2012 Fiscal Year Research-status Report
金属錯体のスピン転移と格子欠陥:固体高分解能NMRによるキャラクタリゼーション
Project/Area Number |
24550003
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
丸田 悟朗 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (00333592)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 電荷移動相転移 / 原子価互変異性 / 固体高分解能NMR |
Research Abstract |
プルシアンブルー類似体AxMn[Fe(CN)6]y・zH2O (A=Rb,Cs)は、大きなヒステリシスを伴う電荷移動相転移を示す、不定比化合物である。A=Rbのルビジウム塩については、x=1,y=1,z=0の量論組成の化合物の合成方法が知られている。本研究では、A=Csのセシウム塩について、同じくx=1,y=1,z=0の量論組成の化合物の合成を目指した。さまざまな合成条件を検討した結果、組成と物性の再現性が高い合成方法を見出した。量論組成の化合物はいまだえられていないが、現在のところ量論比に近いx~0.9,y~1.0,z~0.0の化合物を得ている。このセシウム塩について磁気的性質、相転移温度などの物性を測定したところ、ルビジウム塩とほぼ同様の性質を示すことを明らかにした。測定結果に基づいて、アルカリ金属の違いがもたらす物性の違いを定量的に議論した。 オルトベンゾキノンとコバルトからなる金属錯体には、結晶状態で原子価互変異性(幾何構造が同じで電子状態が異なる互変異性)を示すものが多数報告されている。本研究では、そのうちの一つ、Co(DBBQ)2(py)2・0.5py (3,5-DBBQ=ジtertブチルオルトベンゾキノン, py=ピリジン)のtertブチル基を選択的に重水素化した試料の固体重水素核高分解能NMRスペクトルの温度依存性を測定することにより、このコバルト錯体の電子状態と原子価互変異性の動的構造とを明らかにすることを目的とした。測定されたNMRスペクトルはきわめて複雑な温度依存性を示し、解析不能と思われたが、部分重水素化した試料を合成し、これのNMRスペクトルを測定することにより、NMRピークの帰属をすることができた。ピークの温度変化の解析結果に基づいて、錯体の電子状態と原子価互変異性の動的構造について議論した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、本年度は(1)電荷移動錯体および(2)スピンクロスオーバー錯体についてNMRスペクトル測定を主とした研究を行う予定であった。(3)原子価互変異性錯体については、25年度以降に実施予定であった。 (1)については、当初の目的どおりに組成と物性の再現性が高い合成法を確立することができた。その合成条件を検討する過程で、これまでに報告のない組成の化合物が合成できそうな手応えがあった。そこで、NMR測定による格子欠陥のキャラクタリゼーションは次年度以降に手がけることにして、合成研究を実施したところ、当初の計画以上に研究を進展させることができた。 (2)については、計画通り既知物質を同位体標識し、粉末微結晶試料の多核固体NMRスペクトルを測定した。しかし、その温度依存性から明らかになったことは、研究目的を達成するには、単結晶NMRスペクトルの測定が必要である、ということであった。単結晶NMRスペクトルの測定は、当初の計画どおり平成25年度以降に実施する予定である。 (3)原子価互変異性を示すコバルト錯体について、予定を繰り上げて本年度から研究を実施した。測定されたNMRスペクトルが複雑なものであったため、解析不能かと思われたが、部分重水素化により、複雑なピークの温度変化を解析することができた。 以上の(1)~(3)を総合すると、本研究はおおむね順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り、(1)電荷移動錯体、(2)スピンクロスオーバー錯体、および(3)原子価互変異性錯体の、NMR測定による格子欠陥のキャラクタリゼーションを実施する。 (1)については、本年度に引き続き、新しい組成の化合物の合成も試みる。 (2)については、NMR測定に適した良質の単結晶が得られない可能性も考慮して、他のスピンクロスオーバー錯体についても検討する。 (3)については、本年度の研究遂行中に、結晶溶媒の含有量が異なる結晶を新たに見出した。研究の題目からは若干それるが、この結晶についても検討する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の計画通りである。 設備備品に充てる計画はない。 主に消耗品(実験器具、実験機器、薬品、回路部品)を購入する。 旅費については、外国旅費はなく、すべて学会発表のため国内旅費である。
|
Research Products
(4 results)