2012 Fiscal Year Research-status Report
バルクナノ界面と空孔を内包する層状酸化物熱電材料の物性面からの新規材料設計
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24560825
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
吉矢 真人 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00399601)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 層状酸化物 / 熱電材料 / 第一原理計算 / 分子動力学法 / 構造安定性 / 熱伝導度 / 界面 / 格子欠陥 |
Research Abstract |
3種の層状酸化物を採り上げ、熱電変換材料としての特性の起源の定量的解析を行なった。いずれも平衡原子位置に対して大きく非対称な振動を示しそれが低熱伝導性の起源となる為、第一原理計算法ではなく、原子結合の寄与の記述は近似的であるがバルクナノ界面を含む大きな単位結晶格子に対して高温での長時間の計算が可能である摂動分子動力学法計算を行なった。NaxCoO2やCa3Co4O9では層垂直方向の熱伝導に較べて層平行方向の熱伝導度が大きいのに対し、TiO2-xでは、層平行方向の熱伝導度が層垂直方向の熱伝導度に対し抑制されていた。それは2つの原因があり、層垂直方向には非常によく似たフォノン状態密度を示す層が積層している為に類似した振動数のフォノンが比較的散乱されずに伝播しているのに対し、層平行方向ではTi2O3層中に含まれる結合欠損が点欠陥因子として作用し、また層平行方向に沿って原子の配位環境が大きくばらつくことから、層平行方向の熱伝導度が抑制されることを明らかにした。並行して行なった第一原理計算により電子伝導層はTi2O3層であることが分かっており、Ti2O3層に沿って熱伝導度を抑制することで熱エネルギーから電子エネルギーへの変換を促し、熱電変換効率を高めていることを明らかにした。また、全体的な熱伝導度は格子の対称性がよいTiO2層が支配的であることから、Ti2O3層への負の界面偏析を示す、すなわちTiO2層に優先的に固溶するZrなどの原子置換により、Ti2O3層での電子伝導度を損なうことなく、材料全体の熱伝導度を下げることで、更に熱電変換効率を高めることが可能であることを明らかにした。また、層状Co酸化物に関してはCa3Co4O9が、従来言われているような構造のミスフィットのみが低熱伝導性の原因ではなく、層間の相互作用が大きな役割を果たしていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
概要では述べていないが、新規材料創製の為の層状構造安定性評価も第一原理計算と統計熱力学的手法を組みあわせることで行なっており、層状構造が不安定で3次元構造へ分解すると知られているLixCoO2やMgxCoO2の相変態メカニズムを明らかにすると共に、その層状構造安定化因子を見出した。また粉体固相反応では合成し得ないCaxCoO2はCa3Co4O9構造がより熱力学的に安定であるが故にそのような現象を生み出しているという実験事実を理論計算により仮定なく説明できるなど、層状構造の安定性支配因子の特定についても着実に成果を挙げている。これにより、物性面から望ましい層状酸化物が提案された暁には、如何にしてそれを熱力学的に安定化するかの提案を行い、またその合成法についても提案する為の熱力学的情報の蓄積を、化合物別の現象論ではなく、統一的包括的物理的理解により、行ないつつある。また更に、高価なCoに替えて安価なMnやFeを用いた層状酸化物の安定化の為の阻害因子を特定しつつある。特に、電子状態のスピン分極にまで溯る構造安定化支配要因を理論計算の側面から明らかにしつつある。また、理論的評価と並行して錯体重合法を用いた高純度粉末の作成準備も計画を前倒しで着手しており、実験・理論両面での評価を行なう準備が初年度から進んでいる。更に、主に熱伝導及び電子伝導の物性面からの特性改善に対する方策も、AxCoO2系、TiO2-x系のみならず岩塩型走を内包するミスフィット型構造に対しても評価を進めており、層間の相互作用を自在に制御することで熱伝導や電子伝導を制御する方針を得つつある。以上のように、総じて当初の研究計画通りに研究が進んでおり、また当初は予想していなかった材料特性支配因子や相乗構造安定性支配因子を見出すなど、新たな展開を示している。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究により、出発材料として対象にしているAxMO2については、MがCoの時の熱伝導度の支配要因及び熱力学的な層状構造安定性評価が行えている。また同様に出発材料としているTiO2-x系については熱伝導支配要因のみならず高い電子伝導性の起源と考えられる面欠陥上の点欠陥因子の特定に成功している。これを受けて、AxMO2については、Co以外の遷移金属特にCoに較べて安価なFeを中心に、層状構造安定性評価を行なうと共に、フェルミ準位近傍の電子状態が起源となるゼーベック係数や電子伝導度の計算を試みる。但し、この系については金属に関する通常の電子伝導理論では記述しきれないことが分かっている為、強相関の理論に基づく電子伝導度の評価も併せて行う。特に、Ni、Co、Fe、Mnとげんしばんごうが減る毎に電子伝導に寄与するd電子は減少するものの、廃位している酸素イオンとの結合状態に大きく依存して結晶場により分裂したd軌道2群の分裂幅が異なることから、その分列幅に応じて変化する電子占有状態により決まる磁性(各原子の磁気モーメント)についても細心の注意を払って評価する。TiO2-xについては材料全体の熱伝導度を下げる為にTiO2層に偏析する具体的な不純物探索を行うと共に、高電子伝導性を損なわないあるいは向上させるTi2O3層に偏析する添加元素の選定も併せて行う。AxMO2についての物性面から望ましい具体的な組成が決定できしだい、またTiO2-x系については適切な添加物元素が決定できしだい、錯体重合法により高純度微粉末の作成を行い、一軸配向をさせた多結晶体を作成し、物性の実験的評価も試みる。それにより、計算により評価できていなかった特性発現因子を改めて洗いだし、計算機実験による更なる材料最適化を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度の研究成果が予想以上に大きなものであった為、次年度には国際会議にて研究成果の発表を行い、更なる研究の進展の為の情報収集を行なうことを考えている。対象としている層状酸化物材料は、申請書に記載したとおり捉え方によってはバルク中にナノメートルオーダーで異相界面が熱力学的に安定に存在する為、界面制御に長けたセラミックス界面の分野での発表を計画している。また、本研究で対象としている材料系は、応用面では熱電変換材料に分類される為、熱電変換材料の分野での発表を計画している。このように、基本的な材料組織・格子欠陥という微視的要因の面と、熱電変換という巨視的応用面の双方の面から既存の分野に囚われない幅広い情報収集を行なう。また、上述の通り、TiO2-x系については電子伝導向上あるいは熱伝導抑制の為の添加物探索を網羅的に行なわなければならないことから、既存の並列計算機に非常に高速なネットワーク速度を有する装置を取り付け、統計力学的手法を用いた材料探索を行なう。また、並行して既存の並列計算機の計算規模を大きく出来るように消耗品を買い足し、第一原理計算による層状安定性評価をより包括的に進めることを計画している。
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Research Products
(21 results)