2012 Fiscal Year Research-status Report
低電圧駆動有機トランジスタの素子動作・劣化機構のミクロ解明と特性向上
Project/Area Number |
24560004
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
丸本 一弘 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (50293668)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 有機トランジスタ / 電子スピン共鳴 / ミクロ特性評価 / 素子動作機構 / 素子劣化機構 / イオンゲル / 低電圧駆動 / 高電荷密度状態 |
Research Abstract |
本研究では、電子スピン共鳴(ESR)法をイオンゲルを用いた低電圧駆動有機トランジスタに適用し、素子動作中のESR観測によるミクロ特性評価を進めながら、特に、これまでESR法により研究されてこなかった高電荷密度状態での素子動作機構と素子劣化機構の解明を微視的な観点で行う。 本年度は、イオンゲルを用いた高分子薄膜トランジスタと有機単結晶トランジスタを作製し、ESR研究を進めた。高移動度を示す立体規則性ポリヘキシルチオフェンとルブレン単結晶を用いた。素子のトランジスタ特性を半導体デバイスアナライザにより精密に評価した。そして電場誘起ESR観測を行い、電界注入キャリアの電子状態を研究した。 高分子薄膜トランジスタでは、素子駆動時の電荷キャリアの電子状態(スピン状態やキャリア間相互作用)を駆動電圧の関数として明らかにした。低ゲート電圧では電荷キャリアはスピンを持つポーラロンであるが、高ゲート電圧では非磁性の電荷キャリア(スピンレスのポーラロン対またはバイポーラロン)が実現し、伝導に寄与していることが明らかになった。また、高電荷密度状態での電荷キャリア間相互作用として、2次元の磁気双極子相互作用の存在が明らかになった。 ルブレン単結晶トランジスタでは、イオンゲルを用いた高電界下でも、イオンゲル界面でのルブレンの分子配向は乱れておらず、バルク分子配向と同じことが証明された。また、イオンゲルを貼り付け法で作製した場合、ルブレン界面に電荷キャリアの深いトラップ準位が形成されないことも分かった。よって、イオンゲルとESR法の組み合わせは、クリーンな有機単結晶界面における高密度電荷状態の物性研究に最適であることが示された。 以上の研究成果については、国際会議等で招待講演等により報告すると共に、Appl. Phys. Lett.やAppl. Phys. Express等の学術論文に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ESR法は電荷キャリアのスピン状態を詳細に調べることが出来るので、本年度は、まず、ESR測定が可能なイオンゲルを用いた有機トランジスタを作製し、素子駆動時の電荷キャリアの電子状態(スピン状態やキャリア間相互作用)を明らかにすることを計画し、達成できた。以下に、達成出来た点の要点を簡潔に述べる。 ESR測定が可能なイオンゲルを用いた有機トランジスタの作製を行うことが出来た。そして、そのトランジスタ特性を半導体デバイスアナライザにより精密に評価し、半導体材料のp型の極性を調べ、電荷蓄積状態を確認し、ドレイン電流のゲート電圧依存性から電界効果移動度やドレイン電流のオンオフ比などを求めることが出来た。得られた特性は、これまで報告されているものと同程度の値を得ることが出来た。 高分子薄膜トランジスタの電場誘起ESR研究により、低電荷密度では電荷キャリアはスピンを持つポーラロンであるが、高電荷密度では非磁性の電荷キャリア状態(スピンレスのポーラロン対またはバイポーラロン)が実現し、伝導に寄与していることが分かった。そして、この現象は、低分子系のルブレン単結晶トランジスタでは生じず、高分子系特有であることも突き止めた。更に、高電荷密度状態でのキャリア間相互作用が反映されたESR信号を観測することにも成功した。 ルブレン単結晶トランジスタの電場誘起ESR研究により、高電荷密度状態での有機界面の状態を詳細に明らかにすることが出来た。高電界下においても、分子の脱離などの現象は生じず、イオンゲル界面での分子配向はバルク分子配向と同じであること、また、電荷キャリアの深いトラップ準位は生じないことを明らかにし、クリーンな有機単結晶界面が形成されていることが分かった。 以上の研究成果については、国際会議等での招待講演等や、Appl. Phys. Lett.等の学術論文で報告することが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、平成24年度の研究を発展させると共に、実績があるイオンゲルを用いた高分子薄膜トランジスタとルブレン単結晶トランジスタを用いて、以下のESR研究を進める。 初めに、低電圧駆動有機トランジスタでの電荷キャリアの本質的な伝導機構を微視的な観点で解明する。ESR測定を4.2 - 470 Kの温度範囲で行う。温度変化により電荷キャリアの運動状態が変化すると、ESR線幅の運動による尖鋭化(Motional narrowing)が変化し、ESR信号が変化する。この電場誘起ESR信号の温度依存性を解析し、FET特性結果と合わせて伝導機構を解明する。また、運動による尖鋭化が抑制される低温では、電荷キャリアが局所的に感じている核スピン由来の双極子磁場による本来のESR線幅が観測される。この線幅を解析することにより、電荷キャリアの空間広がり(波動関数)を解明する。 次に、長時間の素子駆動による素子安定性の評価と素子劣化機構の解明を微視的な観点により行う。長時間の高ゲート電圧印加時の実験で、有機材料のイオン液体への溶解や分解・劣化に起因すると思われるESR信号の変化を検出している。この研究を更に進め、素子の劣化機構を分子レベルで明らかにする。以上の研究をマクロな素子特性とも対応させ、高電荷密度状態での素子動作機構と素子劣化機構の解明を微視的な観点で行う。 更に、半導体単層カーボンナノチューブ薄膜を用いて、イオンゲルで駆動するトランジスタ作製も行い、高電荷密度状態での電荷キャリア状態のESR研究も推進する。 以上の研究について、連携研究者の早稲田大竹延グループ、東京大岩佐グループと共同研究を行い、良質なトランジスタ作製を進める。カーボンナノチューブについては、首都大柳グループから提供を受ける。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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