2015 Fiscal Year Research-status Report
日常検査で抗菌薬耐性機構が明らかとならない細菌の耐性表現型と遺伝子型の解析
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24590708
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
福地 邦彦 昭和大学, 保健医療学部, 教授 (70181287)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | カルバペネム耐性腸内細菌科細菌 / パルスフィールド電気泳動 / メタロβラクタマーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
1. カルバペネム耐性腸内細菌科細菌の分子疫学解析 平成26から27年の期間、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)の同一病棟内での伝播が確認された。これらは保菌状態であったが、ひとたび感染症を引き起こせば治療困難となること、および水平伝播自体が重大問題であることから、分離株の薬剤感受性、耐性遺伝子解析、およびゲノム型の解析を行った。水平伝播したCREは、Enterobacter cloacae、Klebsiella pneumoniae、およびKlebsiella oxytocaであった。解析対象は、カルバペネム耐性株に限定することなく、第三世代セファロスポリン耐性株のすべてとし、カルバペネム耐性を与えるメタロβラクタマーゼ(MBL)保有の表現型であるメルカプト酢酸抑制(SMA)試験を施行した。多くの第三世代セファロスポリン耐性カルバペネム感受性株菌株でSMA陽性であり、そのほとんどからIMP型MBL遺伝子を検出した。パルスフィールド電気泳動解析の結果、E. cloacaeでは複数系統の流行株が明らかとなった。K.pneumoniaeとK.oxytocaではそれぞれ一系統であった。同一系統株のなかに、表現型ではカルバペネム感受性株も多数存在したことから、蔓延防止のための分子解析の必要性が示された。今回の同一病棟内複数発生事例は、本解析結果を活用し対策し、1年9か月目に終息した。 2. MBL遺伝子の解析 当院で本研究以前に検出されたMBLはIMP1と、その近縁遺伝子であった。平成26年に分離されたカルバペネム耐性緑膿菌のうち、SMA陽性株でIMP1型遺伝子陰性の株から、IMP7とアミノグリコシドアセチル化酵素をコードするインテグロンを検出した。これに基づき、IMP7の検索を行ったところ、CREにおいてもIMP7保有が明らかとなった。IMP1のみ、IMP7のみ、あるいはその両方を保有していても、日常検査ではカルバペネム系薬感受性と判定されるものも多い。今後これらの遺伝的耐性株の効率的な検出法の検討を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回の研究テーマ遂行中の平成26年9月にカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)による感染症が感染症法第5類全数把握疾患となった。感染症法においては、抗菌薬耐性を実際の薬物をもちいた表現型検査での結果を求めているが、現実的には、今回の研究テーマ「日常検査で抗菌薬耐性機構が明らかとならない細菌の耐性表現型と遺伝子型の解析」で取り組んでいる通り、表現型のみでは耐性菌を見逃す危険性がある。加えて、多くの耐性遺伝子は、菌種を超えてプラスミドやファージにより伝播する可能性があるため、遺伝的に耐性菌と判断される株の検出と拡大防止が必須である。 本研究テーマのもと、当院分離株から新たに検出した耐性遺伝子は、メタロβラクタマーゼではIMP7, 基質拡張型βラクタマーゼではCTX-M10がある。また、平成27年には、当院で始めてメタロβラクタマーゼ保有大腸菌が検出された。きわめて広範にβラクタマーゼ遺伝子の伝播がおきていることが明らかとなった。多剤耐性アシネトバクターアウトブレイクの際は、疫学的にはそれが世界流行株のClonal Complex92に属し、耐性遺伝子としては、OXA23とClass C βラクタマーゼを保有し、どちらも発現増強するためのInsertion Sequenceを上流に持つことを明らかとした。これらのデータを臨床現場にフィードバックし、院内感染防止対策の質の向上を図ってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
1. リネゾリド耐性腸球菌:喫緊の課題として、平成27年に分離されたリネゾリド耐性腸球菌の耐性機構の解析を行う。リネゾリドはバンコマイシンとともに、数少ない抗MRSA薬である。当院では、リネゾリドが平成19年に臨床使用開始された直後にリネゾリド耐性菌が分離された。耐性機構解析の結果、他施設でも報告されている23SrRNA変異であることを明らかにした。その後、リネゾリド耐性機構として、リボゾームタンパク変異、cfr 遺伝子などが報告されたが、今回、当院で分離されたリネゾリド耐性腸球菌は上記のいずれでもないためその耐性機構解析を急ぐ予定である。 2. 多剤耐性Acinetobacter baumannii:本研究期間に分離されたすべてのA baumanniiの抗菌薬感受性検査の結果を監視しているが、少なくとも5%は、厚労相が規定しているMDRAの定義の3系統薬剤(カルバペネム、アミノグリコシド、フルオロキノロン)の一つ以上に耐性を示している。その中で、カルバペネム耐性について解析を行ったところ、メルカプト酢酸抑制試験陰性株では、OXA型カルバペネマーゼ遺伝子のうちOXA23保有で耐性の説明がついたものが多かった。一方で、メルカプト酢酸抑制試験陽性で既知のメタロβラクタマーゼ遺伝子の同定が不可能であった株も多く、それらの同定を課題とする。
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