2014 Fiscal Year Research-status Report
ポストコロニアル状況における「在日」の知の現在―その「独自的普遍」を問う
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24617001
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
真鍋 祐子 東京大学, 大学院情報学環, 教授 (00302258)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 在日朝鮮人 / 済州島 / セウォル号事故 / 生活史 / 民主化運動 / 在日文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は在日朝鮮人と文学、在日朝鮮人の生活史と済州島4・3事件とのつながり、在日朝鮮人による韓国民主化運動への連帯運動および4・3事件の名誉回復運動、加えて個別の在日朝鮮人を対象とした生活史の聞き取りと資料の収集を実施した。 まず在日朝鮮人の知識人・文化人による在日朝鮮人生活史の表象として在日文学をとりあげ、韓国における在日文学専攻の研究者たちと情報交換を行なうとともに、個別の作家に対する資料収集と面談調査を行ない、在日朝鮮人としての歴史的経験が文学作品にいかに投影されているかを考察した。 また在日朝鮮人の多くの出身地である済州島において、4・3事件に対する名誉回復運動および、その表象としての追慕事業の経緯と在日朝鮮人とのつながりに関する資料収集を行なった。 さらに在日朝鮮人による韓国民主化運動に対する連帯行動は、旅客船沈没事故に対する真相究明運動にも拡大された。セウォル号遺族に連帯する在日朝鮮人たちによるSNSなどを通した言論を観察し、かつ資料収集に関して具体的な協力を受けた。また、かつて多くの在日朝鮮人が連帯を表明した光州事件と珍島、セウォル号遺族たちの連帯関係と、そこに関与する在日朝鮮人とのつながりを探った。さらに「セウォル号」「光州」「民主化」などが韓国のネット右翼によるヘイトスピーチの対象となっている事態にかんがみ、日本における在日朝鮮人を対象としたヘイトスピーチのあり方との比較考察という新たな視点のもと、両国におけるヘイトスピーチの実態を把握しつつ、両国の歴史修正主義の現状についても専門家より教示を受けながら資料や先行研究の収集を行なった。 あわせて、個別の在日朝鮮人の「独自的普遍」を問う観点から、数名の在日2、3世を対象としたインタビューを実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本課題での当初の計画では、個別の在日朝鮮人の生活史、およびコリアン・タウンとその送出先である主に済州島を対象とした文化人類学的な調査というミクロな研究と、日本社会において「独自的普遍」を体現した在日朝鮮人の知識人たちの仕事をめぐる文芸批評的な文献研究を二本柱とし、その他に特記すべき課題として韓国民主化運動に対して在日朝鮮人の知識人たちがはたした役割についても注目し、研究を実施するというものだった。 だが研究の初年度以来、在日朝鮮人を取り巻くヘイトスピーチ問題が顕在化したことに加え、昨年度にはセウォル号事故が発生し、同時に韓国社会でも「セウォル号」や「光州」へのヘイトスピーチ問題が顕在化したことで、当初の想定をはるかに上回る多くの視座が開かれることになった。 そのうち在日朝鮮人をとりまくヘイトスピーチ問題とこれに対抗する当事者たちの言論活動その他については、初年度より継続して経過を観察しつつ資料収集を行なってきた。この問題に付随して、70~80年代の日韓連帯運動を通じて韓国民主化運動に影響力を及ぼした日本のキリスト教界、および在日朝鮮人の存在が再認識されるに至った。高齢化した当事者への聞き書きを喫緊の課題として、予備的作業を行なった。 さらにセウォル号沈没事故は韓国社会を揺るがした。真相究明を求める家族たちは「従北」のレッテルを貼られただけでなく、「光州5・18」や「済州4・3」とともにヘイトスピーチの標的となった。これに対し、再び在日朝鮮人たちによるセウォル号遺族への連帯、4・3事件をめぐる記憶の闘いといった動きが起こされている。そこで彼らを取り巻く状況を多面的にとらえるため、韓国の歴史修正主義に関する資料調査も行なった。 加えて、当初の計画に沿った個人に対する生活史の聞き取りと、済州島地域社会と在日朝鮮人とのつながりに関する参与観察なども、実施することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は本研究の最終年度となるが、現在までの達成度にみるように、必ずしも当初に見通したとおりの研究の展開とはならなかった。それは本課題を申請する時点では予見もできなかった不測の事態が、日本と韓国の両国において生じたからにほかならない。具体的には、嫌韓をあおる日本社会のヘイトスピーチ問題、セウォル号沈没事故、断食籠城による遺族たちの真相究明運動とそれに対する激しい弾圧、韓国社会におけるニューライト勢力の台頭と、「セウォル号」や「光州5・18」「済州4・3」という「民主化」の歴史をめぐる韓国ネット右翼によるヘイトスピーチ問題、かつて日韓連帯を通して韓国民主化に貢献した日本のキリスト教界および在日朝鮮人をめぐるヘイトスピーチ問題、政治犯とされた在日朝鮮人元留学生に対する相次ぐ無罪判決といった非連続性の出来事である。 これらはいずれも直接的・間接的に在日朝鮮人の生き方にかかわることであり、個別の「独自的普遍」を構成する出来事でもあったと考えられる。そこで今年度は、本課題終了後にも引き続きさらなる研究を発展させるための前哨戦と位置づけたい。在日文学研究や個別の生活史研究、および文化人類学的なフィールドワードといった従来の計画は機会が許す限り継続しながらも、非連続性のテーマに若干の比重をおいた調査研究を行なう方針である。わけても韓国民主化運動や4・3事件、歴史認識問題、ヘントスピーチ、セウォル号事件などをめぐる在日朝鮮人知識人の役割に関しては、これまで申請者が行なってきた研究との連続性という観点からも、また同時代性という意味でも、集中的に資料の収集および当事者への聞き取りを進めていきたい。
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Research Products
(3 results)