2013 Fiscal Year Research-status Report
低電圧駆動有機トランジスタの素子動作・劣化機構のミクロ解明と特性向上
Project/Area Number |
24560004
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
丸本 一弘 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (50293668)
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Keywords | 有機トランジスタ / 電子スピン共鳴 / ミクロ特性評価 / 素子動作機構 / 素子劣化機構 / イオンゲル / 低電圧駆動 / 高電荷密度状態 |
Research Abstract |
本研究では電子スピン共鳴(ESR)法を、イオンゲルを用いた低電圧駆動有機トランジスタに適用し、素子動作中のESR観測によるミクロ特性評価を進めながら、特に、これまでESR法により研究されてこなかった、高電荷密度状態での素子動作機構と素子劣化機構の解明を微視的な観点で行う。 本年度は、イオンゲルを用いた高分子及び低分子薄膜トランジスタを作製し、ESR研究を進めた。高移動度を示す立体規則性ポリヘキシルチオフェン(RR-P3HT)とペンタセンを用いた。比較のため、立体不規則性P3HT(RRa-P3HT)、電界発光性高分子材料、半導体単層カーボンナノチューブ、単層グラフェンも用いた。電場誘起ESR観測を行い、蓄積電荷キャリアの電子状態を研究した。 有機材料では、RR-P3HTにおける素子駆動時の電荷キャリアの電子状態(スピン状態やキャリア間相互作用)を駆動電圧の関数として詳細に明らかにした。更に、ESR信号の温度依存性を4 Kから室温まで測定し、電荷キャリア間の磁気的相互作用に由来するキュリーワイス温度を評価した。ペンタセン、RRa-P3HT、電界発光性高分子ポリフルオレン系材料を用いた電界効果デバイスでも同様な研究を進めた。 カーボン系材料では、半導体単層カーボンナノチューブの表面欠陥スピンのESR信号を観測し、そのスピンの磁気的相互作用や運動性を明らかにした。電場誘起ESR測定により両極性の欠陥スピンの消失を観測した。また、蓄積電荷キャリア由来のESR信号は観測出来ず、1次元電子系の朝永・ラッティンジャー液体形成がその原因と解析した。単層グラフェンの場合、欠陥スピンとパウリ常磁性を示す電荷キャリアのスピンのESR信号を観測した。 以上の研究成果については、学会や研究会等の招待講演等で報告すると共に、Jpn. J. Appl. Phys.等の学術論文に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、これまでの結果と比較して普遍性や相違性を調べるため、様々な材料を用いてESR測定が可能なイオンゲル駆動の有機トランジスタやカーボン系材料トランジスタを作製し、低電圧駆動トランジスタにおける電荷キャリアの伝導機構を解明することを計画し、達成できた。以下に、達成出来た点の要点を簡潔に述べる。 ESR測定が可能なイオンゲル駆動の有機トランジスタと半導体単層ナノチューブトランジスタの作製を行った。トランジスタ特性を半導体デバイスアナライザにより精密に評価し、半導体材料のp型n型の極性を調べ、電荷蓄積状態を確認し、デバイス特性を評価した。更に、ESR信号の温度依存性測定から、電荷キャリアの伝導機構に関する知見を得ることが出来た。 RR-P3HTデバイスの電場誘起ESR信号のスピン磁化率の温度依存性測定より、低電荷密度ではキュリー則が観測され、電荷キャリア間に磁気的相互作用がなく、電荷キャリアは孤立して伝導していることが分かった。一方、高電荷密度ではキュリーワイス則が観測され、電荷キャリア間に磁気的相互作用が生じ、互いに相互作用しながら電荷キャリアが伝導していることが分かった。 ペンタセン、RRa-P3HT、電界発光性高分子ポリフルオレン系材料、半導体単層カーボンナノチューブに関してはキュリー則が観測され、電荷キャリアやスピン間には磁気的相互作用がないことが分かり、孤立して伝導していることが分かった。一方、単層グラフェンのESR信号のスピン磁化率の温度依存性測定より、欠陥由来と思われるキュリー成分の他に、パウリ常磁性成分も観測され、バンド伝導が実現していることを微視的な観点で立証できた。 以上の研究成果については、学会や研究会等の招待講演等や、Jpn. J. Appl. Phys.等の学術論文で報告することが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、平成25年度の研究を発展させると共に、実績があるイオンゲルを用いた高分子薄膜と低分子薄膜のトランジスタを用いて、以下のESR研究を進める。 低電圧駆動有機トランジスタでの電荷キャリアの本質的な伝導機構を微視的な観点で解明する。電場誘起ESR信号の温度依存性を調べる。電荷キャリアの運動状態が変化すると、ESR線幅の運動による尖鋭化(Motional narrowing)が変化し、ESR信号が変化する。このESR信号の温度依存性を解析し、FET特性結果と合わせて伝導機構を解明する。また、運動による尖鋭化が抑制される低温では、電荷キャリアが局所的に感じている核スピン由来の双極子磁場による本来のESR線幅が観測される。この線幅を解析することにより、電荷キャリアの空間広がり(波動関数)を解明する。更に、薄膜状態の差がどのように磁気相互作用に影響を与えるか、電荷密度の関数としてその効果を検討する。 また、長時間の素子駆動による素子安定性の評価と素子劣化機構の解明を微視的な観点により行う。長時間の高ゲート電圧印加時の実験で、有機材料のイオン液体への溶解や分解・劣化に起因すると思われるESR信号の変化を検出している。この研究を更に進め、素子の劣化機構を分子レベルで明らかにする。以上の研究をマクロな素子特性とも対応させ、高電荷密度状態での素子動作機構と素子劣化機構の解明を微視的な観点で行う。 以上の研究について、連携研究者の早稲田大竹延グループ、東京大岩佐グループと共同研究を行い、良質なトランジスタ作製を進める。カーボンナノチューブについては首都大柳グループから、グラフェンについては九州大吾郷グループから提供を受ける。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
年度内に納品予定であった基板洗浄用の備品(真空計と流量計)が、納期の関係で間に合わなかったため、次年度に購入することに変更した。 基板洗浄用の備品(真空計と流量計)を購入して、基板洗浄の効果を高め、高特性の素子作製を行う。
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