2013 Fiscal Year Research-status Report
プルシアンブルー系ナノ結晶多層膜の陽イオンサイズ選択型電子整流効果
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24550069
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
栗原 正人 山形大学, 理学部, 教授 (50292826)
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Keywords | 配位高分子 / プルシアンブルー / ナノ結晶 / イオン伝導 / 酸化還元 |
Research Abstract |
ナノ結晶はその表面を改質することで溶媒に高濃度で安定分散させることができる。その分散液の獲得により、スピンコート法やディップコート法などの簡便な方法により、基板に均一にナノ結晶薄膜を作製することができる。一方、結晶界面改質は、ナノ結晶個々を独立させる機能を付与するため、逆に薄膜全体での機能を低下させてしまう=薄膜全体のイオン伝導や電気伝導を阻害する=結晶粒界がその機能・性能を支配してしまう、トレードオフの関係が問題になる。24年度の研究では、プルシアンブルー(PB)ナノ結晶分散液を用いたスピンコート法により得られた薄膜について、粒子同士を接合する目的で、100℃程度の低温アニーリング行った。その薄膜は電子顕微鏡観察により致命的なボイドやクラックが発生していない極めて緻密な構造であること見出した。25年度では、そのアニーリング粒子接合による膜全体の機能向上が実現しているか?を明らかにするため、自己組織化膜上、その末端官能基を介してPBナノ結晶を結合させその単層膜を作製、更に低温アニーリングを行い、そのイオン伝導挙動について評価した。併せてそのイオン伝導メカニズムについて議論を行った。ITO透明電極基板上に、スピンコート法により作製したPBナノ結晶(下層)及びNi系PBAナノ結晶(上層)2層膜の低温アニーリング膜は、その電子とイオン伝導性が連動したゲート機能により、良好な整流が発現する。25年度は、本研究の概念の普遍性を提案し、且つ、本研究を飛躍的に加速させるため、2層膜の下層を可逆な酸化還元活性を有するルテニウムポリピジン錯体に置換、上層にPBナノ結晶薄膜を作製し、同様な整流性が発現するかを調べた。PBナノ結晶を繰り返し積層した場合、その積層数に依存して、整流性を示す電流が単調に増加することを見出し、下層の電子伝導ゲート効果の重要性を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
基板上に自己組織化膜(SAM)を作製、その末端の官能基を介してPBナノ結晶の単粒子層膜の調製法を確立することができた。特に、PBナノ結晶分散液に含まれる粗大粒子を遠心分離により除去することで、粒子径において比較的狭い分布からなる分散液を得ることに成功した(動的光散乱粒度分布の測定から)。その結果、SAM膜上には、均一・緻密な単粒子層膜の作製が可能にとなり、そのイオン伝導及び電子伝導の系統的な評価が可能になったことは、本研究を更に進展させるための独創性の高い大きな成果言える。また、アニーリングによるナノ結晶同士の接合は、ナノ結晶界面と結晶内の空孔を介したイオン伝導性を比較する上で重要である。電子とイオン伝導性が連動したゲート機能により発現する整流現象は、そのメカニズムの議論から、これまで採用したPBナノ結晶及びNi系PBAナノ結晶2層膜以外の系でも適用できることが想定された。そこで、これを実証するため、2層膜の下層を可逆な酸化還元活性を有するルテニウムポリピジン錯体に置換、上層にPBナノ結晶薄膜を作製し、同様な整流性を見出すことができた。当初、下層のルテニウムポリピジン錯体膜の作製法と上層のPBナノ結晶薄膜のマッチングに試行錯誤したものの、一定の成果を修めることができ、本研究の概念の普遍性と、今後の研究が加速度的に進むと期待される。フェロシアン酸とフェリシアン酸イオンが共存するベルリングリーンは、電子伝導性が飛躍的に向上するとの理論的な報告がなされた。酸化還元電位が金属組成に依存して系統的にシフトするNi系PBAナノ結晶も同様に、フェロシアン酸とフェリシアン酸イオンが共存する系であり、今後、そのイオン伝導性と電子伝導性の評価を実施するため、SAM膜を介したその単粒子膜の調製法とその評価法は、新たな展開に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
主に計画①②基づき、研究を推進する。 計画①:フェロシアン酸とフェリシアン酸イオンが共存するNi系PBAナノ結晶のSAM膜を介したその単粒子膜の電子伝導・イオン伝導挙動について、交流インピーダンス法を用いて評価する。その結果をPBナノ結晶単粒子膜の場合と比較し、電子伝導・イオン伝導挙動について考察する。PB及びPBAナノ結晶内部に存在する格子空間・構造欠陥空間へのアルカリ金属イオンの導入による上記、単粒子膜の電子伝導・イオン伝導挙動に与える効果について調べる。PB及びPBAナノ結晶において、低温アニーリング前後での表面積の変化や内部の格子空間・構造欠陥空間の細孔分布について定量的な議論を行う。 計画②:昨年度と引き続き、2層膜の下層を可逆な酸化還元活性を有するルテニウムポリピジン錯体に置換し、その上層にPBナノ結晶薄膜作製を実施し、上層のPBナノ結晶層の厚みに依存した整流効果について定性的な議論を可能にする。整流発現について、PB層の種々のアルカリ金属イオンに対するイオンゲート効果の影響を明らかにする。光照射(光励起)を組み合わせ、昨年度見出された電子整流性と光刺激電子ゲート機能の発現を目指す。 計画①②の進展を鑑み、昨年度実施できなかった追加項目(計画③)も考慮する。 計画③、酸化還元電位傾斜薄膜・多層膜への展開:FeとNiの組成を系統的に制御したNi系PBAナノ結晶とその水分散液の作製に成功している。その酸化還元電位は、組成に依存して系統的にシフトすることが最近見出された。このNi系PBAナノ結晶膜を組成順に系統的に積層(多層化)することで新しい電位傾斜膜の作製を試み、そのイオン伝導・電子伝導の協働効果を調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
学内業務により、当初予定していた国際学会への参加・成果報告ができなったことによる旅費の支出減、また、2月10日に発生した火災の消化放水被害により、研究遂行に障害が生じ、当初の予定より物品費等の支出が少なかったため、当該助成金が生じた。 本課題を達成するにあたり、研究対象としているプルシアンブルーおよびその類似体ナノ粒子膜の電子伝導性に関する系統的なデータ収集の必要性が新たに生じた。その電子伝導評価のため、物品費(設備と消耗品費)として使用する計画である。その他、学会への参加・成果報告のための旅費の支出、謝金の支出も計画している。
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Research Products
(7 results)