2014 Fiscal Year Research-status Report
「観測的ブラックホール時空研究」に向けての理論研究
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24540268
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
高橋 真聡 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (30242895)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ブラックホール / 一般相対論 / 磁気流体力学 / 衝撃波 / 高エネルギー天体現象 / サブミリ波VLBI観測 / ガンマ線バースト・ジェット / S2天体の近星点移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)ブラックホール探査に向けての共同研究: 銀河系の中心に存在するとされる「巨大ブラックホール」の観測的検証に向けての理論研究を進めている。観測的検証のため、電波サブミリ波帯でのVLBI観測のグループ、および近赤外線での観測家との共同研究を進めている。今年度は、電波サブミリ波による撮像観測の準備として、ブラックホールの周りの降着円盤の見え方(「ブラックホール影」:ブラックホールの強重力場のために降着円盤が歪んで見える)についてのシミュレーションを実施した。特に、降着円盤からの光線の偏光面がブラックホールの強重力場と時空の引きずりの効果によりどのような変更を受けるか調べた。 (2)ブラックホール磁気圏の磁場形状: ガンマ線バースト・ジェットや宇宙ジェットの起源を探るべく、ブラックホール周りの磁場形状および降着流について調べている。この研究は、海外の研究グループ(モンタナ州立大学)との共同研究である。本研究においては、一般相対論的磁気流体の取り扱いの元で、大局的な磁場の分布を解析的に解く。一般に、プラズマの慣性の効果により磁場構造の解法は困難であるが、我々は磁場が支配的である状況の特別な解を足がかりに、プラズマの流れについて解析した。磁場の強い状況では、ブラックホールの回転エネルギーが外部の磁気圏に抽出できるが、その効率およびプラズマ流体の加速については議論中である。 (3)磁気流体降着流における温度分布: ブラックホールへの降着流は降着につれてガス温度が上昇する。このガス温度の空間分布は、ガスの降着の仕方(速度の変化や密度の変化等)に依存するが、どのような磁場形状、初期条件(角運動量やエネルギー、降着率等)で落下させた場合にガスが超高温に加熱され、超高エネルギー輻射が得られるか調べた。このような輻射は、ブラックホール時空に特有な物理情報をもたらすと期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
一定の研究成果は得られている。今年度は特に、(1)ブラックホール近傍での磁気的ペンローズ過程による超高エネルギー放射の発生、(2)磁気的降着円盤中の磁気流体派の伝搬についての研究が進み、学会発表を行った。また、(3)ブラックホールへの磁気降着流中に発生する衝撃波の研究についてもほぼ完成しており既に学会・研究会等での発表を済ませている。(4)ブラックホール周りの降着円盤像の理論的予測についても(もう少し詰めなければならない部分もあるが)概ね順調である。しかしながら、投稿論文としてまとめるレベルとしては、それぞれ若干の再検証を要する要素が残されており、研究成果としてまとめるにはもう少しの時間を要する(やや遅れている)。 (5)電波VLBI観測グループとの連携については順調である。いままで、観測実現に向けて様々な方面へのアピールを続けて来たが、今年度になって観測グループの体制が整いつつあり、観測実施に向けての予備観測が始まろうとしている。理論モデルとの整合性やあたらな成果の獲得については(本研究テーマの目標の一つ)、これからの観測グループの動向を見据えての研究となるため、現段階ではブラックホール撮像についての顕著な成果が得られるには至っていない(やや遅れている)。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、従来の研究成果を整理し、投稿論文として仕上げる作業を優先させる。その過程において、未解決の要素等を解決し新たな知見・解釈を探る。具体的な研究推進に向けては、(1)「磁気的ペンローズ過程(ブラックホールからの回転エネルギー抽出)」については、計算のパラメータ範囲を広げて、より一般的な議論とする。また、引き抜けるブラックホールエネルギーの最大値(あるいは効率)についての議論を深める。(2)「降着円盤中の磁気流体波の伝播」については一定の理解が得られているが、さらに円盤の外の磁気圏領域での磁気流体波の伝搬の議論を加えて(今年度中に計算・解析する)まとめる。(3)磁気降着流中の衝撃波形成について、その条件式のフォーマリズムについては完成している。今年度は、その衝撃波の性質を探るために、様々な流れのパラメータにおいて計算例を増やして解析する。(4)ブラックホール=降着円盤の画像シミュレーションについては、理論モデルの計算は済んでいるので、実際のVLBIアンテナの配置のもとで「実際にはどう見えるか?」について探る。(5)については、研究会・勉強会を企画し、理論家と観測家の意見交換を通じて「ブラックホール探査」に切り込んでいく。今年度は将来の本格観測に向けての準備的観測に限られると思われるが、ブラックホール観測の背後にどのようなサイエンスが潜むかについての理論的研究を(一般相対論的見地、相対論的プラズマの見地、超高エネルギー放射機構などの見地より)推進しておく。
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Causes of Carryover |
今年度は海外出張を2回実施したが、2回目分については大学研究費から支出した(使用すると科研費予算が赤字になってしまうため)。そのために科研費の未使用額が発生した。次年度も2回程度の海外出張を予定していること、さらに論文の投稿料の確保のため、まとまった額の未使用額として繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
旅費:国立天文台、宇宙科学研究所等の共同研究打ち合わせのため、1~2ヶ月に一度の頻度で国内出張する。また、モンタナ州立大学(米国)の共同研究者との研究打ち合わせのため海外出張する。さらに、研究成果発表のため台北市(台湾)での国際会議に海外出張する予定である。 消耗品:カラープリンター用トナーやコピー用紙などの購入。パソコン周辺機器(データ・バックアップ用のハードディスク)、天体プラズマ・ブラックホール関連図書などの購入。 その他:研究成果を発表するための論文投稿料に充てる。また、年度末に“ブラックホール磁気圏”に関する研究会を開催するので、その運営に際しての旅費補助等に使用する。
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Remarks |
「長野ブラックホール天文教育研究会」は、ブラックホール研究の最先端を高校教員や科学館職員向けに広報・還元する目的で設立された研究会です。
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Research Products
(21 results)