2013 Fiscal Year Research-status Report
タケノコメバルの放流が及ぼす遺伝的影響評価と多様性保全の為の精子凍結保存法の確立
Project/Area Number |
24580278
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
富永 修 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 教授 (90264689)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田原 大輔 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (20295538)
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Keywords | タケノコメバル / 遺伝的多様性 / 胎生魚 / 人工種苗放流 / 精子凍結保存 / 人工授精 / 精子バンク / 瀬戸内海 |
Research Abstract |
これまで、生鮮精子を用いた人工授精は成功しているが、凍結精子では出産までの成功率が低く、出産しても奇形稚魚である場合が多かった。その原因として、1)賦活剤として用いた尿が精子を十分に賦活できていないため卵巣内での受精が上手くいかない、2)受精後の卵発生が正常に進んでいないこと等が予想された。そこで、本年度は人工授精で尿の代替として使用する賦活剤の条件検討と、卵巣内において受精までの期間の精子挙動と卵発生の状態を観察することを目的として実験を行った。 賦活剤の検討:10月23日に雄魚1尾からシリンジで採取した尿と2012年から臨海研究センターで冷凍保存している尿のNa+、K+、Ca2+濃度を測定後、輸精管から漏出した精液を柄付針の先に付着させて賦活させ、直進運動をしている精子数を計測した。その結果、生鮮精子の運動活性は尿の種類により0~44.7%と差が大きく、活性の有無が明瞭に区別された。また、運動活性があった5つの尿のイオン濃度は、Na+濃度には大きな差は見られなかったが、K+濃度とCa2+濃度は、尿間で数値が大きく異なった。精子の運動活性が活発な尿のイオン濃度は、K+とCa2+で個体間の差が大きかったが、Na+濃度はほぼ共通していたことから、Na+濃度が精子賦活の条件である可能性が示唆された。 人工授精:雄魚7尾を開腹して精巣を摘出し、輸精管から漏出した精液をピペットで採取雌魚7尾に打注した。今回、香川水試では雌魚が産仔したのに対し、臨海研究センターでは産仔しなかった。臨海研究センターでのカニュレーション実験と卵巣観察の結果から、大部分の卵が排卵していなかった。卵母細胞の最終成熟がうまく進まず排卵できなかったことが、受精できなかった原因であると考えられる。一部の排卵された受精卵は発生が進み、仔魚まで発達していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
タケノコメバル稚魚の放流が在来集団に与える遺伝的影響の評価 本研究では、在来集団の遺伝的多様性の変化をmtDNAおよび核ゲノムであるmsDNA解析により検証している。放流集団の遺伝子組成を用いたアサインメントテストを行うことで在来集団への放流インパクトを評価を試みるために、データ蓄積が進んでいる。本年度は、これまで蓄積している標本の解析を進め現在解析中であるが、瀬戸内海でしだいに漁獲量が増加しており、標本採集も順調に進めることができ、最終年度には遺伝的多様性の変化を検証できると考えている。 精子凍結保存技術および凍結精子による人工授精技術の開発 凍結精子を用いた人工授精は成功しているものの、成功率の向上が必要である。平成25年度に精子賦活化と雌魚の成熟度が問題点であることを明らかにできた。そのため、平成26年度は精漿中のイオン濃度を精度よく検討するために原子吸光分析を行い、賦活化するイオン濃度を決定する。これらの結果をもとに人工賦活剤を作成する。また、生殖腺組織観察と性ホルモン濃度の季節変化から、人工授精タイミングの条件を検討する必要がある。これらに関しては精子凍結技術と解凍技術はほぼ確立できており、精子賦活と雌魚の成熟確認の技術を改善することで凍結精子を用いた人工授精技術を確立できると考えている。 凍結精子バンクの立ち上げ 引き続き天然雄魚を購入しており、遺伝子型と凍結精子のデータ蓄積が順調に増加している。
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Strategy for Future Research Activity |
タケノコメバル稚魚の放流が在来集団に与える遺伝的影響の評価:最終年の平成26年度も標本採集を続けるが、夏までの標本で解析を行い、放流事業による遺伝的インパクトを検討する予定である。 精子凍結保存技術および凍結精子による人工授精技術の開発:平成26年度は精漿中のイオン濃度を精度よく検討するために原子吸光分析を行い、賦活化するイオン濃度を決定する。これらの結果をもとに人工賦活剤を作成する。また、生殖腺組織観察と性ホルモン濃度の季節変化から、人工授精タイミングの条件を検討する。本年度は人為的に成熟を誘導するために性ホルモン投与実験も実施する。 凍結精子バンク:引き続き凍結精子を蓄積する。 香川水試での応用:人工授精をとりいれてタケノコメバルの種苗生産を開始した香川県水産試験場において、本年度も凍結精子を用いて人工授精を行う。作業効率の改善程度と産出稚魚の奇形率の比較を行い、凍結精子を用いて胎生魚の人工授精の事業化へ近づける。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は在来集団のサンプル購入を進め解析を進めることができた。しかし、人工授精に用いる生きたタケノコメバルを予定以下の数しか集めることができなかった。また、精子賦活剤開発でイオン濃度測定に血中イオン装置を用いてきたが、精度の問題と分析項目で不足であると判断した。そのため、原子吸光装置を用いる計画をたて、平成26年度に実施することとした。原子吸光分析を平成26年度に実施することを考慮して、翌年度に計上することとした。以上のことより、次年度使用額が生じた。 平成25年度からの346,840円に関しては、凍結精子採集用のタケノコメバル活雄魚とホルモン分析用の雌魚購入に用いる。また、原子吸光分析用の消耗品に使用する計画をたている。また、計画通り、香川県水産試験場での人工授精実験のための旅費、DNA解析、精子凍結保存のための試薬、タケノコメバルの購入および飼育用の餌のための消耗品費、研究の補助のための人件費、論文投稿の予算として使用する。
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