2012 Fiscal Year Research-status Report
核四重極相互作用を用いた局所対称性と電子状態研究の新しい手法
Project/Area Number |
24540349
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
水戸 毅 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 准教授 (70335420)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | NMR / NQR / 核四重極相互作用 / 重い電子系化合物 / 中間価数 / Yb系化合物 / U系化合物 / Sm系化合物 |
Research Abstract |
原子核の陽電荷とその周囲の電荷分布との相互作用(「核四重極相互作用」)は固体物質における微小、或いは局所的な構造変化(電荷分布変化)であっても敏感に検知し、核四重極共鳴に変化が現れることが近年明らかになってきた。本研究では、この核四重極相互作用の測定を中心に、核磁気共鳴(NMR)と核四重極共鳴(NQR)を用いて、興味ある物質における微視的な電子状態を明らかにすることを目的としている。平成24年度の研究活動において第一に取り組んだことは、NMR/NQRの測定システムの改善である。特に、フーリエ変換を用いた測定手法に改良を施し、測定データの精度と信頼性を向上させた。こうした取り組みによる成果の一つは、イッテルビウム重い電子系化合物YbCo2Zn20における格子異常の発見である。この物質は低温下において巨大な電子比熱係数を示し、磁性-非磁性境界近傍に位置する注目すべき物質であるが、我々はこの物質が0.2K以下で格子の膨張を示すことを初めて明らかにした(論文発表準備中)。また、比較的高温の10-20Kにおいても格子異常を観測しており、これまであまり研究例が多くない局在f電子の低温常磁性状態における振舞いを調べる上で恰好な研究対象物質であることがわかった。この他、サマリウム中間価数合物SmB6における超高圧下NMR測定(~6GPa)に成功する等、一定の研究成果が得られた。また、ウラン化合物URu2Si2が示す17.5Kでの相転移は、相転移機構が明らかになっておらず「隠れた秩序」と呼ばれているが、この解決すべき問題についても今まで以上に高い分解能で測定されたデータが蓄積されつつある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
測定環境の整備に関しては、研究代表者が一昨年度に仏国滞在中に学んだNMR/NQRスペクトル測定技術と同等レベルのものを当該研究室に導入することを本研究プロジェクト中の課題の一つとしている。この点については、データ取得に関しては既存の装置を最大限に活かしたほぼ目標通りのレベルに達することができ、データ解析プログラムについても、まだ十分な利便性が達せられたとは言えないまでも、一応の機能性は得られるまでになった。当初の研究目的の一つとしてURu2Si2の17.5Kにおける相転移研究があり、これについては新たに構築されたシステムによって測定が進んでいる。この測定は、当初は昨年度内に終わらせる予定であったが、他の研究対象物質(SmB6)に関して予想以上の研究成果が得られ、その研究に集中のためにスペクトロメターが占有されてしまった結果の遅れであることから致し方ないものであり、プロジェクト全体としては着実な進展が得られている。また、Yb系化合物に関しても確かな研究成果が得られたことから(「9.研究実績の概要」参照)、プロジェクト全体としては適切な進度で研究が遂行されていると思われる。もう少し、進展が欲しかったと思われる課題としては、1MHz以下の低周波数帯域における測定技術開発であり、これについては新たな大学院生との研究として25年度の課題としたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
核四重極相互作用を調べる測定手法が有効であることを示す研究事例を増やすことを主目的とする。具体的には、(1) SmB6のB-サイトにおける四重極共鳴周波数の温度-圧力変化について調べ、Sm価数と四重極共鳴周波数・格子の関係について考察する。加えて、他のSm系化合物との比較研究は非常に有効で、現在そのための試料準備を進めている。(2) YbCo2Zn20の低温フェルミ液体状態についてさらに詳しく調べる。これは京都大学との共同研究である。(3) URu2Si2における系統的なNMR/NQR測定を完了させ、17.5Kにおける相転移に関して対称性低下の実験的証拠が得られるか否かの結論を出す。(4) 相転移機構の詳細が明らかになってない物質(CeB6やYbInCu4など)について本研究におけるアプローチによって再検証を行う。前者は茨城大学、後者は静岡大学との共同研究。(5) 測定技術面に関して、低周波数帯域におけるNQR測定の拡大を実現させる。これは上記(4)の課題を推進させる上でも重要な事項である。また、極低温領域での測定環境を強化して測定領域を拡大するために、既存の希釈冷凍機の補修、加えて現在製作中のヘリウム3冷凍機(ハンドリングシステムが完成)を実際に稼働可能にする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度購入予定の備品は、温度可変インサートと液体ヘリウム液面計である。前者は、昨年度中に発注済みであったが実際の納品が今年度4月になったものである。後者はこの温度可変インサート用に付属させるものであり、これらにより長時間安定してNMR/NQR測定を行うことが可能になる。「11.現在までの達成度」にも記した通り、測定分解能を向上させるために既存の装置を最大限活かしたデータ取り込みは可能にしたが、特に微弱な信号をこれまでよりも出来るだけデータ精度を高めるためには、長時間のデータ積算が不可欠であり、今回購入する備品はそれを可能にするために非常に有効なものである。一方、長時間測定には今まで以上の寒剤(液体ヘリウム・窒素)の消費が見込まれるため、残りの予算の多くはそのための消耗品費として使用する予定である。また、研究成果の発表や議論を行うために必要な旅費としても予算の一部を使用する予定である。特に、本研究プロジェクトを効率よく推進するためには、理論家との議論、また他機関の測定装置を用いた共同研究も必要であり、こまめな出張が必要となると思われる。現時点では、f電子系化合物に関する研究会(6月沖縄)、強相関電子系に関する国際会議(8月東京)、日本物理学会(9月徳島)に参加予定。
|
Research Products
(21 results)