2012 Fiscal Year Research-status Report
ポストコロニアル状況における「在日」の知の現在―その「独自的普遍」を問う
Project/Area Number |
24617001
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
真鍋 祐子 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (00302258)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 在日コリアン / ポストコロニアル状況 / 知識人 / 独自的普遍 / 知識社会学 / 文化人類学 / 多文化共生 |
Research Abstract |
本研究の目的は日本社会における「在日」研究者・知識人の誕生とその知の構築過程を明らかにすることである。平成24年度の研究実施計画では70年代以降の在日知識人たちの言論活動とそれが日本社会に与えたインパクトについて、1975~2000年における在日系論壇誌の展開過程を時系列的に検討することを目標とした。 まず『季刊三千里』『季刊民涛』『青丘』『ほるもん文化』『統一評論』などの論壇誌を収集し、年代・著者・論題・備考の項目に沿った詳細なインデックスの作成に着手した。これは特定国家に対するナショナリズムとは距離をおく在日独自のアイデンティティがいかに形成され、時代状況に即していかなる問題群が論点とされ、在日の知がいかに展開されてきたかを俯瞰するうえで不可欠な作業と位置づけられる。 次に在外コリアンのネットワークを通じた情報交換が、特に80年5月の光州事件以降、ポストコロニアル状況の先取りとして在日論壇にいち早く取り込まれることで、これが日本や韓国の社会にいかに再帰され、韓国民主化に対しいかなるインパクトをもたらしたかに注目し、その考察の一部を成均館大学校東アジア学術院・京都大学人文科学研究所・東京大学東洋文化研究所による共催学術シンポジウム「東アジアの『記憶』」(平成25年1月25日)において発表した。「韓国現代史と『記念日』の創造」と題した論稿で、韓国民主化運動を通じて光州事件の「5・18」と済州島4・3事件の「4・3」が記念日とされる過程に注目し、これをローカルとナショナルの歴史記憶の統合としてとらえることで、そこに在日コリアンのネットワークによる情報と知が介在し、わけても総連系の論壇で在日朝鮮人史への埋め込みがなされたうえで、韓国民衆史として再帰された点を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
まず在日系論壇誌の展開過程を検討する作業において、当初の予想よりも内容が豊富であり、時系列に沿った索引だけでは全体を俯瞰するに十分ではないことに気づき、備考欄に論文要約と著者属性の欄を加え、さらに日本および韓国の同時期の年表と対比させながら作成することにしたため、年度内に全てを終えることができなかった。 また夏以降の反韓・嫌韓の風潮の中で、在特会(=「在日特権を許さない市民の会」)の街宣活動や朝鮮学校無償化をめぐる問題が持ち上がり、ヘイトクライムなど在日コリアンを取り巻く新たな政治状況に直面する事態となり、交付申請時には調査対象としなかった在日知識人・文化人による政治的発言にも目配りし、彼らが主な活動の場としているメディアとしてのSNSにまで射程を広げることで、そうした新たな局面にも応用可能な切り口を模索する必要を痛感し、その方面での資料収集も同時に行なうことになった。 上記の理由により、予定していた在日一世に対するインタビューに取り掛かることができなかった。在日系論壇誌の収集とその整理を進める一方、在日一世の知識人・文化人にかかわる著作の収集はほぼ達成したものの、ポストコロニアル状況が再び問い直されることになった日本社会の現況までも含め措いた上で、研究の観点を鍛え直し、具体的な聞き取りの項目についても再考する必要を覚えたからである。そして、この要因が冒頭にあげた在日系論壇誌を俯瞰する作業にも影響を及ぼし、現状を踏まえた新たな観点を導入しながらの索引作成を再考せざるをえなくしたことは言うまでもない。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題の今後の推進方策は基本的に交付申請時より大幅に変更しないものとする。つまり今後の研究も引き続き、日本社会における在日の研究者・知識人の誕生とその知の構築過程、日本社会に対するインパクトを明らかにするという目的において、在日の知の系譜に関する知識社会学的研究と、在日コミュニティにおける個人の生活史を軸とした文化人類学的研究を、並行して進めることで、日本社会あるいは日韓の社会に占めるその「独自的普遍」を問うという趣旨で進められる。 しかしながら在日コリアンをめぐるヘイトクライムの社会問題化が顕著となった平成24年度以降の状況に照らした場合、再びポストコロニアル状況が前景化されつつある中での、これに対抗する在日の知識人による新たな知の展開を看過することはできないと考える。また一言で「在日」といっても、同じ世代でありながらも朝鮮学校などに投影される「在日」の自画像が全く正反対である場合も多く、SNSではそれぞれに日本人フォロワーを巻き込みながら対立し、互いにブロックしあっている様相も見出された。このような在日間の「分断」のあり方は、「38度線」に代わる新たなポストコロニアル状況の局面ととらえられる。 上記の点を新たな論点として踏まえることで、社会学者の金明秀、ジャーナリストの李信恵、高英起など、ネットを主な言論の場として絶大な波及力をもつ若手知識人についてもその言動をリアルタイムで捕捉し、フォロワーとのダイアローグを含めて考察の対象とすることで、これを本研究の課題である「ポストコロニアル状況における『在日』の知の現在」に新たに含みこむ方針である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度から持ち越した研究計画として、まず在日系論壇誌の索引作成を完成させるための人件費、および主に70年代の論壇誌で活躍した在日一世の知識人への聞き取り調査に必要な国内旅費と謝礼に、研究費全体の約5分の2にあたる20万円を割り当てる。 次に交付申請時に平成25年度研究実施計画に記したとおり、80年代以降、西欧社会で勃興したポストコロニアル、カルチュラル・スタディーズの学問的潮流を摂取し、独自の研究として結実させた在日二世の知識人に焦点をあてる。在日に対比される存在としてサイード、ホール、ファノンなどをとらえ、そのポストコロニアルやカルチュラル・スタディーズの言説がいかに受容され表象されたかについて、文献収集と聞き取り調査に20万円を割り当てる。 そして在日一世および在日二世の知識人に対するインタビューのテープ起こしと校閲などに必要な人件費として6万円を予定し、残額は予備費とする。
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Research Products
(1 results)