2013 Fiscal Year Research-status Report
ロボットモデルによるタンパク質の機能発現過程の理解
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24560309
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Research Institution | Kanagawa Institute of Technology |
Principal Investigator |
有川 敬輔 神奈川工科大学, 工学部, 准教授 (50350674)
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Keywords | ロボット機構 / 蛋白質 |
Research Abstract |
タンパク質のロボットモデルは,主鎖構造と線形ばねによって構成された一種の柔軟構造体であり,そのコンプライアンス特性をロボット工学の知見により解析することが本研究の基本となる.本年度は,まず,解析アルゴリズムの拡張,具体的には「分離コンプライアンス解析」,「指定変形解析」等の導入を行った(定式化と計算機プログラムとしての実装を含む).「分離コンプライアンス解析」は,ロボットモデル上のある部位に与えられた変形が別の部位に与える変形のメカニズムを解析することを可能とし,「指定変形解析」は,モデル上に指定した領域を,指定した方向に変形させるために最も有効な力を算出することを可能とする.これらの拡張は,複数のモデル間の相互作用を理解するために有用な情報を提供するものであり,本研究において非常に重要な要素となる.さらに,限られた計算資源を有効に活用できるよう計算フレームワークの改良,特にGPGPU(General Purpose GPU)による行列計算環境の構築を行った.この行列計算環境では,GPGPUの稼働率を向上させるとともに,複数のCPUも有効活用できるよう,評価基準により選別された規模の大きな行列だけが自動的にGPGPUにより計算されるようになっている(他の計算機上のGPGPUも利用できる).本研究においては,様々なタンパク質のロボットモデルを並行して解析する必要があるが,この改良した計算フレームワークにより効率的に解析が行えるようになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度(1年目)は,複数のロボットモデルを含む系の解析を可能とする専用の計算フレームワーク(複数のコンピュータ上で動作するプロセスと,計算の途中経過を再利用可能な形で保存するライブラリからなる)を考案し,計算機プログラムとしての実装を行った.そして,本年度(2年目)は,複数のモデル間の相互作用に関する情報をより効率的に取得することを目指し,分離コンプライアンス解析と指定変形解析という新たな解析手法を開発するとともに,GPGPUによる行列計算環境の構築を柱とする計算フレームワークの改良を行った.なお,計算フレームワークを中心とする研究成果については平成25年8月に国際会議において発表した.また,分離コンプライアンス解析と指定変形解析を中心とする研究成果については平成26年8月に国際会議において発表することが決まっている. 本研究では,タンパク質のロボットモデルを用いた解析を通し,タンパク質の機能発現過程をロボット工学の知見を活かして理解することを目的としている.タンパク質の機能発現は,内部運動を媒介とする相互作用を通して行われるため,複数のモデルを含む系の効率的な解析,および,モデル間の相互作用特性の評価は非常に重要な課題である.上述のように,これまでの研究によって,これら本研究における重要な課題がおおむねクリアできたことになる. 以上の研究進捗状況を踏まえ,現在までの達成度を「おおむね順調に進展している」と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに開発した,系の挙動解析アルゴリズム,計算プラットフォームを活用し,機能発現過程が計測により明らかにされている様々な系(物質輸送,信号伝達,酵素反応等)を対象に実際に解析を行い,計測結果との比較検討を行うことが今後の研究の中心となる.この解析と比較検討の過程は,一方向的に行われるものではなく,比較検討の結果によっては,解析アルゴリズムや評価基準に対して修正を要請するフィードバックが不可欠であると考えられる(研究期間に影響を与えるような大規模な修正は行わない).そこで,まず,この過程を効率的に行えるよう,解析用データを半自動的に作成するためのフィルタープログラム群,計算条件の設定や計算結果の表示を自動化するための各種マクロプログラム群,および,ユーザーインターフェースプログラム等の整備を行っていく予定である. そして,この解析と比較検討の繰り返しを経て最終的に得られた方法が,実際に対象とする系の機能発現過程を説明しうるものであるか妥当性を検証していく.また,タンパク質のロボットモデルは,自由度を大幅に削減した粗視化モデルであるため,系によってはその本質を捉えることが困難なことも予想される.本研究の知見をまとめるにあたっては,ロボットモデルによって理解可能な系についてはもちろんのこと,ロボットモデルでは理解が困難な系についても考察し,その適用の限界についても明らかにしていく.なお,本研究で得られた知見については学会で発表していく予定である.
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