にとっては毎年合同になる学年が変わる結果となった。まだ2学年合同であれば問題は少ないが、今年度の様に4学年合同にならないようなクラス編成ができないかと考えさせられる。 ろう学校の教員はもちろん音楽専科ではない。そのため音楽授業では歌詞の説明や手話ソング、太鼓のリズム打ちなどが指導の中心になってしまう。音楽の指導書には学習活動の流れとして「1、曲全体の感じをつかむ 2、主旋律を歌う(感じ取る)~」のように、指導の始めにCDの範唱を聴いて曲全体の感じをつかむことになっている。ろう児には手話のDVDを見せることになる。音楽を感覚で感じ取る目的から外れていく結果となるように思われる。児童は手話を見ると真似をすること、歌詞を理解することが中心になり知識としての理解が先に来てしまう。音楽担当の教員によると教科教育を中心に考えるため、せめて共通教材は3・4曲は経験させたいと言われた。3・4曲を体験させることで教科書の中身をすべて学習させることは不可能な状態になるのは仕方のないことだと思う。申請者が行う音楽授業内では身体で感じることを中心に音楽の共通項目の理解をさせたい。昨年DVDの使用や手話ソングをろう児の立場で音楽的に見直したいと思ったが、時間的に余裕がなかった。次年度は教科の中で使用することを考えて考察したい。 ろう児童の教育は主要教科に重点がおかれている。感覚的に理解する指導法は教員の音楽的理解にもかかわってくる問題であるが、誰にでも指導可能な方法で指導案を提供しなければならないと感じている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ろう児童に効果的な授業を行う上で、児童の様子を観察しながら楽器や用具を購入してきた。音がもう少し入る状態かと思い、ハープを購入予定にしていたが、ザイロホンほど効果が期待できないと判断して他の物品に変更した。そのため差額が生じてしまった。 推進方策にも記入したように、手話ソングなどのDVDを授業計画に導入するには視聴しなければならない。その費用に充てるつもりである。
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Research Products
(1 results)