2012 Fiscal Year Research-status Report
乳児期における人見知りのメカニズム:行動―脳―遺伝子の多角的解析
Project/Area Number |
24600028
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
松田 佳尚 独立行政法人理化学研究所, 情動情報連携研究チーム, 客員研究員 (60342854)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小西 行郎 同志社大学, 心理学研究科, 教授 (40135588)
渡部 基信 同志社大学, 赤ちゃん学研究センター, 研究員 (30649306)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 人見知り / 気質 / 脳機能 / 遺伝子多型 / 乳児 |
Research Abstract |
本研究の目的は、生後6~12ヵ月の乳児期にみられる人見知りのメカニズムを「行動―脳―遺伝子」の3つのレベルで明らかにすることである。本年度は「行動」から人見知りを明らかにした。 人見知りのメカニズムは何か?他人を恐れての回避行動か?養育者への接近行動か?それとも両方なのか?という問いを立て、乳児57名の気質調査を行い、乳児の「人見知り」、相手への「接近」、「怖がり」の気質の関係について調べた。その結果、人見知りの強い乳児は、「接近」と「怖がり」の両方を強く持ち「近づきたいけど怖い」という「心の葛藤」をもっていることが分かった。また、視線反応計測によって、人見知りの乳児に、母親と他人の顔映像を見せ、相手のどこに注目しているのかを調べた結果、母親であろうと他人であろうと、最初は「目」を注視することがわかった。さらに、自分と向き合った顔(正視顔)とよそ見をしている顔(逸視顔)の映像を見せたところ、よそ見をしている顔を長く観察することがわかった。 今回の成果によって、わずか1歳前の乳児でも、他人は怖いけれど近づいてもみたい「心の葛藤」を抱え、さらに最初に相手を見る時は、相手の感情や意図を表す「目」に敏感でありつつも、向き合った顔からは目を逸らしてしまうという、感受性の強さが人見知りの本質であると示唆された。 今回の発見は、乳児の「目の動き」を手がかりとした「心の葛藤」をモニターできるツール開発や、気質検査による個別能力開発への応用が期待できる。また、人見知りのメカニズムを知ることで、逆に人見知りを「全くしない」とされる発達障害の理解にも役立つ。 本研究結果は、PLOS ONE誌に論文受理され(2013年4月25日)、閲覧可能日と同時にプレスリリースをする予定である(6月上旬予定)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者が2012年12月に異動したため(理化学研究所→同志社大学)、新たな環境整備に時間を費やされた。しかし、研究分担者の協力で、思いの外、順調に整備が整った。
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Strategy for Future Research Activity |
乳児期では扁桃体など皮質下構造が先に成熟し、大脳新皮質は遅れて発達する。そのため、大脳・腹内側前頭前野から扁桃体へのブレーキ(抑制)がかかりにくく、結果、扁桃体が過剰反応しやすい。人見知りでは、この扁桃体からの恐怖信号によって他者の回避行動がたやすく誘発されると考えられる。同様に、側坐核や腹側線条体といった報酬に関与する脳部位も過剰に反応するため、養育者への接近行動が顕著に誘発されるのだろう。すなわち、乳児では恐怖条件付けに必要な神経回路も、古典的条件付けに必要な神経回路も、大人に比べて容易に活動する。この大脳と皮質下構造における発達のアンバランスこそが人見知りを引き起こすのではないだろうか?さらに人見知りは個人差が大きい。原因として、大脳―皮質下に発現している遺伝子産物の違いが挙げられる。たとえば、恐怖行動やストレス応答に関わる遺伝子産物として、セロトニントランスポーター(5-HTT)やモノアミン酸化酵素A(MAOA)が知られている。一方、報酬応答や選択的注意に関わる遺伝子産物はカテコールOメチル基転移酵素(COMT)や、ドーパミン・トランスポーター(DAT)がある。成人におけるこれら遺伝子多型が行動の違いを反映していることは知られているが、乳児における個人差の研究は始まったばかりである。さらに同じ遺伝子多型のタイプであっても、環境によって発現量に差が出るエピジェネティック修飾が知られている。実際、乳児院に預けられて日ごろの接触がない場合、母親であっても人見知りをする。そのため、行動学的指標や性格検査と比較して、行動―遺伝の対応関係を照らし合わせる必要がある。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は研究代表者が異動したため(理化学研究所→同志社大学:2012年12月)、研究を一時中断せざるを得なかった。そのため未使用額が発生し、次年度の遺伝子解析の費用に充てる。乳児の口腔内粘膜から細胞を採取するため、採取キットを購入する。さらに採取した細胞からDNAを精製し、遺伝子解析を行うための費用が必要である。
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Research Products
(3 results)