2013 Fiscal Year Research-status Report
iPS細胞からの軟骨分化システムを用いた先天性骨・関節疾患の網羅的解析法の開発
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24591507
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
梅田 雄嗣 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80397538)
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Keywords | iPS細胞 / 軟骨 / 先天異常 |
Research Abstract |
ヒト多能性幹細胞(ES/iPS細胞)からの3系統の軟骨・骨分化誘導システムのうち、完成度の高い神経堤細胞由来の軟骨前駆細胞を用いた分化誘導システムを用いて、in vitro・in vivoで形成された軟骨・骨の表現型評価法の確立を試みた。 ES/iPS細胞をマトリゲルコートした培養ウェル上に付着させ、無血清培養条件下でTGF/Nodal/Activinに対する小分子インヒビターSB431542やbFGFを添加し、高い軟骨分化活性を有するCD271+PDGFR+ CD73+間葉系細胞を大量に増幅した。この軟骨前駆細胞をPDGF-BB・TGF-β3・BMP-4を加えたin vitro三次元培養に移して3~4週間培養すると、径10~15mmのペレットが形成された。組織学的検討では、ペレットは一様にアルシャンブルー染色・コラーゲン2型の免疫染色が陽性であった。リアルタイムPCR法では軟骨ペレットはSOX9・NKX3.2などの軟骨前駆細胞マーカーや2型コラーゲン・COMPなどの成熟軟骨細胞マーカーが高い発現を示し、肥大型軟骨マーカー10型コラーゲンや骨形成マーカーRUNX2の発現はほとんど認めなかったため、均質な成熟した軟骨組織で構成されていることが明らかとなった。 モザイク型CINCA症候群患者の皮膚由来の線維芽細胞から原因遺伝子の変異がある細胞、ない細胞型をサブクローニングし、3または4つのリプログラミング因子を遺伝子導入する事により野生型・変異型iPS細胞を作成した。樹立したiPS細胞は正常核型、未分化マーカー発現、in vitroまたはin vivoでの多分化能を確認した。得られた患者由来iPS細胞から神経堤細胞由来軟骨前駆細胞を分化誘導し、in vitro三次元培養を行うと野生型iPS細胞と比較して有意に巨大な軟骨ペレットが変異型iPS細胞より形成され、軟骨・骨過形成を示す本疾患の病態が忠実に再現されている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主目標の一つはヒトES/iPS細胞から誘導された3系統(沿軸中胚葉・側板中胚葉・神経堤細胞)由来の軟骨前駆細胞を経て分化誘導された軟骨・骨の表現型評価法の開発である。昨年度の検討では、軟骨前駆細胞のin vitro三次元培養により得られた軟骨ペレットを用いた免疫染色やリアルタイムPCR により、軟骨前駆細胞から成熟軟骨や骨への分化過程における生物学的特性や分化・増殖に関与する転写因子活性の評価法を確立することができた。 また、本研究における最大の目標は患者iPS細胞を用いた先天性骨・関節疾患の病態および新規治療法を網羅的に解析する動物モデルの確立であり、平成24年度の検討では軟骨前駆細胞の三次元培養により得られた小軟骨片のNOD/SCID/cnullマウスへの皮下移植により、軟骨から骨への最終分化に至る過程が観察され、生体内で観察される内軟骨性骨化を動物モデル内で再現出来ることが明らかとなった。昨年度は先天性骨・関節疾患の一つであるCINCA症候群患者からiPS細胞を樹立し、ES・iPS細胞と同様の分化誘導法を用いて神経堤細胞由来の軟骨前駆細胞を大量増幅し、in vitro三次元培養により成熟軟骨組織の形成が確認された。この結果は本培養システムが先天性骨・関節疾患の患者由来iPS細胞にも適用が可能で、かつその疾患病態を忠実に再現できていることを示しており、疾患特異的iPS細胞を用いた先天性骨・関節疾患の病態解明や新規治療開発への応用に展開するための基盤研究を行う上で大きな進展と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24・25年度の検討で明らかとなった結果を元に、今後は以下の研究を推進して行く予定である。 (1)患者由来iPS細胞を用いたin vivo内軟骨性骨化システムによるCINCA症候群の病態の再現とその表現型の評価 平成24年度に開発した小軟骨片のNOD/SCID/cnullマウスへの皮下移植法を用いて、CINCA症候群患者から作成したiPS細胞由来の軟骨前駆細胞のin vivo内軟骨性骨化を試み、本疾患に特徴的な病態である骨幹端の軟骨前駆細胞の異常増殖による軟骨・骨過形成が再現可能かを組織学的に検証する。さらに得られた移植片については、平成25年度に開発した軟骨前駆細胞から分化成熟軟骨や骨への分化過程における生物学的特性、分化・増殖に関与する転写因子活性の評価法を用いて解析し、病態解明や新規治療開発への応用に展開する基盤データの作成を目指す。 (2)その他の先天性骨・関節疾患iPS細胞の樹立、軟骨・骨への分化誘導とその表現型の評価 神経堤細胞(Treacher Collins症候群など)、沿軸中胚葉(軟骨無形成症など)由来の軟骨・骨形成障害に異常がある疾患のiPS細胞を樹立する。樹立されたiPS細胞は正常核型、未分化マーカー発現、in vitroまたはin vivoでの多分化能を確認する。続いて疾患iPS細胞を3系統の分化誘導システムを用いて分化させ、前駆細胞の発生過程をフローサイトメトリーで評価する。さらにin vitro三次元培養により成熟軟骨を形成し、昨年度開発した軟骨・骨の分化過程における評価法を用いて解析する。最後にはin vivo内軟骨性骨化システムによるCINCA症候群の病態の再現を試み、その表現型の評価も併せて行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
下記使用計画のため、次年度も研究費が必要となる。 経費の主要な用途は培地、抗生物質、ウシ血清、培養用フラスコ・ディッシュ・ピペット等のプラスチック器具、硝子器具、成長因子、抗体、PCRプローブ、免疫不全マウス、RNA抽出・リアルタイムPCR・免疫染色に関連した試薬の購入である。また情報交換や学会で研究成果を公表するために必要な出張経費も適宜必要となる。これらを本研究経費から支出する事は十分妥当と考えられる。 平成24・25年度の検討で明らかとなった結果を元に、以下の研究を推進して行く予定である。(1)患者由来iPS細胞を用いたin vivo内軟骨性骨化システムによるCINCA症候群の病態の再現とその表現型の評価:CINCA症候群患者から作成したiPS細胞から軟骨前駆細胞を大量に増幅する。軟骨前駆細胞を三次元培養に移して得られた小軟骨片を免疫不全マウスへ皮下移植し、約3か月後に組織を取り出し、組織学的に評価する。(2) 先天性骨・関節疾患iPS細胞の樹立、軟骨・骨への分化誘導とその表現型の評価:Treacher Collins症候群や軟骨無形成症などの患者からiPS細胞を樹立する。得られたiPS細胞はG-バンド法で核型を確認し、フローサイトメトリー・リアルタイムPCR・免疫染色を用いて未分化マーカー発現やin vitroまたはin vivo多分化能を確認する。さらにin vitro三次元培養により成熟軟骨を形成し、昨年度開発した軟骨・骨の分化過程における評価法を用いて解析する。
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