2012 Fiscal Year Research-status Report
侵害刺激受容体TRPA1の感受性個体差に関する分子毒性学的研究
Project/Area Number |
24590173
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | National Institute of Health Sciences |
Principal Investigator |
神野 透人 国立医薬品食品衛生研究所, 生活衛生化学部, 室長 (10179096)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
香川 聡子 国立医薬品食品衛生研究所, 生活衛生化学部, 主任研究官 (40188313)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 生活環境化学物質 / 感受性個体差 / 遺伝的要因 / TRPA1 / ヒト呼吸器 |
Research Abstract |
本研究では,生活環境化学物質が原因あるいは増悪因子であることが指摘されている疾患において重要な役割を果たしていると考えられる侵害刺激受容体TRP (Transient Receptor Potential)A1チャネルについて,その感受性個体差に影響を及ぼす遺伝的要因並びに環境要因を明らかにすることを目的とする.そのために,既知のNon-synonymous SNPsを導入した異型TRPA1をHEK293細胞で強制発現させて機能変化を検討するとともに,TRPA1を発現するヒト由来細胞株を用いて生活環境化学物質による感受性亢進の有無を明らかにする.初年度の実績として,日本人において比較的高いAllele Frequencyで検出されるSNPsとして,5種類のアミノ酸置換(R3C,R58T,E179K,K186N及びH1018R)を引き起こすSNPsを選定し,哺乳動物細胞においてそれぞれの異型タンパク質を同等に高発現する細胞株樹立用のプラスミドの構築を完了し,細胞に導入した.また,ヒトの呼吸器組織中でのTRPA1チャネルの発現レベルの個体差を明らかにするために,ヒト気道及び肺組織由来のtotal RNA(BioChain社より購入)を用いて,TRPA1 mRNA発現量の差をReal Time RT-PCR法により解析し,ヒト気道においてはTRPA1 mRNAレベルに100倍以上の個体差が認められることを明らかにした.さらに,環境要因の探索に適したin vitro 系を構築する目的で,複数のヒト由来培養細胞(ヒト神経芽細胞腫由来 IMR-32細胞,ヒト肺癌由来A549細胞,ヒト肺線維芽細胞由来CCD19-Lu細胞,ヒト気道上皮由来BEAS-2B)についてTRPA1 発現量をmRNAレベルで比較し,IMR-32<<BEAS-2B<A549<CCD-19Luであることを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではTRPA1の感受性個体差に影響を及ぼす様々な要因を,遺伝的要因と環境要因の両面から検討する.前者のサブテーマでは,本研究の最終年度までに異型TRPA1をHEK293由来細胞株で安定的に発現させて,生活環境化学物質をはじめとするリガンドに対する応答性やタンパク質リン酸化による感受性の亢進に及ぼすSNPsの影響を明らかにすることを目標とする.現在までに,研究代表者らがクローニングした野生型hTRPA1 cDNAを用いて,日本人において比較的高いAllele Frequencyで検出されるSNPsとして5種類のアミノ酸置換を引き起こす変異を導入し,それぞれを安定的かつ同等に高発現するプラスミドベクターの構築を完了した.また,後者のサブテーマでは,当初の目標通り,環境要因の探索に適したin vitro 系を構築する目的で,ヒトTRPA1を発現する細胞株の探索をmRNAレベルで実施し,発現の程度がIMR-32<<BEAS-2B<A549<CCD-19Luであることを明らかにした.それぞれの培養細胞株におけるTRPA1 mRNA発現レベルは,既に研究代表者らが樹立したヒトTRPA1高発現細胞株に比較して低く,発現レベルの誘導を検討する目的に適していると考えられる.さらに,本年度の研究成果として,ヒト気道及び肺組織由来のtotal RNAを用いて,TRPA1 mRNA発現量の差をReal Time RT-PCR法により定量的に解析し,ヒト気道においてはTRPA1 mRNAレベルに100倍以上の個体差が認められることを明らかにした.この結果は,ヒト気道組織におけるTRPA1遺伝子の発現レベルに顕著な個体差が認められることを示した初めての知見であり,極めて重要な情報である.以上本年度の研究の進捗状況から,当初の目標を十分達成したと考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
TRPA1の感受性個体差に影響を及ぼす遺伝的要因に関する研究においては,前年度に構築したベクターを用いて異型TRPA1安定発現細胞株を樹立し,典型的なTRPA1 アゴニストであるAllyl Isothiocyanate 及びCinnamic Aldehyde 並びにフタル酸モノエステル類などの生活環境化学物質(10化合物程度を想定)に対する応答性を検討し,各SNPの影響を明らかにする.応答性は細胞内Ca2+濃度の変化を指標とし,FLIPR Calcium 5あるいはFLIPR Calcium 6試薬 (Molecular Devices)を用いて測定する.タンパク質発現量が極端に低い異型TRPA1が存在する場合には,必要に応じてタンパク質レベルでの安定性を評価する.さらに,C末端V5エピトープタグ付加体として安定発現細胞株で発現させた野生型TRPA1を抗V5エピトープタグ抗体を用いて免疫沈降し,Western ブロッティングによりタンパク質のリン酸化状態を含む分子修飾について解析する.次いで,PKA/PLC Signaling 系活性化剤あるいはTRPA1アゴニストの曝露による野生型及び異型TRPA1タンパク質の変化を解析し,SNPsによる影響の有無を明らかにする. TRPA1の感受性個体差に影響を及ぼす環境要因に関する研究においては, 前年度にTRPA1 mRNA発現レベルを明らかにしたヒト気道あるいは肺由来培養細胞株BEAS-2B,A549,CCD-19Luを用いて,生活環境化学物質によるTRPA1活性化並びにTRPA1 mRNA/タンパク質の誘導を検討する.生活環境化学物質による誘導が認められた場合には,TRPA1遺伝子のプロモーター領域を組み込んだレポータープラスミドを作成し,転写因子並びにその応答配列を探索する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
TRPA1の感受性個体差に影響を及ぼす遺伝的要因に関する研究においては,野生型並びに異型TRPA1イオンチャネルの生活環境化学物質に対する応答性の違いを評価するために,細胞内Ca2+濃度の変化を測定するためのカルシウム蛍光指示薬が必要である.また,TRPA1イオンチャネルのリン酸化状態や限定分解等の分子構造の修飾に関する検討には抗体やバイオイメージング用試薬を要する.TRPA1の感受性個体差に影響を及ぼす環境要因に関する研究においては,評価化合物によるTRPA1遺伝子の発現レベルの変動を調べる目的で,real-time RT-PCR用の逆転写酵素,TaqManプローブ等の試薬が必要である.以上,研究費のほとんどは細胞生物学的試薬等の薬品・消耗品の購入に充当する予定である.
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Research Products
(1 results)