2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24540501
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Gunma Museum of Natural History |
Principal Investigator |
田中 源吾 群馬県立自然史博物館, その他部局等, 研究員 (50437191)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前田 晴良 九州大学, 学内共同利用施設等, 教授 (10181588)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 例外的に保存のよい化石 / カンブリア紀 / 節足動物 / 光スイッチ / CTスキャン |
Research Abstract |
本年度は,南中国の雲南大学に保管されていた節足動物の化石を借用し,CT画像撮影と元素マッピングを行った.高解像度のCTスキャニングを行った結果,現在の節足動物と比較可能な中枢神経系らしき構造が確認できた.また,無蒸着でXRFによる元素マッピングを行い,これらの中枢神経系に銅や鉄が濃集していることを確認した.これらの研究の結果,研究代表者(田中)は,中枢神経系が完璧に保存された節足動物の化石を世界で初めて発見した. 雲南古生物重点実験室の候 先光教授の全面的な協力のもと,節足動物の神経系の権威アリゾナ大学のStrausfeld教授,カンブリア紀の節足動物の系統学的研究で著名な英国自然史博物館のEdgecombe博士および葉足動物の研究者であり,候 先生の弟子である馬博士とともに,これらの神経系についての論文を仕上げた.Strausfeld教授による脳の部分の観察から,アノマロカリスなど「大付属肢」をもつ,絶滅した節足動物についての新知見が得られた.これらの研究成果は,表面の付属肢の構造や配列とは別の,観点からカンブリア紀初期の節足動物の系統学的研究を可能にし,今後のカンブリア紀の生物の進化学的研究を大きく塗り替えることが想像される.論文は現在,国際誌に投稿,査読中である.さらに,研究代表者は日本におけるカンブリア紀生物の研究者として,NHKのBSプレミアム番組「コズミックフロント」に出演した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中国の現地調査も成功し,そして例外的に保存された中枢神経系の化石も発見することができた.さらに,節足動物の神経系の権威であるStrausfeld教授によるチェックによって,私の発見したものが真に中枢神経系の化石であったとのお墨付きを頂いた.この研究にはCTスキャンと元素マッピングが必要なことも当該教授(神経学専門)も認め,日本,中国,英国,米国の研究者が一体となって,この新しい研究領域の発展にプロジェクトを結成することができたことは,大きな成果である.また,眼が保存された節足動物の化石も多数,雲南大学に所蔵されていることが明らかになった.今後,眼と神経系の研究で「光スイッチ説」を検証する足がかりをつくることができたといえよう.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,チェンジャンのほかの動物について,神経系や眼が保存されている化石を見つけ出し,インパクトのある研究を行う予定である.たとえば,カンブリア紀の最大の生物「アノマロカリス」や,私たちヒトの祖先にあたる「ミロクンミンギア」などの神経系を明らかにし,化石として保存された神経系の形態とあわせ,眼の構造を調査し,カンブリア紀の生物大進化が眼の誕生によって引き起こされたとする「光スイッチ説」について古生物学的視点から調査してみたい.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
26年度は研究代表者(田中)が,チェンジャン動物群の眼の異質性(門レベルでの多様性)について研究し,論文を執筆するとともに光スイッチに関わる普及書の発刊に取りかかる. 本研究課題で明らかになった,カンブリア紀初期のチェンジャン化石群の眼と,それを持つ動物の詳細な復元スケッチを,実写真をふんだんに織り交ぜ,さらにタフォノミーの視点から,脳などの動物体内の器官がいかにして化石として保存されたのかを詳細に記述した,世界に類を見ない本となる.スティーブン・J・グールドの著書「ワンダフルライフ」に記載されている,カンブリア紀の生物大進化のもととなった生物の異質性を,眼の異質性の調査と,それを可能にした化石保存のメカニズムに焦点を絞って解説する. チェンジャン動物群のいくつかの種については,これまでの研究者が針と刷毛を用いて,顕微鏡下で,クリーニングを行い,付属肢や触覚などの軟体部を剖出することで,生物体の復元画を描いている(Hou and Bergström, 1997; Hou et al., 2004).X線CTスキャン装置(コムスキャンテクノ株式会社でスキャニングを行う)を用いて,非破壊で付属肢や触覚などの軟体部を調査し,これまで詳細が明らかにされていない化石の復元を行う.これらの成果も,論文として投稿するとともに,新たなチェンジャン化石の研究法として,普及書にも紹介する.
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