2013 Fiscal Year Research-status Report
日本人悪性中皮腫に高頻度で見出された3p領域欠損の機能解析と診断への応用
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24590715
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Research Institution | Hyogo Medical University |
Principal Investigator |
玉置 知子 (橋本 知子) 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (10172868)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉川 良恵 兵庫医科大学, 医学部, 助教 (10566673)
森永 伴法 兵庫医科大学, 医学部, 非常勤講師 (10351818)
久保 秀司 兵庫医科大学, 医学部, 准教授 (10441320)
中野 孝司 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (10155781)
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Keywords | 悪性中皮腫 / クロマチン構造 / ゲノム不安定性 / ヒストンアセチル化 / 転写制御 |
Research Abstract |
日本人の悪性中皮腫(MM)のゲノム変異について、H24年度に引き続いて検討した。これまでの我々は、3p21領域のBAP1遺伝子変異を本邦の上皮型悪性中皮腫の大多数に検出し、さらにBAP1周辺に位置するPBRM1にも変異が及ぶMM細胞を見出していた。よって、H25年度にはMMでの3p21領域の不安定性を詳細に検討した。ゲノムコピー数解析より微細欠失等を検出したが、その位置はMMごとに異なっており、数例以上に共通する部位はなかった。 一方で我々は、放射線照射によるクロマチン障害の修復にBAP1が関わることを見出していた。クロマチン構造はヒストンのアセチル化状況で変化し、ヒストン脱アセチル酵素阻害剤(HDAC-I)は、ヒストンをアセチル化させ遺伝子転写を促進させる。HDAC-Iで転写が促進されるのは主として細胞増殖の抑制・細胞分化誘導に関わる遺伝子であり、p53やRAS変異を持つ進行・難治性の癌にもHDAC-Iは効果を示すことから、我々は予備実験でMMへのHDAC-Iの効果を検討していたが、大半のMM細胞株は期待したほどの細胞増殖阻止効果を示さなかった。今回、複数のHDAC-Iを用いてのMMのヒストンアセチル化レベルを検討した。その結果、アセチル化抵抗性株を複数認めた。 ゲノム不安定性およびヒストンアセチル化阻害の原因を検索するため、我々はMM6サンプルについてゲノム定量および次世代シークエンサーによる全エクソーム解析を行った。その結果、①半数のMM細胞は、3p21のBAP1周辺の遺伝子群にも両アレル欠損をもつこと、②すべてのMM細胞は、転写制御やクロマチン構造制御に関係する遺伝子群に稀な「多型」や変異を5~10個有すが、変異プロファイルは細胞ごとに異なること、を見出した。これらの要因が複合して、MMの悪性化、治療抵抗性の原因となっている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
HDAC-I抵抗性の解明が必要となり、当初の計画よりも遅れている。本研究計画の当初は、MMでは少数のマスター遺伝子の機能障害から、クロマチン構造とゲノムの不安定性が起こったと推測していたが、H25年度の結果からMM全体に共通する少数のマスター遺伝子変異は見られず、細胞ごとに異なる転写制御遺伝子変異プロファイルを持つことが明らかになった。よって少数の遺伝子を発現ベクターで回復する当初の実験計画には実効性がないことが判明した。以上の結果から、当初の実験予定の変更を余儀なくされた状況となり、計画の再考が必要となったことが、遅延の理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
H25年度の結果から、MMの原因となる少数のマスター遺伝子変異の存在が期待できないことが判明した。よって、MM細胞毎に、遺伝子変異プロファイルにあわせて10個程度の遺伝子発現ベクターを構築して導入するという実験を行っても、その成果が臨床に還元できる可能性がほとんど無いことが判明したことにもなる。 しかし、MMで複数の転写制御遺伝子群の多型・変異状況が判明したことは、下記の可能性を示唆している。①組織・胸水細胞でこれらの遺伝子群の多型・変異を網羅的にしらべることがMM早期診断につながる、②MM患者の正常ゲノムでのこれらの遺伝子群の多型・変異状況が明らかになれば、MMの易罹患性のゲノム指標となる。よってH26年度には上記を目的に症例を増やして検討を重ね、本研究計画の当初の目的を達成する。 MM細胞は転写制御遺伝子の欠損/変異を多数持つが、そのプロファイルがMM細胞ごとに異なるというH25年度の結果は、転写制御遺伝子群のどれかに乱れが生じて、複数の遺伝子変異がさらに蓄積され、最終的には転写制御全般の異常を生じることでMMが完成する、というパスウェイを示唆する。しかもこれらパスウェイの始まりも途中経過もさまざまである。これらの複数のパスウェイのどこにアスベスト曝露が関与するかを明らかにできれば、MM発症の抑制も可能になるかもしれない。また、クロマチン構造制御障害の修復経路を検討することから、新たな分子治療方策を提案できる可能性がある。
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Research Products
(1 results)