2012 Fiscal Year Research-status Report
明治宮殿造営組織の建築技術者の経歴と近世大工組織との関連性
Project/Area Number |
24560788
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
小澤 朝江 東海大学, 工学部, 教授 (70212587)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 皇居造営事務局 / 建築技術者 / 大工 / 図工 / 明治宮殿 |
Research Abstract |
平成24年度は、第一に、基礎となる宮内庁書陵部所蔵『皇居造営録』「職員記録」4冊・「履歴書」4冊、および『皇居御造営録』4冊の分析を行った。『皇居造営録』は、明治宮殿竣工後に工事書類・図面類を簿冊として整理したもの、『皇居御造営録』は簿冊等を元にした編纂記録であり、図工については年度末の賃金精算の名簿および採用伺書類、常任技術者については超過手当等の支給記録で全員の氏名と異動状況が判明する。これを基に、全建築技術者の氏名・生年・所属課(掛)・異動に関するデータベースを作成した。 第二に、上記のデータを元に、図工の職務と就業状況、び就業後の転職状況を分析し、図工が製図と設計の一部を担ったこと、その技量をはかるため採用に当たり試験が課されたこと、明治15年の開局から明治21年の残務掛廃止までに少なくとも56人が採用されたこと、約4割は宮内省または他省庁の専任技術者への昇格が確認できることを明らかにした。 第三に、図工のひとりである相模大山大工出身の手中千代太郎について、生家である手中家所蔵文書(神奈川県立公文書館寄託)の解読を行い、図工採用の経緯と就業状況を検討した。手中の入局は、先に勤務していた父の弟子の仲介によること、明治宮殿謁見所・饗宴所などの中心建物を担当したこと、皇居造営事務局閉局後、常任として採用され、技手まで昇進したことを明らかにした。 第四に、常任技術者のひとりで、京都・大徳寺大工出身の林準次郎について、京都市歴史資料館所蔵史料の調査と担当作品の実踏調査を行った。今後、他の京大工と合わせて検討を進め、皇居造営事務局における禁裏大工・京都の宮大工の任用状況を明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度に計画した史料調査および分析作業はほぼ終了した。特に、全技術者のデータベースが完成したことは大きく、今後皇居御造営史料以外に対象を広げて履歴等を補完する必要はあるものの、基礎となるデータが整備できた点は重要である。 また、研究の前半部に当たる皇居造営事務局における日給雇図工の職務と就業状況についてはすでに分析を終了し、その成果を平成24年度日本建築学会で「明治宮殿造営組織における図工の採用状況と堂宮大工の参加経緯―相模国大山大工・手中家の日記から」として口頭発表したほか、「明治宮殿造営組織における図工の職務と就業状況」として論考にまとめ、『日本建築学会技術報告集』平成25年6月号への掲載が決定している。 3ヶ年の研究期間の初年度として十分な成果を挙げ、順調に研究は進展したといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、平成24年度に作成したデータベースを基に、皇居造営事務局の常任技術者を中心に検討を進める。 第一に、履歴書から京都出身と判明する技術者に注目し、禁裏大工・有力社寺大工などの出自を明らかにすると共に、皇居造営事務局への採用以前の経歴と合わせて、造営組織編成における傾向を検討する。すでに、大徳寺大工・林準次郎については史料調査を平成24年度に行っており、他の技術者についても史料を収集・分析する。 第二に、出身者が多い山口県(旧長州藩)・鹿児島県(旧薩摩藩)出身の技術者について、旧藩史料から江戸期の家格・家職を特定するとともに、家蔵史料等を収集し、宮内庁所蔵の履歴書と合わせて採用経緯を検討する。 第三に、東京・静岡県出身の技術者について、履歴書および旧幕史料から、幕府作事方・駿府大工等との関係を検討する。幕府作事方については先行研究も多いため、その成果を参考にする。 以上をまとめて、皇居造営事務局の専任技術者の任用・編成傾向を分析し、江戸期の大工組織との関係を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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