2012 Fiscal Year Research-status Report
プルシアンブルー系ナノ結晶多層膜の陽イオンサイズ選択型電子整流効果
Project/Area Number |
24550069
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
栗原 正人 山形大学, 理学部, 教授 (50292826)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 配位高分子 / プルシアンブルー / ナノ結晶 / 酸化還元 |
Research Abstract |
プルシアンブルー(PB)とその類似体(PBA)ナノ結晶、及びその高濃度安定分散液の簡便・合成技術を基盤に、その分散液塗布法により得た多成分積層膜の陽イオンサイズ選択型電子整流効果のメカニズム解明を本研究の主たる研究目的とした。PB・PBAの以下の特性を生かし研究展開した:①d-π多重電子系で連結された配位高分子、②陽イオンサイズ選択ナノ空間を内含する配位高分子、③金属組成に依存した酸化還元電位制御が可能。24年度の研究計画として具体的には:①塗布膜の直接観察、②整流メカニズムの解明(イオンゲート・電子ゲートの機能検証=サイズ選択的アルカリ金属イオン取り込みに関わるPBの構造因子の解明)、を実施した。 ITO透明電極基板上に、PB 及びNi3[Fe(CN)6]2の2種類の水分散液を用いて簡便なスピンコート法により、2層膜(下層/上層:PB/Ni3[Fe(CN)6]2)を作製した。その断面では、組成の異なるナノ粒子層が明確に区別されて電界放出型走査電子顕微鏡で観察された。100℃の加熱処理(アニーリング)を施すことで、大きなボイドやクラックのない粒子同士の緻密膜(PBは緻密球状粒子層、Ni3[Fe(CN)6]2は緻密板状粒子層)が形成されていた。200 nmを超える膜厚の粒子層であっても良好な電気化学応答性を示すのは、この緻密な粒子接合によりと考えられる。2層膜(下層/上層:PB/Ni3[Fe(CN)6]2)の整流発現の駆動力となっているアルカリ金属イオンのサイズ選択的取り込み機構の解明を進めた。EQCM測定により2層膜が連動した酸化還元に伴うカリウムイオンの選択的脱着を明らかにした。また、カリウムイオンのサイズ選択的取り込みは、ナノ結晶内のフェロシアン酸イオンの欠損サイトが重要な機能を果たしていることを、セシウムイオンの自然吸着機構との比較から明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
24年度で想定した研究計画を実施した結果、以下の知見や良好な成果が得られた。 プルシアンブルー及びその類似体の酸化還元はその結晶空孔へのアルカリ金属イオンのサイズ選択的出し入れと連動して起こる。一方で、その詳しい機構やプルシアンブルーの構造因子については、未だ、解明されていなかった。本研究では、セシウムイオンのサイズ選択的自然吸着機構の解明とカリウムイオンの出し入れによる酸化還元機構に関する調査を行った。結果、酸化還元に伴うカリウムイオンの出し入れは、フェロシアン酸イオンの欠陥サイトの存在が重要な役割を果たしていることを初めて明らかにすることが出来た。本成果は論文投稿中であり、また、これまで不適合とされた他のサイズのアルカリ金属イオンにおける新たな研究戦略に繋がる重要な成果となった。 研究者のオリジナルの発明技術で作製したプルシアンブルー及びその類似体のナノ結晶高濃度分散液は、その簡便なスピンコート法でITO基板上に緻密な粒子膜を作製できることが分かった。一般に、ナノ結晶塗布膜は、そのアニーリングにより、多くの膜欠陥(ボイドやクラック)が発生しやすく、それが致命的な導通不良や電極破壊の原因になる。本研究での電子顕微鏡観察でそうした膜欠陥が見られなかったことは今後の研究展開には意義のある結果と言える。現在、25年度に計画し単粒子層膜の作製法への展開も進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
主に計画①②に基づき、研究を推進する。 計画①、粒子の精密積層(単粒子層とその積層)技術の開発:ITO等の電極基板上にSAM有機分子膜を作製し、その置換基を介したPB、Ni3[Fe(CN)6]2のナノ単粒子層膜の作製とその機能評価を実施する。単粒子層は原子間力顕微鏡観察あるいは電子顕微鏡でその膜構造の評価を実施する。また、その電子伝導・イオン伝導性を交流インピーダンス法で調べる。電極基板上に自在に緻密な単粒子膜やその積層膜を精密作製できる技術の獲得を通じて、粒子径依存、膜厚依存による整流メカニズムの解明に迫る。 計画②、リチウムイオン応答性電極の開発:前年度の研究成果において、PBの酸化還元におけるカリウムイオンの選択的応答性とその結晶構造に関する因果関係が明らかになった。25年度は、この新たに得られた知見を積極的に発展させる予定である。リチウムイオンに対して選択的応答するPBの結晶構造因子を解明し、イオン選択的電流制御の可能性を拡大していく。 計画①②を実施するが、その進展を鑑み、以下の③を追加計画として挙げる。 計画③、酸化還元電位傾斜薄膜・多層膜への展開:FeとNiの組成を系統的に制御したFexNiy[Fe(CN)6]2•zH2O(x+y=3)ナノ結晶とその水分散液の作製に成功している。その酸化還元電位は、組成に依存して系統的にシフトすることが最近見出された。このFexNiy[Fe(CN)6]2ナノ結晶膜を組成順に系統的に積層(多層化)することで新しい電位傾斜膜の作製を試み、そのイオン伝導・電子伝導の協働効果を調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究を推進するため、必要とされる以下の設備の殆どが既に充足さていおり、50万円を超える設備備品費を計上する予定はない。充足された設備:交流インピーダンス測定装置(環境試験器付属)、電気化学測定装置、EQCM装置、波長分散型蛍光X線分析装置、動的光散乱粒子径・ゼータ電位測定装置、原子吸光光度計(固体サンプル直接測定ユニット付属)、マイクロ波前処理・合成装置、粉末X線回折装置、紫外可視近赤外分光光度計(拡散反射スペクトル用積分球付属)、FT-IR分光光度計(ATR+偏光+MCT検出器付属)、冷却高速遠心分離機、電界放出型透過電子顕微鏡(元素分析EDS付属)、電界放出型走査電子顕微鏡(元素分析EDSとWDS付属)、原子間力顕微鏡、真空蒸着装置、スピンコーター、ナノディップコーター。 研究費の使用計画としては、物品費として、上記の機器類を用いた測定・解析に必要な消耗品費、ナノ結晶合成に必要な試薬・器具に係る消耗品費、学会発表等に必要とされる旅費、謝金、その他として、論文投稿に必要な経費、を予定している。
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