2012 Fiscal Year Research-status Report
タケノコメバルの放流が及ぼす遺伝的影響評価と多様性保全の為の精子凍結保存法の確立
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24580278
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
富永 修 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 教授 (90264689)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田原 大輔 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 講師 (20295538)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | タケノコメバル / 遺伝的多様性 / 胎生魚 / 人工種苗放流 / 精子凍結保存 / 人工授精 / 精子バンク / 瀬戸内海 |
Research Abstract |
今年度はMS領域濃縮法により、96個のMS候補遺伝子座を単離し、バリデーションを行い16マーカー座を得ることができた。また、mtDNAの調節領域により在来集団の遺伝的多様性を検討した。採集された301個体を、2005年以前年級群から2010年級群までの6年級群に分けた。ハプロタイプ多様度は2005年以前年級群から2010年級群にかけて0.863から0.754まで低下し、6年間で12.7%の減少が確認された。この結果は、遺伝的多様性の著しく低い集団の放流が在来集団の遺伝的多様性を低下させている可能性を示唆している。しかし、この原因が放流魚と在来魚の交雑だけによるものではない可能性も考えられるため、核ゲノムを用いた遺伝構造解析を行って精査していく必要がある。 精子凍結保存法の開発:本研究では、これまで魚類精子の凍結保存において有効とされている、DMSO、MeOH、EtOHおよびGlycerolの4 種の凍結防止剤を比較、検討した。各種凍結防止剤を10%、FBS 90%からなる凍結保存液で精子を約200 倍に希釈し、液体窒素液面からの高さ10 cmで-50 ℃まで冷却して凍結、解凍した結果、DMSOで最も高い解凍後運動精子率を得た。次に高い成績を残した凍結防止剤はMeOHであったが、EtOHおよびGlycerolにおいては、すべての個体で解凍後に運動型を示した精子は認められなかった。これより、これら2 種の凍結防止剤はタケノコメバル精子に対して凍害防御効果をもたないことが明らかとなった。また、本研究では、20 ℃の水に7 秒間浸漬して解凍する方法で活性化した精子を得ることができた。以上のように、本年は適切な精子凍結保存条件を決定することができた。 精子バンクとデータベースの作成:上記の方法で保存した精子の遺伝子型を記録しており、現在20個体以上の精子を保存データベースを作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マイクロサテライトマーカーの単離を試み、アサインメント解析が可能な20マーカー座を得ることを目標とした。現在、マグネットビーズ法により、予定数のマーカーを単離できたが、解析は4マーカー座分のみである。しかしながら、当初の予定で、時間が足りない場合は平成25年度にマイクロサテライトマーカーを用いた遺伝的多様性解析を継続する計画であり、おおよそ順調に研究がすすめられていると考えている。また、在来集団の標本採集に関しては、香川県水産試験場の全面的バックアップを受けて順調に蓄積している。平成24年度末からも継続して集めており、当初の予定よりも多くの解析が行えると考えている。これは、近年漁獲尾数が増加傾向にあることによると考えられ、遺伝的多様性の低下を考慮すると、人工種苗魚の放流が関連しているのかもしれない。解析に関しては、プロトコルが確立されており、問題なく進めている。マイクロサテライト解析もプロトコルは確立している。 精子凍結保存法に関しては、凍結条件を決定することができ順調に精子バンクの標本を増やすことができている。ただ、生きた雄親の確保が容易でないため、今後雄の確保を検討する必要がある。今年の解析での課題として、精子賦活条件の決定があげられる。精子活性を検討する適切な賦活剤がないため、尿を用いているものの時期や個体差で活性を得ることができない場合がある。この点に関しては、解決する必要がある。ただし、当初の目的である凍結保存条件に関しては確立できたため、順調に研究が進んでいると考えている。 凍結精子の蓄積とデータベース化に関しては、順調に進んでいるが雄の確保が課題である。今後継続して、精子の蓄積を進める。今年度のプロトコルで続けていくことで、順調に成果をあげることができると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は計画通り、在来集団の遺伝的多様性の変化をmtDNAおよび核ゲノムであるmsDNA解析により検証する。特に、放流集団の遺伝子組成を用いたアサインメントテストを行うことで在来集団への放流インパクトを評価する。本年度は、マイクロサテライトマーカーの単離まで進めたが、在来集団の解析を進めることができなかった。来年度の積み残し課題として、平成25年度に、これまで蓄積している標本の解析を進める。そのため、昨年度の予算から解析用試薬代および消耗品費として、必要金額を次年度使用のために残した。 精子凍結保存に関しては、凍結保存条件を決定できたことから、凍結精子を人工授精に利用する技術を確立する。凍結保存では凍結防止剤が含まれているために、人工受精時にこれらの防止剤を除去しなくてはならない。現在、遠心分離による精製を計画しており、その条件を決定することが最も重要な課題である。原則として、現場での応用にそくした方法を検討する必要があり、できるかぎり容易に手間無く実施できるように工夫することも課題である。 これまでの実験で受精に精子賦活が必要であることが予想されている。人工授精を性呼応させるためには、精子賦活を簡単にかつ確実に行う必要がある。現在、雄から採集した証を賦活剤として用いているが、時期や個体差により賦活しない場合がある。予備的実験で牛胎児結成(FBS)を用いることにより、精子活性を安定的に向上させることができることがわかってきた。来年度は、人工賦活剤の作成に努力する。また、精子を賦活させる必要性を卵巣内の賦活精子の挙動から考察し、受精にかんする知見を集積し、人工授精の技術向上につなげることをめざす。そのため、平成24年度の残予算を利用する。 凍結精子を今後も保存し、遺伝子型だけでなく精子の活性度や受精率、出産した個体の奇形率などの情報を加えていくことをめざす。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、マイクロサテライトマーカーの単離まで進めたが、在来集団の解析を進めることができなかった。来年度の積み残し課題として、平成25年度に、これまで蓄積している標本の解析を進める。そのため、昨年度の予算から解析用試薬代および消耗品費として、必要金額を次年度使用のために残した。以上のように、平成24年度からの239,213円については、標本解析用試薬等として使用するほか、平成25年度分の経費については、計画通り、香川県水産試験場での人工授精実験のための旅費、DNA解析、精子凍結保存のための試薬、タケノコメバルの購入および飼育用の餌のための消耗品費、研究の補助のための人件費、論文投稿の予算として使用する。
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