2012 Fiscal Year Research-status Report
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24570190
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
谷生 道一 分子科学研究所, 物質分子科学研究領域, 特任助教 (10416662)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 分子内情報伝達 / タンパク質 / 相互作用 / native PAGE / 分子内アロステリック効果 / 熱安定性 |
Research Abstract |
本年度は、ヒトPLC-δ1 PHドメイン(hPH)の分子内情報伝達機構の解明を目指し、まず基質結合に伴うhPH分子内における情報伝達現象の確認と、その伝達経路の探索を行った。まず、hPHの基質であるイノシトール三リン酸(IP3)との相互作用を簡易的に評価する方法として、非変性タンパク質分子の荷電状態と分子サイズにより分離する電気泳動法の一つであるnative PAGE法による評価法を考案した。これは負電荷を持つIP3がhPHに結合すると、その複合体がhPH単体に比べより負電荷を帯びるため、異なる電気泳動パターンを示すことを利用したものである。またnative PAGE環境下では、変性・凝集したタンパク質試料は支持体ゲルに入りこめず、結果的にバンドが観測できなくなる現象が起こることを利用し、native PAGEを用いたタンパク質の熱安定性評価法も考案した。これらの解析法を利用し、hPHについて変異体機能解析を行った。 hPHは、他のPHドメインとは異なり、特徴的な短いαヘリックス(α2)が残基82-87に存在しており、立体構造上、基質結合部位とは離れている。しかしnative PAGEによる解析から、α2ヘリックス構造を崩したり(K86P)、あるいはPhe87のフェニル環を除去した変異体(F87A)において、基質結合能と熱安定性が著しく低下することを発見した。一方、α2ヘリックス構造を崩さない変異体(K86A)では、熱安定性は低下したものの、野生型と同等の基質結合能を示した。また87位にフェニル環を保持した変異体(F87Y)では、野生型様の基質結合能および熱安定性を示した。これらの結果から、α2ヘリックスと基質結合部位との間に分子内情報伝達が存在することが明らかとなり、その情報伝達はPhe87側鎖フェニル環により媒介されることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画としては、(1)安定同位体標識hPHのNMR信号の帰属および(2)分子内情報伝達の再確認を目的としていた。そのうち(2)については、native PAGE法により変異体hPHの解析により確認することに成功し、原著論文1報にまとめることができた。また、(1)については、[α-15N]Lys残基選択的標識hPHのNMR信号について、Lys置換変異体のNMR解析により、hPHに含まれる10個のLys残基全ての帰属に成功した。このため、よりコストと時間を要すると考えられる均一標識hPHのNMR信号帰属については保留し、Lys標識hPH試料の分子内情報伝達機構の解析に集中した。現在解析は順調に進んでおり、一部の結果については、まもなく原著論文として出版される予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
Lys標識hPHのNMR解析により、hPHの分子内情報伝達において、現在、いくつか重要な残基を特定することができている。今後は、その残基の働きについて解析を進める予定である。また、別のタンパク質の例として、ヒトM-フィコリンの分子内情報伝達様式の探索を進めるために、関連タンパク質の発現系構築の準備を始める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
hPHの安定同位体標識試料作成のための、安定同位体試薬および精製試薬を購入する。また、M-フィコリン関連では、発現系として新たに原生生物細胞または哺乳動物細胞を採用することを検討しており、組換え遺伝子実験試薬のほか細胞培養関連試薬等を購入する。
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