2014 Fiscal Year Research-status Report
イタリアにおけるゴシック建築文化受容の複層性に関する研究
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24560792
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Research Institution | Aichi Sangyo University |
Principal Investigator |
石川 清 愛知産業大学, 造形学部, 教授 (40193271)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ゴシック / 建築史 / イタリア / 建築文化 / 中世ヨーロッパ / 様式史 |
Outline of Annual Research Achievements |
①観想修道会シトー会による移入: 12世紀半頃のシトー会によるイタリアへのゴシック様式の導入が最初の事例である。イタリアにおけるシトー会建築の顕著な事例は、カザマーリとフォッサノーヴァの修道院であり、サン・ガルガーノの建設に大きく関わっていることは明かである。②托鉢修道会フランチェスコ会とドメニコ会による移入: 托鉢修道会によるゴシック様式のイタリア導入は、フィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ修道院にみられる。このドメニコ会聖堂に採用されているゴシック様式は簡素化されたもので、シトー会のゴシック聖堂から影響を受けているが明らかにされた。③フランス人教皇・枢機卿による移入: 13世紀半ば教皇庁はほぼフランス人教皇や枢機卿によって掌握されていたが、ローマ人による外国人への反発からローマの近郊都市に居住することを余儀なくされた。結果としてローマ近郊にゴシック様式の導入を推進することになった。④アンジュー家による移入: シャルル・ダンジューは、シチリア王国征服後にレアルヴァッレとヴィットリアの2つのシトー会修道院に政治的理由でゴシック様式を採用した。⑤ドイツ人建設職人による直接導入: ミラノの大聖堂におけるドイツ人建設職人の存在は、建設現場で建設職人の移動によってゴシック要素が伝播したことを示す史料が徐々に発掘されつつあるが、地方限定的であった。⑥フランス貴族趣味の影響下にあった国際ゴシックからの影響については、まさにフィレンツェのゴシックは本研究の鍵となる。その頃ドメニコ会サンタ・マリア・ノヴェッラ修道院のスペイン礼拝堂のフレスコ画に従事していたアンドレア・ボナイウートとの接点にも着目した。 以上、平成24~26年度の研究計画をゴシックの移入の①~⑥の位相ごとの解明は大方達成できたが、それらの複層性の明示化の論理がいまだ遅れており、平成27年度中に完成する所存である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
中世におけるイタリアと北ヨーロッパの建築の差異は、様式や図像による従来の建築史的分析からだけでは理解することができない。歴史的文脈、建築の構成手法、そして2地域の歴史的地理的条件の違いを含む、より深層の構造から理解されるべきであると考える。中世後期のイタリア建築のゴシック受容の問題を解明するには、イタリア・ゴシックの再定義なしに取り組むことは困難である。イタリア・ルネサンス建築を長年研究し続けてきた私にとって、ルネサンス文化をより深く理解するためにはその前時代精神であるゴシックの受容システムをイタリア側から把握することが肝要である。ゴシック建築文化の受容の複層的構造とその諸相を政治的文化的視点をも踏まえて総括的に捉えることが本研究の目的がある。 19世紀以降のイタリア人研究者たちは、イタリア再統合とヨーロッパ中に同時発生した国家主義的雰囲気の中で、ゴシック研究においてフランスの影響とその優位性に抵抗し、中世イタリアに持続していた古典主義との強い結びつきを強調すると同時に、ビザンティンやイスラムなど非フランス的源泉を強調することで、フランス・ゴシックの重要性を最小限に留めようと試みた。当時のそのような排外主義がイタリアにおけるゴシック受容の実態解明を鈍らせたことは確かである。現在においてもなおヨーロッパ人研究者にはいやがうえにも国家主義的な偏向がかかるこの学際的問題に対して、イタリアを専門とする日本人研究者が公正な普遍的判断を提示することは極めて意義深く、世界的にも期待されている。また、我が国においても熟達した研究者がゴシック研究とルネサンス研究の隙間を埋めることは極めて意義深いことであり、イタリアにおけるゴシック建築文化受容の複層性とその構造を明らかにすることこそ重要であり、本年度の相貌の体系化なくして達成したとは言い難い。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24~26年度の研究計画をゴシックの移入の①カザマーリやサン・ガルガーノ修道院のようなシトー会のグローバル化に伴う移入、②ドメニコ会、フランチェスコ会のような托鉢修道会の布教活動に伴う移入、③フランス人教皇・枢機卿の建設活動による移入、④アンジュー家のようなフランス人為政者による移入、⑤ミラノ大聖堂などにみられるドイツ人建設職人による直接導入、⑥フランス貴族趣味の影響下にあった国際ゴシックからの影響など、①~⑥の位相ごとの解明は大方達成できたが、それらの複層性の明示化の論理がいまだ遅れており、平成27年度中に完成する所存である。 その中世イタリアにおいてゴシック的趣向伝達の役割を担ったのは、南イタリアではその地域を支配するフランス人為政者であり、それ以外の都市国家においてはドメニコ会やフランチェスコ会などの托鉢修道会であった。それらによって、多発的に導入されなければ、普及・流行していかない状況があったと考えられ、それらの位相の複層性の論理構築を本年度は推進する計画である。
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Causes of Carryover |
研究に遅れが生じたためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に旅費を中心に使用したい。
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