2013 Fiscal Year Research-status Report
バルクナノ界面と空孔を内包する層状酸化物熱電材料の物性面からの新規材料設計
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24560825
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
吉矢 真人 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00399601)
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Keywords | 熱電変換材料 / 熱伝導度 / 性能指数 / 層状酸化物 / 第一原理計算 / 分子動力学法 |
Research Abstract |
初年度に引き続き、相対比較を行うことでより一般的な知見を得ることが期待できる3クラスの層状酸化物、すなわちAxCoO2、A3Co4O9、TiO2-xを採り上げ、今年度は熱電変換性能指数を決定する3物性の1つである熱伝導度を摂動分子動力学法及びそれに基づく数値解析により、その他2つの物性を決定する電子状態の解析を第一原理計算により行い、これらの物性の起源の更なる解明を行った。更に、3次元構造化合物としてではなく層状構造を熱力学的に安定に維持するための必要条件を明確にし、その因子の上述の物性への影響を明らかにするとともに、更に熱電変換性能指数を向上させるために効果的でかつ安定である添加不純物の選択を、層状構造中の存在状態並びにその上述の物性への影響を明らかにし、層状酸化物熱電材料の性能指数向上の指針を明確にした。 数値解析の結果、これら3クラスの層状酸化物熱電材料では、電子伝導や熱電能を担うフェルミレベル近傍の電子は電子伝導層に局在しており、隣接層の静的構造変化あるいは結合歪による電子特性への影響は小さいことが明らかとなった。熱伝導度に関しては、層間ミスフィットを増やすことで層状構造に結合ひずみを与えることで伝導特性抑制を図るのではなく、層状構造の熱力学的安定性にも寄与する静的な層間相互作用をできる限り維持するように電子伝導を担わない層に不純物添加を行うことで、動的現象であるフォノン伝播のみに効果的に影響を与え、層状構造全体の熱伝導を下げながら電子伝導度など電子物性への影響を最小限にし、性能指数全体の向上を図ることが効果的であることを、いくつかの不純物添加モデルにより明らかにした。更に、AxCoO2系に関しては、錯体重合法によるCo系に変わる安価なFe系の層状酸化物の高純度粉末合成ならびに一軸加圧焼結によるバルク体作成への試みを開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
A3Co4O9系層状酸化物は、岩塩型構造層とCoO2層の格子形状不整合並びに格子定数の違いに由来する構造歪がこれらの層状酸化物の熱伝導度を低く抑えることで熱電変換性能指数を向上させているとこれまで理解されてきたが、摂動分子動力学法による詳細な数値解析により、層を跨いだ原子振動を介した動的な相互作用も重要であることが明らかになり、最終目的である物性面からの材料設計に資する理解が得られた。いくつかのモデル不純物を岩塩型層に添加、及びモデル構造を用いた検証を行った結果、構造ミスフィットを大きくするが熱伝導度は低下せず逆に大きくする例や、岩塩型層に添加することで隣接するCoO2支配の全熱伝導度を効果的に抑制する不純物を見出だすことに成功した。TiO2-x系層状酸化物については、第一原理計算からゼーベック係数や電子伝導度を決定するフェルミ準位近傍の電子は、電子伝導層であるTi2O3層に局在しており、同じ元素から構成されるものの隣接するTiO2層からは電子特性への影響は、絶縁層で挟み込むことによる構造・電子状態上の効果を除き、ほとんどないことを明らかにした。他方、試料の全熱伝導度は他の2クラスの層状酸化物と異なり、この材料系に関しては電子伝導を担わないTiO2層が支配していることを明らかにした。これらの結果を受けて最終目的である物性面からの3通りの材料設計指針が見出されたが、本年度は電子伝導を損なわずに熱伝導を抑制する方法に焦点を当て、効果的な不純物探索を安定な欠陥複合体の特定と共に第一原理計算により行い、バルクTiO2相中で安定に存在する不純物元素のみならず、バルクTi2O3相中で安定ではあるが層状構造ではTiO2層へ偏析する不純物元素を見出し、それらが添加された際に電子伝導層の電子特性を損なわずに全熱伝導度を効果的に抑制することを計算機実験により実証した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までの研究により、異なる電子・熱伝導特性に起因して熱電変換性能指数の決定機構が異なる3つのクラスの層状酸化物熱電材料に関して、候補は限られているものの、それぞれ性能指数向上のための初歩的な諸物性制御指針が得られた。今後は、摂動分子動力学法や第一原理計算法により、層構造安定性、電子伝導や熱電能を支配する電子状態、そして熱伝導度の最適化を可能にするための、材料設計指針の一般化を目指す。その際、現象論のみに立脚せず、広範な層状化合物熱電変換材料への応用、更には他用途の層状化合物への応用を可能にすることを念頭に、電子・原子レベルでの物性発現メカニズムの物理を明らかにすることで材料設計指針の一般化を試みる。具体的には、AxMO2系についてはFe系についてA層を制御することで構造安定性と熱電変換特性発現を目指し、A3Co4O9系については岩塩型構造層の構成元素の置換を通じて電子伝導度や熱伝導度を保持したまま熱伝導度を下げる試みを行う。TiO2-x系については、すでに得られている全熱伝導度抑制のために有効な添加不純物候補のみならず他の不純物候補の系統的探索を行い、全熱伝導度への影響を計算機実験により評価するとともに、電子特性向上に有効な添加不純物の探索も合わせて行う。また並行して、AxMO2系については高純度粉体の合成・焼結・結晶構造の特定を継続し、目的の層状構造が得られていることを確認し、共存している相の同定を行ったうえで、諸物性の測定を行う。更に、TiO2-x系については見出された添加物を添加した際のモデル試料について、結晶粒方位の制御などの特性最適化は除き、ゼーベック係数・電子伝導度などの電子特性や全熱伝導度への影響の定量評価を試みる。
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Research Products
(14 results)