2012 Fiscal Year Research-status Report
高分子のトポロジーへの応用を目指す結び目の局所変形の研究
Project/Area Number |
24540089
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
金信 泰造 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00152819)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河内 明夫 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00112524)
田山 育男 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 研究員 (00382036)
森内 博正 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), その他 (20453128)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 結び目 / DNA結び目 / 絡み目 / バンド手術 / 整合的バンド距離 / H(2)移動 / ジョーンズ多項式 / 交差交換 |
Research Abstract |
本研究の目的は,DNA結び目に作用する酵素の特徴付けを調べる分子生物学の研究,および,高分子のトポロジー(位相的な構造)の研究への応用を目指した結び目,絡み目の局所変形を研究することである.DNA分子は,複製,転写,組み換えという遺伝現象の核心をなす過程においてトポロジーが変化するが,それはトポイソメラーゼとよばれる酵素の働きによるものである.DNA結び目の局所変形を引き起こすトポイソメラーゼの作用を解析することを念頭におきつつ,次の3種類の結び目,絡み目の局所変形について研究をおこなった.(1)整合的バンド手術.(2)結び目の非整合的バンド手術であるH(2)移動.(3)交差交換. 2つの向きの付いた絡み目は整合的バンド手術で移り合うが,その最小回数を整合的バンド距離とよぶ.すでに,この距離を求めるためのいくつかの方法が知られており,それらを利用して,石原とBuckは6交点までの絡み目の間の整合的バンド距離の表の作成をおこなっていた.平成24年度は,かれらの表を足掛かりとして,絡み目の間の整合的バンド距離の表の拡張を目標に研究を始めた.かれらの表において未確定の結び目と絡み目の間の整合的バンド距離を詳細に検討することにより,ある条件下において,Jones多項式を用いた整合的バンド距離を評価する方法を考案した.H(2)移動に対しても似た考え方で適用することができ,それぞれ有効なことがわかった.これとは別に,村上斉の2本橋結び目との交差交換距離(ゴルディアン距離)に関する評価方法を整合的バンド手術に応用することで,2本橋結び目との整合的バンド距離に関する評価方法を見出した.これら2種類の方法により,石原とBuckの6交点までの距離の表を改良し,さらに,7交点の結び目,絡み目についての距離の表の作成に着手した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
整合的バンド距離を評価するための新たな有効な方法として,上に述べたよう(1)Jones多項式を用いる方法,(2)村上の2本橋結び目との交差交換距離に関する評価を整合的バンド手術に応用する方法,の2種類の方法を発見した.これを用いて,石原とBuckは6交点までの絡み目の間の整合的バンド距離の表を改良することができた.さらに,7交点の結び目,絡み目についての整合的バンド距離の表も作成にも着手している. さらに,(1)の方法は,交差交換,および,向きの付いていない結び目のバンド手術であるH(2)移動の距離を評価にも有効であることがわかった.また,同様の考え方にり,HOMFLYPT多項式,Q多項式でも,整合的バンド距離を評価することができることがわかった.さらに,HOMFLYPT多項式は交差交換距離の評価に,Q多項式は交差交換とH(2)移動の距離の評価にも有効であることがわかった.一方,(2)の方法についても,H(2)移動に有効であることがわかった.具体例への応用例はこれからの課題であるが,研究が予想していた以上に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
まず,(ア)7交点の結び目の間の整合的バンド距離の表を作成することを目標とする.距離の下からの評価として,上に述べた(1),(2)の2つの方法が新しく加わり,また,HOMFLYPT多項式,Q多項式が使える場合も考えられるので,より精密な表が得られることが期待される.それとともに,上からの評価として,Darcy-Sumnersの結び目間の交差交換距離の表や,整合的バンド結び目解消数に三角不等式を用いた大雑把なものがある.実際に上から評価するためには,結び目,絡み目の図式を変形する作業が必要になってくる.しかしながら,多くの結び目や絡み目をあつかうためには,直感に頼るだけでなくアルゴリズム的にこのような作業を行う必要があり,この面から図式の研究も押し進める必要があると考えられる. 次に,(イ)7交点の結び目と2成分絡み目の間の整合的バンド距離の表を作成する.さらに,(ウ) Darcy-Sumnersの交差交換距離の表(10交点までの2本橋結び目をすべ含む)で未確定のものについて,上で述べた(1)の多項式不変量を利用する方法が適用できるかどうか調べる. 石原とBuckの表の考察からあらたな整合的バンド距離の評価方法を発見したように,整合的バンド距離, H(2)距離,交差交換距離を調べる結び目や絡み目の範囲を広げることで,あらたな評価方法の発見を期待して研究を押し進めていきたい.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究推進のために,多岐にわたる結び目理論や低次元多様体論の話題に精通している研究者と様々な分野の研究者が共同してあたらねばならない.また,本研究の特徴であるDNA結び目や,高分子化学への応用を目指すためには,DNAの専門家である分子生物学者,高分子化学の専門家からの情報が不可欠である.そのために,当研究課題である『結び目』や『結び目の科学(とくにDNAや高分子化学)への応用』をテーマとする研究集会等に,研究代表者,研究分担者,および,研究協力者は出席する必要がある.具体的には,次年度は,結び目理論,低次元トポロジー関係研究集会については,以下のものが開催予定である. (1)5月22日~24日『ILDT(Intelligence of Low Dimensional Topology)』(京都大学数理解析研究所).(2)7月22日~26日『第5回KOOK-TAPU合同Seminar, 第7回院生ワークショップ』(大阪市立大学).(3)8月5日~8日『トポロジーシンポジウム』(大阪市立大学).(4)9月2日~6日『位相数学と幾何学に関する国際会議 兼 第6回日本メキシコトポロジー合同会議』(島根大学).(5)10月中旬『東北結び目セミナー』(仙台市). (6)11月『4次元トポロジー』(広島大学).(7)12月下旬『結び目の数学VI』(日本大学). 研究代表者,研究分担者,連携研究者は,これらに出席し,研究発表を行なう予定である.とくに,金信は,(1),(2),(3),(4),河内は(1),(2),(4),(5)の研究集会において,組織委員として直接運営に関わる予定である.
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