2012 Fiscal Year Research-status Report
琉球列島に分布する有用樹木の繁殖資源の配分と安定同位体による豊凶メカニズムの解明
Project/Area Number |
24580224
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
谷口 真吾 琉球大学, 農学部, 教授 (80444909)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
諏訪 竜一 琉球大学, 農学部, 准教授 (30560536)
松本 一穂 琉球大学, 農学部, 准教授 (20528707)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 開花結実 / 繁殖資源 / 安定同位体 / 豊凶周期 / 琉球島嶼 / 種子生産 / 資源配分 / 繁殖器官 |
Research Abstract |
樹木の次世代を残す開花、結実は、樹木の適応度が最大となるように有限の繁殖資源を配分し、受粉や種子散布が効率的に行われるために繁殖器官の数やサイズ、配置を決定している。本研究は、繁殖前年の貯蔵デンプン量と繁殖当年の光合成産物の転流を指標とし、琉球列島に分布する有用樹木における果実の豊凶発生メカニズムを解明することを目的としている。平成24年度は、リュウキュウコクタンの結実年における繁殖枝(枝の基部径:3~5cm)に環状剥皮と摘葉を組み合わせた6水準の操作処理を4月下旬に行った。当年葉で同化された光合成産物の果実への転流経路を安定同位体13Cによるトレース法で追跡し、当年枝+2年枝を単位とするシュートモジュール間での光合成産物の転流の可能性を検証した。 果実の肥大成長がピークになる7月中旬、剥皮区、無剥皮区の対照区(0%摘葉区)の枝に設置した簡易チャンバー内に安定同位体13CO2を48時間発生させた。質量分析の結果、無剥皮区、剥皮区とも100%摘葉区の果実に13Cが高濃度に検出された。これは、無剥皮区、剥皮区ともに13C処理を実施した対照区(0%摘葉区)から100%摘葉区への光合成産物の転流があったことを示す。一方、繁殖器官のフェノロジー調査の結果、「環状剥皮+100%摘葉区」は無処理区と同等数の花生産、果実生産が認められ、対照区に比しても成熟した果実サイズに差異がなかった。つまり、「環状剥皮+100%摘葉区」は処理区内の同化物の生産、他の繁殖枝からの同化物の供給が得られず、本来、枯死に至るべき処理区であるが、同一繁殖枝内の葉のある処理区等、近接する他のモジュールで生産された繁殖に必要な光合成産物の転流によって補われることが示された。すなわち、常緑亜高木においては繁殖時に他のモジュールからの資源配分は皆無でなく、他の枝からの光合成産物の資源流入の可能性を示唆するものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度における本研究の主要な成果は、研究対象木であるリュウキュウコクタンの結実年において、炭素安定同位体13Cトレース実験により、光合成産物の転流が定性的に確認されたことである。同化実験における本研究の最終の到達成果は、光合成産物の果実への転流経路を追跡することであり、炭素安定同位体13Cトレース法によって定性(どこにある)比較だけではなく、樹体内の同化物の流れ、いわゆる「転流経路」を定量(いつ、どれだけ、どこにある)化することが目的である。 樹木はモジュールの繰り返し構造であり、資源獲得ならびに資源配分に独立性の高いユニットである。事実、落葉広葉樹ではモジュール内の葉が生産した光合成産物はモジュール内で優先的に利用されているという報告がある。しかし、本研究において、リュウキュウコクタンの操作実験より環状剥皮+100%摘葉区では、無処理区と同等の花生産、果実生産があり、成熟した果実サイズに差異がない現象を確認した。これは落葉広葉樹に関する報告(繁殖モジュールは資源的に独立したユニット)とはまったく逆の現象である。 本研究は、初年度、常緑亜高木において、繁殖資源の転流は果実を着生、成熟させる繁殖枝以外からも光合成産物の資源流入の生じる可能性が示唆された。樹木の光合成器官(ソース)で得られた光合成産物を花芽や果実などの繁殖器官(シンク)に資源輸送する輸送パターン(フェノロジー別にどのソースからシンクに輸送するのか)とそのしくみの解明は有意義である。 平成25年度以降、繁殖枝と非繁殖枝の貯蔵デンプン量や光合成産物の転流等、生理的なメカニズムからの繁殖資源の配分特性を把握することになるが、これらの成果は、豊凶現象の発生に対する至近要因ならびに究極要因のこれまでの諸仮説の検証とともに、新たな解釈論議を展開することにより、豊凶現象の発生メカニズムの解明につながると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、繁殖前年と繁殖当年の貯蔵デンプン量と繁殖当年の光合成産物の転流を指標とし、果実の豊凶が発生するメカニズムを解明することにある。 今後の研究の推進方策は、平成25年度はリュウキュウコクタンを供試し、①繁殖枝、対照として非繁殖枝別に光合成同化産物(貯蔵デンプン量も含む)の時期別変動を糖分析によって定量化する。②同時に、当年葉で同化された光合成産物の果実への転流経路を平成24年度に実施した安定同位体13Cトレース法と同様の実験手法で器官別に追跡する。③さらに、同化物の転流の定量化のために、葉の光合成速度を開花期、結実期、果実成熟期のフェノロジーごと、ならびに操作実験の処理水準ごとに比較する。その際、同時につぼみ数、花数、幼果実数、成熟果実数、ならびに果実の重量を計測する。これらの結果から、開花、結実、果実生産に必要な繁殖資源の配分量を推定し、繁殖資源の配分収支から、琉球列島に分布する有用樹木の果実豊凶の発生メカニズムを論考する。 当面、リュウキュウコクタンを供試するが、琉球列島および亜熱帯域に分布する有用樹木であるフクギ、テリハボクも研究対象木として供試することを検討している。しかし、現在、予備実験中であるが、2樹種に対する操作実験は、摘葉あるいは剥皮処理が正常な結実を阻害する可能性があり、このことについての実験的な検証が十分でないため、今後、供試できるか否かは今年度中に判断する。実験方法は、リュウキュウコクタンと同様の手法を考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の使用計画を説明する。備品費の計上は平成24年度と同様に0千円である。消耗品費として、採取した検鏡等の試料保存のための薬品(試薬)類、サンプル瓶等のガラス器具、組織の検鏡に供する消耗品類、フィールドで使用するトラップ、ビニールシート、ビニール紐等の調査用具に当てる。さらに、炭素安定同位体13Cを分析する質量分析器が琉球大学に導入されていないことから、炭素安定同位体13Cの分析業者への依頼分析経費を計上している。国内旅費は主に試験地調査ならびに学会等の参加費として計上している。 研究代表者および研究分担者の研究室では、炭素安定同位体13Cを分析する質量分析器以外の研究施設・設備・備品等のうち本研究課題に使用する機器、物品類はすべて整っている。組織標本作成には、凍結や包埋処理を経ずに新鮮試料を薄切にできるビブラトーム切片作成器、組織の検鏡観察には画像解析装置付きの明視野生物顕微鏡、組織解剖に必要な実体顕微鏡が整備されている。光合成速度の測定にはLI-6400を使用する。糖分析のうち、デンプン粒の存在を農学部の電子顕微鏡で検鏡する。研究分担者の2名のうち、植物生理学、作物学を専門とする研究者の分担は、安定同位体13Cトレース法で光合成産物の転流経路を追跡する実験を共同実施する。 さらに、森林生理生態学を専門とする研究者は光合成速度の計測を共同実施する。研成果は日本森林学会、日本生態学会において積極的に研究発表を行い、関連学会誌に研究成果を論文投稿することを計画している。
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Research Products
(1 results)