2012 Fiscal Year Research-status Report
カイコウオオソコエビが持つ新規セルラーゼの遺伝子解析とその工学的利用
Project/Area Number |
24580153
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
小林 英城 独立行政法人海洋研究開発機構, 海洋・極限環境生物圏領域, 主任研究員 (40399564)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | セルラーゼ / 深海生物 / 無脊椎動物 |
Research Abstract |
本年度は、カイコウオオソコエビの持つ新規セルラーゼについて、トランスクリプトーム解析を行うことが主たる目的だった。まず、精製したカイコウオオソコエビセルラーゼのN末端アミノ酸配列について解析した。その結果、N末端アミノ酸残基がブロックされていたため、配列決定には至らなかった。そこで、内部アミノ酸配列について解析した。その結果、3本のペプチド配列が決定できた。3本のアミノ酸配列は、これまで知られているセルラーゼの配列ではなく、αグルコシダーゼに相同性が認められた。 次に、カイコウオオソコエビセルラーゼの遺伝子配列情報を得るため、全RNAを抽出し、cDNAを作製した。また決定したアミノ酸配列よりプライマーを作製し、カイコウオオソコエビのcDNAをテップレートとして、PCRを行った。その結果、1クローンだけ決定したアミノ酸配列を含むDNA配列情報を得ることができた。これは全長約180bpだったため、セルラーゼ遺伝子の一部分だと考えられた。その後、セルラーゼ遺伝子全長を得るため、トランスクリプトーム解析を行った。その結果、カイコウオオソコエビのmRNAの分解が進み、解析自体が困難であることがわかった。そこで、新たにカイコウオオソコエビの採取をするため、2回潜航調査を試みたが、天候不順のため、実行できなかった。 今年度は、カイコウオオソコエビセルラーゼの新規セルラーゼについて、PLoS Oneに"The Hadal Amphipod Hirondellea gigas Possessing a Unique Cellulase for Digesting Wooden Debris Buried in the Deepest Seafloor"というタイトルで論文発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初の計画通り、カイコウオオソコエビのセルラーゼについて、N末端アミノ酸配列情報は取得できなかったものの、3本の内部アミノ酸配列情報を得ることができた。さらに、このアミノ酸配列情報を基に、カイコウオオソコエビセルラーゼ遺伝子の一部が判明した。この二点で、当初の目的も達成できたと考えられる。しかしながら、トランスクリプトーム解析の結果、カイコウオオソコエビのRNAが分解していることも判明した。また、ゲノム遺伝子も分解が進んでいることも分かった。したがって、当初予定していたサザンまたはノーザン・ブロッティングという手法を用いて、セルラーゼ遺伝子の全長を取得することは困難だろうと予測された。新規カイコウオオソコエビ個体の採取も天候不順のため、不可能だった。以上の理由から、上記達成度に至ったと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の結果から、以前採取したカイコウオオソコエビのDNAおよびRNAが既に分解していることが分かった。したがって、新しいカイコウオオソコエビの個体が必要であり、今後出来るだけDNAおよびRNAの分解が進まない状態で捕獲・保存することが必須である。そこで、今後はカイコウオオソコエビの捕獲方法について検討を行い、核酸の分解が進まない手法の開発を行う。捕獲後直ちに凍結保存するだけでなく、捕獲時にRNA安定化溶液に個体を浸す方法などが挙げられる。 また、カイコウオオソコエビの生息域であるマリアナ海溝チャレンジャー海淵はミクロネシア排他的経済水域なので、その捕獲および調査に時間や経費がかかる。そこで、日本近海の深度9,000 mを超える超深海に着目して、カイコウオオソコエビの近縁種において同様のセルラーゼがあるか調査する。具体的には小笠原海溝最深部(深度約9,100 m)、日本海溝最深部(深度約9,800 m)が挙げられる。カイコウオオソコエビは、Hirondellea属のヨコエビであり、通常Hirondellea属のヨコエビは深度8,000 mより深い海域に生息しているとされている。 カイコウオオソコエビの核酸の分解が、いかなる方法でも防げなかった場合、イルミナ等の次世代シーケンサーによるゲノム解析を予定している。この場合、遺伝子を500-1,000 bpに切断後、DNAシーケンスを行うため、多少分解していても、遺伝子情報が得られると予想される。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は、当初の予定通り、遺伝子クローニング関連および酵素関連の分子生物学実験と遺伝子工学実験の消耗品および試薬に使用する予定である。
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Research Products
(4 results)