2012 Fiscal Year Research-status Report
津波被災地をフィールドとした下肢静脈エコー所見と止血機能検査の研究
Project/Area Number |
24590685
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
山村 修 福井大学, 医学部, 講師 (30436844)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 災害医療 / 深部静脈血栓症 / 下肢静脈エコー / 凝固線溶機能 / D-dimer / 仮設住宅 / 歩行回数 / 受診回数 |
Research Abstract |
本研究は,震災被災地において深部静脈血栓症(deep vein thrombus:以下DVT)の検出を目的とした下肢静脈エコー検査(lower limb ultrasonography:以下LUS)と血液凝固線溶機能検査を実施し,被災環境がLUS所見と凝固線溶機能に及ぼす影響を検討する.平成24年度は,9月15日及び16日に宮城県亘理郡亘理町並びに山元町の仮設住宅団地9か所において,検診を希望する被災者354名(男性78名,女性276名,70.7±10.1歳)を対象にLUSを実施した.背景因子は高血圧54.7%,糖尿病14.0%,高脂血症29.6%であった.DVTは15例(4.2%)に認め,うち新鮮血栓(充満血栓)は1例であった.血液凝固線溶機能検査では,静脈拡張所見(直径>9㎜)を有する被災者93名を対象にコバスh232(ラテックス凝集反応)を用いてD-dimerを測定したところ,D-dimer 1.0μg/ml以上を示した被災者は14例(15.1%)であった. 平成24年4月に本研究と同様の手法で実施された岩手県大槌町(182名),釜石市(183名),陸前高田市(400名)の検診では,DVT検出率はそれぞれ8.8%,6.6%,6.8%であった.本研究のDVT検出率は亘理町(157名)が5.1%,山元町(199名)が3.6%であり,いずれも三陸海岸沿いの被災地の検出率を下回った.なお亘理郡のDVT検診では,震災後に10分以上の歩行回数が減少した受診者が64.0%に達していた.また震災後に通院回数が減少した受診者はJR常磐線が途絶している山元町に多く,特に周辺家屋の少ない山間部の仮設住宅地(中山地区)に多かった. 以上の結果は,平成25年1月17日に開催された第18回日本集団災害医学会学術集会(兵庫県神戸市)において発表(口演)した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は,津波被災地である宮城郡亘理郡内の2町(亘理町と山元町)において,大規模なDVT検診を行うための準備調整に時間を費やした.特に,行政関係者と医師会関係者の理解を得て,避難所を効率的に巡回するための段取りを重点的に行った.同時に,検診を実施するメンバーを募集し,技師,看護師,医師など合計45名(被災地関係者10名を含む)を集め,研究協力員として亘理郡に派遣した.無事に1回目の検診を実施できたことは,成功であったと言える.また採血に関しては,被災者にその場で結果を報告することを目標にPOCT機器を導入した.この結果,D-dimerとともにproBNPの検出も可能となり,心機能のパラメーターを増やすことが可能となった. 避難生活の評価項目は,当初SF-8を予定していたが,短期間に大人数の被災者検診を行う関係から,今年度は導入を見送った.このため,短時間で評価可能な歩行回数や受診回数などを指標として取り入れた.一方,対象地検診は,適当な候補地が見つからなかったことから,今年度は実施を見送った.対象地は亘理郡に近い環境が望ましく,漁業関係者と農業関係者の多い地域で調整する必要がある. 以上より概ね順調に進展しているものの,次年度に向けて新たな工夫が必要と考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は,24年度と同様に亘理郡内の複数の仮設住宅団地でDVT検診を実施する.実施については,すでに亘理町と山元町の了承を得ており,本年9月14日と15日に実施予定である.また引き続き,前年度の研究協力員に協力を要請する.これにより,仮設住宅団地におけるDVT検出率を発災後2年目と3年目で比較する.また本年度はD-dimerとともにproBNPの採血検査を行い,凝固線溶機能の評価とともに,心機能の評価も実施する.D-dimerについては,平成24年度のデータと比較する. 対象地検査では,岩手県のDVT検診に協力しながらデータを共有するとともに,福井県内の対象地でもDVT検診の実施を検討する.すでに,漁業関係者と農業関係者が多く,亘理郡に近い環境を持つ福井県坂井市やあわら市に対し,検診の受け入れを打診して良好な返答を得ている.これらの背景をもとに,被災地間の検出率の比較,被災地と非被災地の比較を行い,被災地の立地条件や被害状況も加えた解析を実施する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は,昨年と同様に研究協力員を宮城県亘理郡に派遣する旅費及び宿泊費と,凝固線溶機能評価のためのD-dimerの測定に加え,ProBNPの測定も行う予定である.派遣協力員は40名近くに及ぶ見通しである.派遣にはレンタカーを利用するとともに,前回受診者に対し検診案内ハガキの郵送も検討している.
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