2012 Fiscal Year Research-status Report
金属結合タンパク質メタロチオネインは肥満の性差発現を規定する
Project/Area Number |
24590771
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokushima Bunri University |
Principal Investigator |
川上 隆茂 徳島文理大学, 薬学部, 助教 (40441589)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 肥満 / メタロチオネイン / 性差 / 脂肪組織 |
Research Abstract |
メタボリックシンドローム発症の最も上流に位置する異常は、内臓脂肪の過剰な蓄積(肥満)であるが、この肥満発症には性差の問題がある。我々は雌性メタロチオネイン(MT)欠損マウスが長期間の高脂肪食摂取により、野生型と比較して易肥満性であることを報告している。本研究では、雌雄の野生型およびMT欠損マウスに標準食および高脂肪食を35週間自由摂食させ、肥満発症の性差の有無、さらに耐糖能機能や動脈硬化発症リスクを検討した。 (1)体重および腹腔内の白色脂肪組織重量より、雌性MT欠損マウスの高脂肪食群で易肥満性、雄性で肥満抵抗性を示した。また、雌性MT欠損マウスの高脂肪食群は野生型マウスと比較し、白色脂肪組織中において脂質取り込み因子であるVLDL受容体および肥満関連遺伝子Mest mRNA発現量の著しい増加が認められたが、雄性では両遺伝子の増加抑制を認めた。このことから、性別によりMT遺伝子は白色脂肪組織の脂質取り込みに対し異なる影響を与えることが示唆された。(2)雌雄ともにMT欠損マウスの高脂肪食群は野生型マウスと比較して、肝臓で多数の脂肪滴を認めた。(3)糖負荷試験より、雌雄ともMT欠損マウスの高脂肪食群は、野生型マウスより耐糖能異常が軽微であった。さらに、MT欠損マウスは野生型と比較して、血症インスリン値の有意な上昇を認めたことから、高脂肪食摂食に対する代償性インスリン分泌が影響した可能性が示唆された。(4)MT欠損マウスは、両性とも動脈硬化発症に関与するPAI-1 mRNA発現量の基底レベルの増加が認められた。 以上、MT欠損は高脂肪食摂食時に耐糖能や脂肪肝に対して各々特異的な作用を有するだけでなく、雌性では肥満発症を促進する一方、雄性では抑制作用を示した。従って、MT遺伝子は高脂肪食摂取時のメタボリックシンドロームの性差発現に対する新たな制御因子となりうる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、当初の予定通り雌雄の野生型およびMT欠損マウスに短期(8週間)、中期(16週間)および長期間(35週間)高脂肪食を摂取させたモデル動物を作製した。主に長期間摂取させた雌雄両系統マウスの血中生理活性物質、肝臓および脂肪組織切片作製、脂肪組織における脂肪細胞機能制御遺伝子の比較解析をおこなった。これらの解析から長期間の高脂肪食摂食下のMT欠損マウスは雌性では肥満の発症、雄性では肥満抵抗性であることを示し、それには脂肪組織における脂質取り込み能や肥大化遺伝子発現量の差が認められたことから、肥満発症の性差メカニズムの解析上、有用なモデル動物であることを確認することができ、初年度の計画としておおむね予定通りの進行と判断することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度では、去勢MT欠損マウスを用いたテストステロン濃度変化による肥満発症への影響解析を主に行う。本項目では、雄性MT-I,II欠損マウスを去勢処理、あるいは去勢した後にテストステロンを持続的に補充することで、MT遺伝子非存在下でのテストステロンの肥満発症への影響並びに性ステロイドホルモンとMT遺伝子の生理的意義の解明を試みる。具体的には、雄性8-9週齢のMT-I,II欠損マウスをイソフルラン麻酔下で、腹腔内脂肪を取り出さないように精巣および精巣上体を摘出し、これを去勢群とする。また、テストステロン補充群として去勢したマウスにエナント酸テストステロン(0、1、5、15、30 mg/kg)を週一回筋肉注射し、高脂肪食を自由摂食させ、肥満および脂肪肝発症の差を検討する。解析項目や対象遺伝子群は前年度に行ったものを中心に解析する。また、時間的・経済的余裕がある場合は、MT欠損マウスに金属(亜鉛、コバルト、ヒ素、水銀、カドミウム)を曝露し、MT遺伝子非存在下における金属が肝臓および脂肪組織に与える影響について検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
マウスの維持に必要となる滅菌済床敷、ケージ、食餌(HFD-32)、mRNA安定化剤などに25万円、脂肪組織および肝臓組織学的検索(組織固定用試薬、染色用試薬、スライド)に15万円、血中インスリンおよび生理活性物質測定(ELISA)に50万円、脂肪細胞機能制御遺伝子およびエネルギー代謝関連遺伝子発現量測定(PCR解析、ウェスタンブロット)に60万円、論文校閲に20万円、学会参加に10万円を計上する。
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