2014 Fiscal Year Research-status Report
細胞で行われる核酸反応を解明するための新規モデル実験システムの構築と利用
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24550200
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
中野 修一 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 教授 (70340908)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | DNA二重鎖 / 分子クラウディング / 脂肪酸結合タンパク質 / ゲル / ポリエチレングリコール / 融解温度 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、UV測定が可能な数パーセント濃度のアガロースゲルとポリアクリルアミドゲルを用いて、ポリマーDNAの構造安定性を評価する方法を試みた。UV吸光度の測定結果を解析したところ、ゲルの網目サイズに関わらずポリマーDNAの融解温度はほとんど変化せず、本研究で検討した条件ではDNAの閉じ込め効果は小さいことが示された(国際材料学会連合-アジア国際会議2014で発表)。この方法はオリゴマーDNAの測定にも利用することができ、様々なDNA配列と構造体を用いた検討を実施した。 タンパク質を使った新しい分子クラウディング実験系を用いた研究については、昨年度までに調製法が確立された脂肪酸結合タンパク質(FABP)と、市販のタンパク質を用いてモデル実験系を構築した。DNA構造の融解温度を測定した結果、タンパク質の種類によってDNAへの影響が異なることが示された。重要なことに、ポリエチレングリコールなどの人工高分子を用いた場合と比較して、FABPによる分子クラウディング環境はDNA構造の融解温度に大きく影響することが明らかになった。さらに、人工高分子とタンパク質のモデル実験系を融合させたハイブリッド型実験システムを構築することもできた。 細胞では金属イオンの多くがアニオン性分子に結合してしまう。このため、核酸が利用できる金属イオンの量は限られてしまう。このような金属イオンが局在化した分子環境の影響を調べるために、様々なアニオン性分子の共存下でハンマーヘッドリボザイムの酵素活性を測定した。このリボザイムのRNA切断活性は金属イオン濃度に依存し、多価アニオン共存下では酵素活性は大きく低下することが示された。とくに、核酸分子が共存する場合、そのリン酸負電荷から期待されるよりも大きな活性阻害が見られ、高分子電解質としての作用がリボザイム活性に大きな影響を与えることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)ハイドロゲルのナノ空間に閉じ込められたDNA分子の構造安定性を調べる実験については、当初の計画通りに進展した。とくに、今年度に開発したUV測定が可能なゲルが、オリゴマーDNAの測定にも利用できたことから、様々なDNA配列を使った実験を実施することができた。 (2)タンパク質による分子クラウディング効果を調べる課題については、実際の細胞内分子クラウディング環境をつくり出しているFABPを使ってDNAの構造安定性を評価することができた。さらに、人工高分子(ポリエチレングリコールやデキストラン)とタンパク質(ウシ血清アルブミンやリゾチーム)を共存させたハイブリッド実験系を構築することにも成功した。しかし、このハイブリッド実験系は実験条件によっては白濁が生じてしまうことがわかり、実験条件を最適化させ、DNAの構造安定性を評価するという課題が残されている。 (3)アニオン性分子による金属イオン局在化の影響を評価するために、様々なアニオン性分子共存下において核酸と金属イオンの結合性を調べた。アニオン性分子の影響と溶液物性の関連性を分析し、DNAとRNAの構造安定性やリボザイムのRNA切断活性に対する影響を説明できることを見出した。この実験課題では論文として公表できるほどのデータが揃い、目的は達成できたと考えている。
以上(1)~(3)に示したように、本研究は全体として順調に進展し、様々な種類のモデル実験系を構築する目処が立った。こうした細胞環境に近いモデル実験系の構築に成功したことで、分子環境効果を調べるための実験手法のバリエーションが増え、中性溶質分子を用いる従来の手法との今後の相乗的発展も期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
ポリエチレングリコールやデキストランなどの人工高分子を用いた場合と比べて、タンパク質による分子クラウディング環境がDNAに大きな影響を与える理由の解明を試みる。具体的には、モデル実験を使って得られる実験データ(蛍光融解法によって得られるDNA構造の融解温度)を、タンパク質の物性(サイズ、電荷など)や溶液物性(粘度、水の活量、誘電率など)と比較する。同時に、人工合成ポリマーやオリゴペプチドを用いた場合に得られる実験データと比較する。このような検討により、タンパク質がつくり出す分子環境の効果を化学的な視点から明らかにしていく。さらに、中性溶質とタンパク質のモデル実験系を融合させたハイブリッド型実験系を使った測定も進める。実験条件を再検討し、DNAの構造安定性を再現性よく評価できる実験系の構築を目指す。そして、タンパク質の影響が人工高分子の添加によってどのように変化するのかを調べ、タンパク質による排除体積効果を調べる。こうした試みは前例がなく、細胞のタンパク質による分子クラウディング効果を解明するための重要なデータになると期待される。
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Causes of Carryover |
タンパク質を使った分子クラウディング実験系を構築するという研究課題において、想定外の問題(沈殿生成や低再現性)が発生したことにより実験の遅れが生じた。このため、平成26年度は実験条件の検討に時間を費やすことになり、ハイブリッド型実験系によるDNAへの影響を調べるための実験計画の一部変更を余儀なくされた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は、タンパク質を使った分子クラウディング実験系において、沈殿生成や低再現性という問題を解決し、DNAの構造安定性を評価する。そして、タンパク質を用いたハイブリッド型実験システムを使った評価を行う。これらの実験を実施するために、DNAとRNAの委託合成費や、酵素・緩衝溶液・各種実験キットなどの消耗品の購入費として使う。また、本研究で得られるデータを論文として公表するための英文校正費と、必要に応じてオープンジャーナル掲載のための費用にも使う予定である。
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