2013 Fiscal Year Research-status Report
閉鎖型核分裂をする細胞の分裂シグナルと二形成に伴う分裂パターンの制御
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24570207
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
中野 賢太郎 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (50302815)
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Keywords | 細胞分裂 / 収縮環 / アクチン / ミオシン / 細胞質分裂 / 酵母 / 形態形成 / シグナル伝達 |
Research Abstract |
本研究の第一の目的は、分裂様式の異なる分裂酵母を活用し、真核生物界における普遍的かつ根源的な分裂シグナルの実体の解明である。細胞質分裂の分子機構が最も良く理解された Schizosaccharomyces pombe は、アニリン様蛋白質Mid1p が分裂期細胞の予定分裂面表層においてノードという分子複合体を組織化し、アクチン繊維とミオシンIIを統合することで収縮環が形成されることが判明している。本研究において昨年度までに、アニリン様蛋白質である Mid1p を主軸に分裂シグナルの機能の普遍性について調べた結果、異種の分裂酵母である S. japonicus では、複数の実験結果から Mid1p の機能が細胞質分裂の制御にはあまり重要でないのが示唆されてきた。 今年度は Sj mid1 遺伝子を機能破壊した結果、収縮環形成時にアクチン繊維の配向性が異常になる細胞が有為に認められたが、細胞質分裂の進行と完了には重篤な表現型は生じなかった(論文準備中)。そこで、S. pombe では Mid1p の下流でアクチン繊維とミオシンIIを統合する Rng2p について、そのホモログの機能を S. japonicus において調べた。その結果、 Sj Rng2p の機能は、Sp Rng2p を代替できること、細胞内のノードと収縮環への挙動もほぼ同様であることが判明した。これより、Mid1p とは別の分裂シグナルを S. japonicus は利用しており、その作用点の最も上流部分が Rng2p である可能性が示唆された。一方、Rng2p から下流のミオシンIIやアクチン繊維の収縮環への統合過程は2種類の分裂パターンが異なる酵母で保存されているらしい。一方、繊毛虫テトラヒメナを用いた新奇分裂機構の研究については論文2報を発表し、現在、そのアクチン非依存的な分子機構について研究を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Schizosaccharomyces japonicus の遺伝子組換えのための形質転換の効率が極めて低いため、実験に必要な遺伝子組換え体の作成に想定以上に時間と労力がかかっている。この効率の低さは、先行研究で報告されている状況からは全く予想がつかないものである。改善のため、現在2つの方策を試みている。ひとつは形質転換法そのものの見直しである。専攻研究では、酵母菌の形質転換に多用される酢酸リチウム法が働かないために、エレクトロポレーション法がよいとされていた。しかし、我々はエレクトロポレーション法の実験条件の検討を行ったが、大きく形質転換効率が良くなることはなかった。そのため、パーティクルガン法、およびプロトプラスト法について検討している次第である。2つ目は、エレクトロポレーション法で得られた形質転換クローンの多くが擬陽性であり、安定的に導入したい電子が細胞に保持されにくいことが判明した。これについては、導入遺伝子の品質とコンストラクトの見直し、形質転換体のスクリーニングに使用するマーカー(栄養マーカー、薬剤マーカー)の選別条件の再検討、そして外来遺伝子が導入され易い染色体上のローカースの探索などにより、改善を試みている。S. japonicusの実験系は、遺伝子導入ができるようになってから日が浅く、また研究者人口もまだ増えていないことから、実験系そのものの成熟化には時間がかかるかもしれないが、生物自体が有している学術研究におけるポテンシャルは高いため、上記の労力は必ず将来の役に立つと確信を持っている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの2年間の研究成果を受け、次の研究を行う。 まずS. japonicus の Mid1p 経路が収縮環形成の制御に寄与する割合が低いことを受け、アクチン重合蛋白質フォルミンおよびミオシンIIを制御する可能性が高い SIN 経路の機能解析を行う。またアクチン繊維とミオシンIIの両方を収縮環に統合する Rng2p の機能解析をさらに進める。これらと並行して、細胞骨格系のライブ観察ができる一連の細胞株の作成を完了し、真菌症の鍵を握る二形成を生理的に明らかにできるよう顕微鏡計測の実験を行う。 上記の細胞質分裂を制御するシグナル伝達経路の普遍性を探る目的で、繊毛虫テトラヒメナについては分裂制御に関する蛋白質群の局在解析及び遺伝子破壊を用いた機能解析を進める。細胞性粘菌の細胞質分裂については、Rho ファミリー低分子量 GTPase の制御下にある細胞全体のアクチン細胞骨格の力バランスが重要な可能性を見いだしたので、この研究成果をまとめる方向で進める。 以上により、生物種間を越えた細胞質分裂の制御機構の相違性を検討し、進化的な立場からも考察を深める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
S. japonicus の細胞分裂や形態形成(偽菌糸形成)の過程における細胞内分子の動態観察を実施する目的で、CCDカメラよりも高感度、高精細かつ広範囲撮影が可能なCMOSカメラの導入を計画しており、異なる3社のCMOSカメラの性能比較を終えた。しかし、GFP発現細胞株の作成が遅延しており、生細胞の観察の条件検討が十分にできなかったため、そして画像記録に必要な顕微鏡ソフトの検討が十分でなかったため、急いて貴重な研究費を使用することは避けた。そのため、H25年度のCMOSカメラの導入は次年度に見送ることにした。 また、GFP発現細胞株の作成方法がルーチン化できず、それに従事するはずだった実験補助者の雇用に踏み切れず、予算の執行を見送った。 GFP発現細胞株の効率的な作成方法を早急に確立し、実験補助者を雇用して実験計画の遅れを取り戻す。また昨年度から持ち越してしまったCMOSカメラを購入し、画像データを効率的に取得し、研究全体がまとめられるよう取りはからう。
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