2013 Fiscal Year Research-status Report
病原性細菌の鉄取り込みに関与するタンパク質の構造・機能に関する研究と創薬への応用
Project/Area Number |
24550182
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
内田 毅 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30343742)
|
Keywords | 病原菌 / 鉄 / 酵素 / ヘム |
Research Abstract |
本研究は病原性細菌の一つであるコレラ菌が自身の増殖に必要とする鉄原子を獲得する機構を蛋白質レベルで明らかにすることを目的とした研究である。コレラ菌のゲノム配列を遺伝子解析し、HutZと呼ばれる蛋白質がヘムの分解酵素である可能性を見出したので、大腸菌での発現系を構築し、精製蛋白質の反応解析を行った。これまでの研究からヘム分解酵素はヒト型、黄色ブドウ球菌型、ピロリ菌型の三種類に分けられ、それぞれ立体構造が異なることが知られる。HutZはピロリ菌型の酵素であるが、ヒト型の酵素がヘムを分解する時に観測される中間体と同じ中間体を経由してヘムを分解することが示され、立体構造に相同性はないが、ヒト型酵素と同じ反応機構でヘムを分解することを明らかにした。しかし、中性付近での反応性が著しく低いという特徴があった。活性部位近傍の構造を分光学的手法を用い検討した結果、ヘムと結合するヒスチジンが周囲のアミノ酸残基と水素結合を形成し、それによりヒスチジンが分極し、酸化型のヘムを安定化させるためであり、逆にこの水素結合の強度を弱めると還元反応が進むことがわかった。ヒト型のヘム分解酵素の場合、電子の供給が還元酵素か還元剤かに関わらず反応が進むのに対し、HutZでは還元剤からは電子を受け取れない構造をしているため、還元酵素の存在が反応に必須であると考えられる。これは、人の体内では恒常的にヘムを分解しているのに対し、コレラ菌では、水辺など増殖に適していない環境に存在する場合、酵素活性を抑制し、エネルギーを無駄に消費しない状態で存在しており、一旦、ヒトの体内に侵入し、栄養が豊富で、増殖が可能な状況にると酵素を活性化させ、急激に増殖する、というように生存している環境に応じ、酵素活性を制御する必要があり、菌の生存に合致するような反応機構を有するという新たな概念を提案することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度はコレラ菌のヘム分解酵素の詳細な反応機構を明らかにすることができた。ビフィズス菌などのヒトの常在性細菌の多くはヘムの分解酵素を持たないのに対し、結核菌や黄色ブドウ球菌などヒトに有害な細菌の多くはヘムの分解酵素をもつことを遺伝子解析により明らかにし、コレラ菌もその例外でないことがわかった。さらに、これまで知られているヘム分解酵素と異なり、活性部位近傍に水素結合のネットワークが形成されており、これにより酵素活性が抑制されているが、蛋白質-蛋白質相互作用などにより、水素結合の強度が変化すると容易に活性が上昇することがわかった。ペプチド鎖の一部を切断することにより、酵素活性を上昇させる例は知られるが、水素結合の強度変化による活性の制御はこれまでほとんど例がなく、ペプチド鎖の切断が非可逆的なのに対し、水素結合の強度変化は可逆的なので、周囲の環境に応じ、柔軟に酵素活性を制御可能であるという特徴をもつ。これは、酵素科学の分野における新たな発見であると共に病原性細菌に対する治療薬の開発などにつながる貴重な発見であり、当初の予定通り、順調に成果が得られていると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
ヒトに感染した病原性細菌にとって、鉄は主要な栄養素の一つである。初年度は、ヘモグロビンのヘムが主要な鉄源であり、そのヘムを分解し、鉄を取り出す酵素を同定し、その反応機構を明らかにしたので、今年度は獲得した鉄の利用について検討する。鉄は鉄-硫黄クラスターの合成やヘムの合成に利用される。ヘム合成の最終酵素はポルフィリン骨格に鉄を挿入するフェロキラターゼと呼ばれる蛋白質であるが、遺伝子解析によりVC0987という遺伝子が他の生物由来のフェロキラターゼと相同性が高いことから、この蛋白質の発現系を構築し、コレラ菌のフェロキラターゼの同定を行う。さらに、フェロキラターゼに鉄を輸送する蛋白質として、フラタキシンという蛋白質が知られるが、VC0123という遺伝子がフラタキシンの相同蛋白質であることから、VC0123の発現系を構築し、その構造と機能を明らかにする。これらの研究により、HutZがヘムを分解し、鉄を放出した後、VC0123が放出された鉄と結合し、それを鉄を利用するフェロキラターゼに輸送し、フェロキラターゼが酵素反応で利用する、という菌体内でのヘムの動態を明らかにすることが可能となり、菌体内における金属イオンの利用機構を明らかにする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究は順調に遂行されており、予算も適切に消費しているが、基金であることから年度末に無駄に消費せず、次年度に繰り越したためである。 次年度使用額として14,751円が計上されているが、次年度の交付額と合わせ、大腸菌培養用の試薬費の一部として使用する予定である。
|
Research Products
(6 results)