2012 Fiscal Year Research-status Report
シリコンへの過飽和ドープによる巨大な赤外光吸収帯の出現と中間バンドの形成
Project/Area Number |
24560020
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
梅津 郁朗 甲南大学, 理工学部, 教授 (30203582)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
稲田 貢 関西大学, 工学部, 准教授 (00330407)
吉田 岳人 阿南工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (20370033)
香野 淳 福岡大学, 理学部, 教授 (30284160)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 過飽和ドープ / シリコン / 太陽電池 / パルスレーザーメルティング / レーザープロセッシング / 非平衡材料プロセス |
Research Abstract |
研究の目的に従って過飽和ドープの非平衡プロセスと準安定構造がもたらす物性の観点から研究を遂行した。不純物の過飽和ドープによるシリコンのバンドギャップ以下の光吸収の出現は本研究の最も基本的な課題である。そこで深い準位を持つカルコゲン原子を過飽和ドープした試料に対して中赤外域の範囲まで光吸収を測定した。中赤外域にわたる報告は初めてで0.5eV付近にピークを持つ極めてブロードな吸収バンドの存在を明らかにした。この吸収バンドはアニーリングによって著しく減少する。それに対してキャリア濃度や移動度はそれほど変化しない。この結果はアニーリングに敏感な準安定状態が中赤外吸収の原因であり、キャリア生成不純物はこのアニーリング温度領域では比較的安定であることを示す。硫黄の過飽和ドープによってドナーが形成されるが硫黄が直接的な原因かどうかは不明である。この試料に対して光電気伝導度を測定したところ、中赤外域での光吸収は直接的には光電流に寄与しないと言う結果を得た。 カルコゲンの他にTiやMn も深い準位を持つ不純物となる。これらの不純物はカルコゲンに比べてかなり非平衡偏析係数が高いが、過飽和ドープされた単結晶を作成可能であることを確認した。表面から10nm程度よりも深い位置では単結晶の格子像が見られ、Ti濃度はモット転移濃度を超えていると言う結果を得た。これは高効率太陽電池材料として重要な中間バンドの形成が期待できる試料を作成することができたことを意味する。これらの試料に対しても中赤外域での光吸収は観測されたがカルコゲンを過飽和ドープした試料に比べると非常に少なかった。 これらの結果は試料作成条件、準安定状態、物性の関係に関して示唆を与え、太陽電池材料を目指した今後の研究の方針を与えたという観点から重要な意味を持つと考えている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は試料の作成条件と冷却過程の関係、冷却過程と準安定状態の関係を明らかにすることを主目的とした。作成条件と冷却過程の関係を調べるために、これまでに報告の多いエキシマレーザーと比較してパルス幅の短いYAGレーザーを用いた試料作成を行った。さらにYAGレーザーは空間分布を一様にするのが困難なためレーザーをスキャンさせ結晶性の空間分布の一様化も同時に試みた。これらの結果は結晶性と偏析に関する多くの情報を与えた。定量的な解析はまだ十分とは言えないが定性的に非平衡再結晶化プロセスに関する議論を行うことが出来た。冷却過程と準安定状態の関係の解明に関しても多くの課題を残している。一方、準安定状態と光吸収、電気伝導特性の相関が議論できたのは新しい展開である。硫黄を過飽和ドープした試料に関してはホール測定の結果磁場の印加による電気伝導特性の異常を発見するなどこの試料に関する様々な特異性を発見しつつある。以上のように作成条件と冷却過程の関係と言う点では予定よりも遅れているが物性評価という点では新たな現象が発見され、むしろ進んでいる。このように必ずしも予定どおりには進んでいないものの、総合して考えればほぼ順調な進行状況だと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
当該年度以降は初年度の成果を元に作成条件と冷却過程の関係の定量化および物性の測定に重点を移す。作成条件に関しては定量化の議論を元に再びレーザーメルティングの条件を再設定する。さらに本年度は、アニールされた試料に関しても同様な測定を行い、不純物原子間距離及び準安定状態がバンド構造及び光吸収スペクトルに与える影響を明らかにしてく。過飽和ドープ層の構造はRBSやSIMSの測定によって同定しているが、これらは不純物の配置までは分からない。過飽和状態で不純物が置換型、格子間型であるか、あるいは不純物がクラスター化しているのかは光吸収スペクトルの解釈に重要な情報である。そこでXPS、XAFS等の測定を行い不純物の化学結合状態や近接原子配置を評価する。これらの測定と議論は構造解析を専門とする福岡大学の香野教授と共同で行う。物性評価に関しては様々な新現象が見られた事を受け新現象の解明に向けて計画を若干修正する。磁場印加における電気伝導異常に関しては磁場の印加条件と以上の出現の相関が十分実験的に押さえられていない。従ってより詳細にホール測定を行い現象の解明をめざす。光学特性としては、これまでよりも長い波長の光を照射することが可能になったため光吸収との相関をより広範囲にわたって測定していく。これらの結果を総合して過飽和ドープがもたらす準安定状態が光・電気的特性に与える影響に関して考察を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「次年度使用額」は作成試料分析に使用する予定であった。しかし、作成条件に対して改善を加える段階でより詳細な検討が必要であり、その後に得られた設計指針に従って試料を作成し、分析する方が合理的であると判断した。次年度は、より定量的な解析を行い、それを元に再びレーザーメルティングの条件を再設定する。従って次年度も引き続き作成試料の分析が必要である。分析のためのSIMS,RBS等は外注となるためこれらの支出にあてる。
|
Research Products
(17 results)