2013 Fiscal Year Research-status Report
ポストコロニアル状況における「在日」の知の現在―その「独自的普遍」を問う
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24617001
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
真鍋 祐子 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (00302258)
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Keywords | 在日コリアン / ポストコロニアル状況 / 知識人 / 独自的普遍 / 知識社会学 / 文化人類学 / 歴史認識 / 多文化共生 |
Research Abstract |
研究実績は以下の3点である。 1)今年度上半期、前年度より継続してきた『季刊三千里』などの在日系論壇誌に関する索引作りを完了した。これにより、時代ごとに、①争点、②代表的人物、③日本社会との相互作用、④韓国社会との相互作用、を俯瞰することができるようになった。 2)続く下半期は、1世と2世を中心とした1)に対し、その連続性の上に、3世を中心とする中堅・若手の在日の研究者たちの研究活動とその視点を位置づけようとした。書誌情報、およびSNSなどを通じた言論活動の履歴を収集し、その学術的な関心と視座がどこにおかれているか、いかなる文脈で日本社会に受け入れられているかを、在日という生育歴に起因する、マジョリティからは異化された独自の生活経験という視点から読み解くことを目的とした。在日に対するヘイトクライムがより激化する中で、ポストコロニアル状況を所与とした知的活動が活発になされる一方、在日の脱神話化を論じる活動も活発化している。後者は『諸君!』『正論』などの保守論壇に受容され、ヘイトクライムに流用されることで、在日自身に投げ返されていると考えられる。ここで得られた新たな知見は、これをポストコロニアル状況におけるもうひとつの在日の「知」の系譜と見なさざるをえない、という点である。 3)在日朝鮮人史に、在日の知識人や研究者の活動を内発的に動機づけている独自的な「知」の脈絡を探る目的で、歴史認識に関わる三つの方向性から資料収集を行なった。①内在化された記憶と歴史認識の反映としての在日文学、②慰安婦問題をめぐる独自的な議論、③外在化された公的記憶としての朝鮮学校の歴史教育に焦点を当て、それぞれについて先行研究の情報を収集し、論点を整理するとともに、先行研究者からの助言を積極的に仰ぎつつ、次年度に予定するフィールドワークの下準備として、まず下関と北九州において予備的調査を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
在日系論壇誌の展開過程に関しては、備考欄の項目を増やしたことで、より精緻な索引を作成することができた。またそこから4・3事件や4・24阪神教育闘争など在日独自の記念日の在り方と、それらによって編まれる在日朝鮮人史を浮かび上がらせることができた。 一方、今年度の目標であった中堅・若手の研究者に関する情報は、上述の作業が今年度にずれ込んだため、収集と整理を終えることができなかった。しかしこれは想定の範囲であり、遅れとは見なしていない。 加えて、今年度は、昨年度にもましてヘイトクライムなど在日コリアンを取り巻く状況が厳しくなったため、引き続き留意しかつ収集すべき周辺情報が多く、昨年度同様に本研究の遂行に遅れを生じた要因となったが、これも想定の範囲であり、有意の遅れとは見なしていない。同様の状況は次年度以降も継続すると考えられるが、むしろそれを積極的に受け止めつつ情報収集を図ることで、最終的に研究目的の達成にくみすることができると考える。 在日の知識人、研究者の内発的動機として、個人史に根ざした独自の歴史認識に注目し、在日文学、慰安婦問題をめぐる在日研究者の論点、朝鮮学校における歴史教育という具体的な指標を立て、資料収集および次年度へ向けた予備的調査、フィールドワークの設定を行なうことができた。在日文学および歴史教育については当事者と研究者の双方に接点をもち、次年度以降の研究に向けた情報交換と助言を得ることができた。また慰安婦問題については、韓国人研究者たちの論点、日本人研究者たちの論点から相対化された、在日の研究者たちの独自的な論点に注目し、その背後にある意味を考察しようとした。その一部は大学院授業に還元することで、さらに議論を深化させることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題の今後の推進方策に大幅な変更はない。次年度以降も引き続き日本社会における在日の知識人・研究者の誕生とその知の構成、日本社会へのインパクトを明らかにするという目的のもと、知識社会学と文化人類学の方法を併用することで、在日知識人・研究者の知のあり方の「独自的普遍」を問う方向性で進めていく。また日本の保守論壇に受容される方の在日言論にも目配りをし、これを「38度線」に代わる新たなポストコロニアル状況の局面ととらえ、もうひとつの在日の「知」の系譜として、考察の対象としていくことにも変更はない。 一方、韓国では、非正規労働者雇用問題、国家情報院による大統領選挙介入問題、旅客船沈没事故など、新たな政治的局面を迎えており、SNSでは在日ユーザーを中心とした情報発信と政治的発言が活発に交換されている。まだ在日の著名人や知識人、研究者らによる積極的な発信は見られないが、そうしたネットユーザーたちの動きが、はたして80年代に見られたような在日社会から本国への再帰性を促すかどうか、注視していく必要がある。SNSにおける若手論客たちの言論活動と同様の比重で、本国の政治状況とそれに連動した日韓関係のあり方の変化を踏まえながら、この点についても在日の「知」を構成する新たなる要因として今後の研究課題に含みおき、慎重な情報収集を続けていかなくてはならない。
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Research Products
(1 results)